惑星の体温 人形みたいな、って表現は、決して間違ってない。肌はあまり日焼けしてなくて(まあ室内競技だからね)髪も睫毛も真っ赤な絹糸としか言い表せないから、俺は彼を形容する言葉に困らない。ビスクドールみたいなこれが惜しげもなく毒やら暴言やら吐き散らすんだから、俺としてはもうちょい加減してほしいな、とも思う。せっかくきれいな顔なのだから。 「朝だよ、征」 きっと朧気だろう視界の中で、俺の顔はどんなふうに見えているだろうか。きっと果実水にミルクを一匙とハニーシロップ数滴垂らしたような、甘くて不確かなものに違いない。征の体が反転したかと思うと、ぐるり首根っこを捕まれてタオルケットの中に引きずり込まれた。腕力というよりは、技術のなせる技のような気がする。胸一杯に広がる赤司のにおい。昨日食べた焼き林檎・蜂蜜添えのにおいだ。 「起きなきゃ映画行けなくなっちゃうよ?」 「それは……やだ……」 「まあきみの力だといつでも好きなときに上映させられるかもしれないけどさぁ」 「じゃあそれにする」 「だーっ!もう!」 家が遠いからだとか学校が違うからだとか、滅多に会えないことを理由にして赤司は俺を赤司の家に引きずり込む。勿論裏ルートなんだけど、自家用ジェットだとかヘリだとかが頭上を舞っているともう彼しか思い浮かばなくなるぐらいには拉致され続けていた。彼曰く、 「光樹が京都に来れないなら、こちらから行くまでだよ、ね」 と、他人に関しては自信満々・唯我独尊加減を知らない。そういう俺も、今は二人で泊まれるホテルかなにかの為にお金を貯めている(赤司んちばかりにお世話になってる場合ではないと薄々気づいていたのだ)ところなので交通費に足をとられている場合ではないのだ。部活帰りのマジバがブラックホールみたいに見える。 目の前のこの人も、俺にとっちゃそんなかんじの人だ。
ブラックホールの瞼は未だ重たい。トースターはあと数刻でかわいらしい音をたてるだろう。この前秀徳と練習試合をしたときの緑間が持ってたドアベルを思い出した。あれどこから持ってきてたんだろうか。 「光樹、君ね、僕の前で考え事なんて何年早いとおもってるんだい?」 「うぉっスンマセン……って、起きてるなら早くご飯食べよう?」 「君が考え事してたから、待ってた」 成る程、黒猫みたいな意地悪い目の細め方をして赤司はにんまり口元を歪ませてみせた。美しいなんてありふれた言葉が似合うようで似合わない橙色した左目がダイニングテーブルをかすめる。かっきり一秒後、頭をだしたちんという合図は彼をベッドから誘い出すには十分だったようだ。 「ほら光樹、早く起きてよ。トーストが冷める」 「見計らったのねきみは」 「ほらもうこんな時間じゃないか」 「誰のせいだよ!?」 「僕と映画行きたいんだろう」 「ちょっと赤司様それはないよ」 俺の恋人はかわいらしい。とても、とても。
きれいな言葉で会話する降赤はとても書きやすいです。 他のキセキから見たらびっくりされるぐらい分かりやすいデレの応酬プライスレス(ただし光樹に限る) タイトル潜水おばけ様から
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