世界で1番あたたかい距離を知っているぼくだから言えること ぱり、とやけに軽い音が立った。 押し殺すようなうめき声は隣から聞こえてきて、そのあと「あーあ」と半ば諦めたようなため息が顔を出す。 「どしたんですか」 「つめ。割れた。ネイルしてきたのに」 「……先輩は洒落てますね」 「そんな洒落た先輩からの命令だ。今から手を繋げ」 まったくこの人はやることなすこといきなりなんだから。急にふらりといなくなったと思えば、また帰ってきて外で得られなかったものを俺で補うのが恒例になっている。 今日は久々に二人で買い物をした。女らしい格好しなくても十分べっぴんなのに、「ばれるといけないから」と言ってわざとユニセックスな服を選ぶ先輩は優しいのか自分の魅力を理解していないのか。いつもは視界の端に揺れるおさげも今はまとめてはいなく、毛先まで何の曇りもない桃色は夕方の空にさらりと漂っていた。 「狩谷の手、意外とでかいよな」 霧野先輩は、俺以外に甘えることが出来ないのかな、と思う。 知っての通り、俺も素直になれなくて右往左往していたから、打ち解けた先輩の存在は俺の中で十分に質量を持った。だけど俺は気づいてしまったのだ。初夏の緑風に吹かれた古い幼なじみを、一体誰が支えていたのかを。その人の重すぎる感情を、どうやって捨てず溜めておくのかを。 大事な人の一粒の涙さえ、彼は大切に大切にしまっておくもんだから、その数は増えに増えた。もう、彼は貯蔵することしか覚えていないのだろう。繋がれた手のひらにほう、と熱が灯る。 「先輩」 「なあに」
「俺、先輩のこと嫌いです」 「へえ」 「でも、」 細めたエメラルドグリーンに滲んだ夕焼けの色さえいとおしい。ああそうだった、この人は俺のものなんだ。
「俺の先輩の嫌いなところが、俺は好きです」
「……それは、どういう?」 意味はお好きに取ってくれて良いですよ、お前相当意地悪だな、よく知ってるでしょう先輩。バニラのムスクの間で交わす言葉のはずが甘いと言うにはあまりに無味で、俺はちょっとだけ笑った。 「狩谷」 「なんですか」 「俺はお前が好きだよ」 はっきり言い切った唇に僅かのぶれもないところが、先輩のずるい所だ。 きれいに伸びたカラーマスカラと一ミリの狂いも無く引かれたアイラインの上、茜色が反射したアイシャドウに、俺は顔を寄せた。
蘭丸さんが女装する話なのか……?ひさびさに短い話になりました。まさらんちゃん…… イナゴ全般に言えることなのですが、彼らは中学生っぽい恋愛してなさそうで困ります。 この頃気づいたことなのですが、アタイ年下攻め好きですよね。どうでもいい。 受けが大人びてるのが好きらしいです。 タイトルは潜水おばけ様から
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