君の掌に託つけた永遠 彼の長くも短くもない指がプラスチックのボタンを押したとき、僕はなぜか真太郎を思い出した。真太郎の指は手の大きさに負けず白魚のようにすらりとしている。似ても似つかぬどころか、彼らには共通項がほとんど無い。 しばらく沈黙した後、がこん! と音がした。缶を持った光樹が、短く悲鳴をあげた。
「つめたっ!……あれ赤司、買わないの?」 「ああ。どれがいいかなと思って」 「きっと暖かいのがいいよ。サイダー大失敗」 「君はなぜ自分がマフラーを巻いているかについてよく考えた方がいい」
自動販売機の前に突っ立っていた光樹は、さっきまでの三白眼を急にふにゃりと崩して、サイダーのプルタブを開けた。だから寒いって言っているのに。しゅっと涼しい音がしたのと同時に僕の携帯電話が鳴って、メールの到着を伝えた。和成からだ。ふと和成と彼を重ね合わせてみると、意外にぴったりきた。なら真太郎は僕だ。
「お汁粉にしようかな」 「いいね」 「そんなに寒いんなら一口……何だい、呑気ににやけて」 「あー、いや、もらいます」 「頭が高いぞ」 「あはは、俺まだ眠りたくない」
意外な切り返しにびっくりした僕を見て、光樹は途端あたふたと弁解した。いや別にハサミ事件のこと引き摺ってる訳じゃないからうんぬん。僕からボケたのに何を言ってるんだい光樹。あれ、そうだっけ。
「……まあまあ衝撃の出会いだったからね」 「あれをまあまあで片付けられるところに俺は惚れるよ」 「そこだけ?」 「いや、そうじゃないけどさ」
僕自身、何で光樹がそばにいてくれているのか、いつもじゃないけど不安になったりしている。理由のいらない関係なんて彼が初めてで、しかも非生産的で、光樹にだって昔好きな女の子がいて。僕だってなかなかいろんなものを持っていたと思い込んでいたけれど、全て光樹の前では役に立たなかった。恋愛というカテゴリに分類されるものをほとんど持っていなかったせいだ。
「前さ、赤司、何で俺がお前のそばにいてくれてるのって訊いたよね」 「うん、そうだ」 「その時言えなかったから、改めて今言うんだけど」
寒い寒いと言いながら尚缶を手放さない彼は、唇をきゅっと結んで言った。未だに僕は、自動販売機のお汁粉のボタンを押せないでいる。人差し指の先に、緑色のランプがぴかぴかうるさく光っていた。
「おんなじこと。俺も考えててさ」
どきどきと、まるで漫画みたいな安易な音をたてて心臓が鼓動している。はにかむように、歯を見せないで笑う彼のきれいな瞳が、脇にあった小さな水溜まりを映して空色になった。
「俺なんかが、赤司の隣にいていいんだろうかって。だって赤司は頭もいいし運動もできるし、なんたってバスケ界ではものすごい有名人だよ? 劣等感、って使い方合ってるかな」 「……それを僕に言わせるのか」 「ケンソン、してるの?」
謙遜は君の方だと言おうとした口で小さく肯定の言葉を呟くと、とっさに謝られた。自信があるのかないのかわからない。
「でも、赤司の『そばにいていいのか』も、俺の『そばにいていいのか』も、結構似てると思うんだ。だからこうしようと思って」
彼はお金をいれたままで無駄に光を放っていたボタンを押して、自販機からがらんと転がり出たお汁粉を僕に手渡した。きっとちょうどいい暖かさなのだろうが、冷えた手のひらを添えると溶けだしそうな程熱い。 じんと痺れる手を、光樹が握る。缶に触った所以外は冷たい僕のと対照的に、指の先まで、芯から温かい手のひらだ。何をするでもない、ただ握るだけの行為。 たまに彼からされる、少しだけ突飛な行為が、僕は大好きなのだ。
「もう俺たちね、とっくに理由のいらない関係なんだよ」
切れ長の唇がぐにゃぐにゃと曲がる。眉を少し寄せて、困ったように笑う光樹が、冬の昼間の空気を通してぼやけて見えた。
「会いたいから会うんだ。話したいから話すんだ。なんてことない」 「……会いたい、というのは理由付けではないのか」 「願望と理由は違うんじゃない?」 「っ君と、日本語について議論する日が来ようとは」 「うーん、黒子だったらもっと分かりやすく説明するんだろうな。あいつ国語得意だし」
手を握ったまま真剣に考え込む光樹を見て、僕の心臓も同じように熱を持つ。きっとこの手は、僕が離してやれないのだろう。お汁粉は一向に冷める気配もなかったから、指をほどいて無理やり彼のポケットに押し込んだ。
「ハッピーバースデー」 「えっ誕生日プレゼントえっ」 「ジョークに決まってるじゃないか。ほら、帰るよ」 「帰るっつったって俺んちなんだけど……」 「君がいるところに、帰りたいのさ」
また繋がれた手を光樹のポケット(お汁粉入り)に二つとも突っ込む。温かいから、と理由をつけてみたけれど、光樹は笑って「だからいらないんだってば」と握る力を強めた。 飲みきったサイダーの缶を光樹がシュート、ゴミ箱の中でやけにうるさい音をたてた。そういえば真太郎は、ポケットの中に手を突っ込まれるのを嫌がるタイプだった。大輝とテツヤにされて怒っていたのを思い出す。 特徴のあるないは至ってどうでもいい。紛れもない光樹の指が自分の指に絡んでいる、その事実こそが重要なのだ。
誕生日まるっきり関係なくなりましたが降旗くんはぴば!! 降赤はなにもしていない、が映えるCPだと思います。この後お汁粉は光樹と征十郎がおいしく頂きました。 降→←赤時代が長いとかわいいなーとおもったのですが11月設定だと時系列がよくわからないことに気づきました。もうなんでもいいよ降赤なら
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