拍手(2011*12〜2012*09)
キスで窒息死@天京





そっと頬に留まったそれしか、彼は知らない。
口唇同士を触れ合わせ唾液を交換する術を知らないだろう、ごくごく一般的で初な中学一年生が、目の前で顔を鮮やかな紅色に染め上げている。中一だろう無理もないと言うと、でも剣城は知ってたんでしょうと返す言葉に若干棘を残す所が年相応で。キスの種類など自分でさえテレビや本の知識しかないから、どれだけ天馬が純粋無垢に育って来たのかが伺えた。
「じゃあ、教えてよ」
真剣な眼差しで眉間を凝視され可笑しさかひどくそこがむず痒くなる。そして身体のあちこちにむず痒さが転移して、最終的に心臓に止まった。このむず痒さは嫌いじゃないなと口のなかで気持ちを咀嚼すると、ぽかんとだらしなく開けた天馬の口内に舌ごとねじ込んでやった。




(こころが毒された憐れな少年)
(もうじき俺もオダブツだ!)




――――――

想いの重さで圧死@三拓





すきだ。
空気を含んで頭の上に留まった毛髪から引き締まった脹ら脛に負けないぐらいの爪先がすきだ。一つ上の学年らしく、ぽんと飛び抜けた身長差がすきだ。きゅっと硬い直線を描く睫毛がすきだ。
俺と彼に空いた隙間も、俺はすきだ。
でも隙間ごと愛し続けるには限界というものがある。俺の内側に渦巻く黒混じりのピンク色のそれが、彼に受け入れてもらえる確率は、限りなく0、だから。
この想いに捌け口など無いから、いつまで経っても満たされないのを周りに当たり散らす訳にもゆかず。いつになったら冷めてくれるのだろうこのダークピンクに、安っぽい涙だけが一粒落ちた。
「せんぱ、い」
「……ん、呼んだか?」
「あ、いえ、なんでも」




(早く消えちまえこんな心臓)
(そしたらぼくはらくになれるから)




――――――

恋い焦がれて焼死@聖円





名前を呼ばれた、まるで昔のように、豪炎寺、と、
だがその声帯は十年前のような甲高い響きを持ち合わせてはおらず。それもそうだ十年も前なのだ、だけど俺の中の彼は、いつまでもいつまでも、年をとらないような気がした。
慣れない片恋に痺れを切らしたのかも知れない。大体自分のやっていることもよくわからない。サッカーの支配がそのままサッカー少年の幸せに繋がるのかと言われても、さあ、と答えるしかないだろう。気を引きたくて、というのはすこしばかり幼稚な考え方なのだろうか、俺の時間は十年前から止まったままだ。
会いたいと願うだけならただなのだ。これから俺はまた、夕焼け色のヘアバンドを探してさ迷うんだろう。



(いつもお前は遅いなと、笑って受け止めてもらいたいだけなんだ)
(だからそんなに悲しそうな顔しないで)



――――――

愛に溺れて溺死@速浜





かちり、かちり。
首元にひっ掛けただけのヘッドフォンと彼のシンプルなゴーグルがくっついたり離れたりしていた。
顎の下から鼻先にかけて、しっかりした黒髪の潮の香りでいっぱいで、塩辛いそれが目に入った訳でも無いのに泣きそうになる。抱き締めあって、身体を揺らしているだけなのに、なぜ、どうして、こんなに安心しているのだろう。
「ハグ好きだろ?速水」
如何にも自分が満足しているかの如く鴎のようにワインとブラウンの瞳を細める姿に儚さを感じた僕は不謹慎者なんだろうか、そうではないと否定してくれる常識など今は要らない。
「はい」
「暖かい?」
「はい」
「ならもちょっと、こうしてよう」
丈の少しだけ短くなってしまった学ランに籠る力が強くなったことは僕しか知らないんだ。優越感と母なる海風に抱かれた僕らのなんと、神々しいこと!
僕はもう二度と、この海を離さないんだろう。このまま地面が抜けて、猛々しくも美しいあの海原に身を投げ出して、ふたりして死んでしまえやしないだろうかと、ふと、思った。



(大好きな君に包まれて息絶えて)
(それで君が幸せならそれでいいよ)



――――――

恋の病で病死@マサ蘭(+???)





「全く……無理するのは簡単だぞ狩谷」
「せんぱいにいわれ、たくない、です、」
「まぁ、減らず口叩く気力あれば大丈夫か」
河川敷でドリブル練習をしていただけなのにどうしてこうなったんだ。ただ、凍りついた樹に勢い余って衝突しただけなのに。計らずとも一緒に練習していたピンク頭の先輩に、雪山の中から引きずり出されただけなのに。
「で、どんなドリブル技にしたかったんだ?樹にぶつかるぐらい高さあるって相当だろ」
「……せんぱいにはおしえませんよ」
俺はこの先輩に隠し事はできないから、照れ隠しにとシックな壁紙側に寝返りをうつ。ああ霧野先輩の匂いがする、と頭上の本人ににやけ顔を悟られないように身体を丸めると、咄嗟に身を守った薄い背中に鈍く痛みが走って、
「あいだぁッ!!」
「、っコラ!動くなって。たかが風邪と怪我でも侮れないからな……それにしてもばっかだなぁ。ふふっ」
「わっ……わらうなよ……」
「はいはい。あと、必殺技の名前だけは自分で決めるなよ?」
「ランランランニングはだめなんですかね……」
「お前の社会的立場がどうなってもいいかによるな」
先輩はそう言って、少しだけ眉を下げた。
さらさらのシーツと質素な模様の羽毛布団にくるまれていることを自覚すると、一気に瞼が重くなる。ちくしょう彼氏っぽいこと出来なかったなんて想いは睡魔にあっさり負けてしまって、おやすみ、と俺の焼鉄板みたいな額に唇を落とす先輩のなんとかっこいいことか。赤毛と眼鏡のあの人も重なって目頭までもが熱くなったから、絶対霧野先輩の前では「フォトンフラッシュ」なんて言ってやらないことにしよう。



(今は向かえに来なくていいよ)
(嫌でもあんたのペラペラな胸板に飛び込んでやるからさ)









【恋する私の死因5題】
配布元:
リコリスの花束を





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