だからきみと生きようと思うんだけど、どうかな
※アルファの過去捏造













けして、きらきらした世界で生きて来たのではないんだな、と思った。大体は予想通りだったし、まあ自分の生い立ちも似たようなものだったし、特に驚くことはなかったので、僕はただいつも通り、口数の少ない彼の隣に座っておとなしくしていた。そうするしかなかった、というのが本音かもしれない。


「……驚かないのか」
「うん。やっぱり、って感じ」
「そうか。なら」

大きな飴色の瞳をゆっくり泳がせたアルファは、そのまま僕の腕をとる。すごく、ゆっくりした動作だ。彼は彼自身の指で、枷のようなものをつくった。僕ががしゃん? と言ってみると、彼は自嘲の笑みを浮かべたまま僕の手に枷をかけた。
ノー、逃げられないのか。

「ひどい孤児院だったんだ」
「規律を守らない者は人権など知らないぐらい罰された。……当たり前のことだ。規律は守るためにある」
「規律、ねえ」
「私は模範生だった」

そこでリーダーシップをとるようになったアルファが時空間警察隊、即ちプロトコルオメガにスカウトされる為には、リーダー性だけでなく力を誇示しなければならなかったらしい。よくある話だ。
化身は発動者の気が具現化したものだから、それを見せて、忠誠心と才能をばっちりわかってもらえたんだとさ。めでたしめでたし。

「アルファは集団行動が好きなの?」
「任務に好きも嫌いも無いだろう」
「じゃあ、僕と二人きりは好き?」

不敵な笑みとはこういうのを言うのだろうな、と思った。耳のはしっこだけを赤に染めた彼の口からは肯定も否定も出てこないので、僕もちょっとだけ安心してみる。彼に白と黒以外の選択肢をつくったのは、紛れもない僕たちであることを僕は知っている。

「話を逸らさないでほしい」
「くそーばれた!」
「君のことは大体分かってきた」
「隠し事はほとんどバレちゃったしね……で、あとは何が言いたいんだい」

すう、と息を吐く細い声が閉じた瞼の表面だけを撫でた。外は雨だ。ここは二百年前の日本で、サッカー棟のサロン部分にあたる。きれいな階段がたくさんあって、もうこれは「座ってくれ」と言われてるようなものだ。


「本当の名前も名字も、家族も故郷も、その他生い立ちに関するものをほとんど私は持っていない。
君には名字があって、家族がいる。きっと菜花黄名子のような素敵な女性と結婚できる。君に息子ができたら、アスレイ・ルーンは笑顔で涙を流すだろう。君に幸福な未来がすぐそこまで迫っていて、

こんな私に君の幸せを奪う権利があるというのか?」



「……ばかだね」

唇を震わせながら早口に語ったアルファの目元は、自身の手のひらで覆われていて見ることはできなかった。なるほど、これが本題だったのか、と思った。
彼はほんとうにばかだ、だって僕が今幸せではないと思っているんだろう。アルファ。


「、すまない」
「あのねえ、僕が未来の存在について考慮してないとでも思った? 僕そんなに馬鹿じゃないよ。意味わかる?」

首を縦に振りながら、アルファはやっと顔をあげた。普段よりだいぶ幼く見えるのは、きっと前髪が乱れているからだ。

「あっは、真っ赤っかじゃん……ねえ、アルファ」
「……む」
「君が好きだ」

どんな君でも、君であるかぎり僕は君が好きだ。
何度でも言ってやる、だって擦りきれるもんじゃないから。言葉の質なんて落としてやらないから、だから僕といて幸せだ、って、言ってよ。
少しびっくりした顔をしていた彼は、また泣きそうに眉を寄せていたけれどすぐ表情を戻した。口元を緩めたアルファの目には片方だけ涙が伝っていて、いやに綺麗なそれは頬で留まっている。そして彼は、ありがとう、とも、わたしもすきだ、とも言わず、ただ僕の名前を呼んだ。

















ずっと書きたかったフェイアルを書きました。
イナクロの世界観が固まらないうちから(放映途中から)好きになったカップリングなので、多少印象の変動はありましたが熱は変わらず大好きなコンビです。
ゲームでは二人して元気にデッドフューチャーとエクストリームラビット打ってます。
タイトルは潜水おばけ様から





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