Hand In Hand! この世界は、とてもじゃないが優しくない。それを一番はじめに知ったのは6歳の時で、二番目に知ったのはついこの間だった。
「えへへ」 「……今だけだぞ」 「はぁい」
人混みの中で、彼の手はいくぶん汗ばんでいた。はぐれないようにするには、これしかないのだ。俺も天馬も、林檎飴片手に光の中を歩く。 稲妻町の夏祭りはいつも派手だ。商店街の装飾は仮面舞踏会のように華やかになり、即席屋台が軒を連ねる。クラスメイトも続々と俺のすぐ脇を通るが、みんな目の前の光に夢中だから、まさか同学年の同性と手を繋いでるなんて気づかれないだろう。 きっと。 たぶん。
「剣城ーたこ焼きたべたいー」 「買ってくればいいだろ」 「一緒にいこ!」 「……ハァ」 「なにさあ、ため息は幸せが逃げるんだよ? 知ってる?」 「知ってる」 「ならよかった」
自分の甚平でごしごしと手のひらを拭った天馬は、また俺の手と繋ぎ直して笑った。
「解決になってないって言う?」 「わりと。それでたこ焼きは?」 「食べるよ。剣城も食べる?」 「奢りなら」 「なにそれぇ」
ずるいよ、とは言っても繋がれた手の力を緩めることはない。中学生のお小遣いなんてたかが知れてるのにたこ焼きニケースなんて買えるんだろうか。
「人、多いねえ」 「祭りなんて久々に来た」 「へえ」 「小六のときは行かなかったから、懐かしいな」
甚平の袂から財布を取り出した天馬は、百円玉だらけの中身を漁っている。妙に重そうだ。俺は一応自分のぶんの金を用意したけど、どうやら足りたようだ。若い男性がソースを塗っている。
「……ぼったくりでしょ」 「こんなもんだろ」 「剣城んちはリッチだからそういうこと言えるんだってば」
林檎飴を持っているほうにわざわざ袋を移して、彼はまた手を繋いだ。暑くないのか、と思う。飽きもせずに逐一引っ張られる腕をみたところ、あまり深い考えがあるわけでもなさそうだ。 自分でも気づかないほどのお人好し、とか。
「どっか座るか。食べちゃってからまた歩こうよ」 「暑く」 「ん?」 「ないのか?」 「ぜんぜん」
即答の天馬にわりと拍子抜けした。ひとつもふざけずに、本当にあたりまえのことのように、歯を見せて笑う。
「剣城は手繋ぐの、いや?」 「……黙秘権」 「照れるなって」 「るせぇ」 「剣城がいやじゃないならさ」
もう少しだけ、こうしてようよ。 深い青の瞳に、小ぶりの月が浮かんでいる。花火って何時からだっけ、と携帯を開く天馬のもう片方の手のひらを、俺はぎゅっと、力を入れて握った。握り返された小さなそれは、きっとどんなものよりも暖かくて、確かなものだ。理由はないけど、そんな気がする。
手を繋ごう その温度は 優しさに満ちて 暖かいから
手をつなごうで一本書きたかったのでてんきょちゃんですー ラストのサビの前の二人のかけあいがとってもすきです。ニクイねー!
←
|