プラント・オパールの四十雀 #あざやかな、 (紫+キセキ)
10月9日。おれの誕生日は、それはもうなごやかに行われた。赤ちんがそれはそれはおっきなケーキ用意してくれたり、黄瀬ちんたちがプレゼントくれたり。中身は地方のお菓子の詰め合わせだった。箱にはかわいい水色のクマのイラストが印刷されていて、黒ちんに似ていたのが記憶に残っている。 いつもはムスーっとしてるみどちんが、めったに見せないようなやさしい顔をしていた。峰ちんも黒ちんにケーキケーキって急かして、げんこつもらっていた。 ほら、っておれを呼んだ赤ちんが電気を消して、カーテンを二重にひいた部室はまっくらだ。どこからかおもちゃの、あのペラペラで持ち運びできるキーボード、あれを取り出したみどちんが、ろうそくの灯りだけで「ハッピーバースデー」を弾く。あんまり音楽はわからないんだけど、きっとめちゃくちゃうまいんだろう。
「ハッピーバースデイ、トゥーユー」
幸せな誕生日を君に。小さくささやいた赤ちんの瞳は、まっすぐいちごの一粒に向いていて、なんだか恥ずかしくなってろうそくを吹き消した。もう中学生だというのに、みんなそろって拍手なんかするもんだからまた恥ずかしくなる。いや違うな、嬉しかったんだ。
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#想いに重さがあったら大変だ (月+日)
伊月君これ、とクラスの女子に言われ渡されたのは、きれいに包装された箱だった。彼女の席は俺から見て、ずうっと前にある。ありがとうと目をあわせたら、友達何人かと逃げるように退散してしまった。モテるってつらい。
「……嫌味かそれ」 「そうでもないぜ、だって付き合う予定も無いし」 「そーゆーのを嫌味っつーんだよだぁほ!」
正直部活が恋人だからなー、と語尾を伸ばしてみせると、我らが主将はフンと鼻を鳴らしてプリントを二つ折りにした。こいつの手を見るたび、小さいのによくやるな、と思ってしまう。いや俺のほうが身長低いんだけどさ。手だけは、なんでか俺のほうが大きかった。
「おい」 「なんだい子猫チャン?」 「うわーウッゼー」
浮わついたこと言ってる奴にあげたくねーなんて眉間に皺をよせている彼の手から、リボンのついた紙袋をもぎとる。結構軽くてびびった。武将フィギュアだったらどうしよう。その後俺の思考を遮ったのは、いつの間にかドアの外にいた木吉たちのクラッカー音だった。くそっ、嬉しくて潰れそうだ。
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#だけど今はほしくない (氷+紫)
っていうことがあってね? と会話を締めたアツシの顔が、みるみるうちに蒼白になっていく。どうかしたのかと問うと、
「いや室ちんさー……そっこまでキセキ嫌いな訳」
半ば呆れたように苦い顔をするアツシが何か剥いていると思ったら、無理やり俺の口にミルキーをねじ込んだ。
「あふひいひなりなにふるんは(アツシいきなり何するんだ)」 「……気づかねえの」
半眼の彼はまたポップなロゴの袋を漁る。甘いものは今はあまり食べたくなかったけれど、吐き出す訳にもいかない。アメリカのスイーツよりましだ。 ちらちらとこちらの様子を伺っていたアツシは何やらまごついていたが、やがて我慢できないとばかりに首にかけていたタオルを俺の顔に押し付けた。
「ハンカチ持ってるでしょ? もー、マジ世話焼けるし」
頬が濡れていることに、俺は全く気がつかなかったのだ。
「ごめん。泣かせるつもりはなかったんだけど」 「す、まない」 「なんで室ちんが謝るのさ。うん、おれらもちゃんと仲良しだったことあるんだよって、知ってほしかったから」
ああ、友達の友達に嫉妬するなんて。これがラブストーリーなら完璧だ。頬をとめどなく濡らすそれを隠すように顔を背けると、そこには大輪の花束があった。Dear.HIMURO。 なんだ、だからアツシは自分の誕生日の話をしたのか。
「まー今は陽泉もラクかなっておも……ねえ室ちんきいてる?」 「アツシぃぃい!!」 「うわちょ花束つぶれる」 「Happy birthday to you! I am fortunate to have such a good junior!!」 「はっぴーばーすでい? 今日の誕生日は室ちんでしょ」
君に会えたことに感謝の言葉を唱えよう。自分を祝うのは、それからでも遅くない。
10月誕生日の三人詰め合わせです! ひっそり書いていたものですが、どれもあまりに短すぎたためボツにしようか迷っていました……短いなら! まとめればいいのだよ!(悪知恵) 四十雀(シジュウカラ)は10月の季語、オパールも10月の誕生石です。プラントオパールは中に植物の化石が入っているもので、むっくんと氷室さんの話とあわせるといい感じーと思いつけました。過去をあまり振り返らないむっくんが覚えている数少ない中のひとつだといいな。 (#はタイトル)
「あざやかな、だけど今はほしくない想いに重さがあったら大変だ」
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