続・波瀾万丈温泉物語
「ああ、青木さん、青木さんッ、雪が降ってきましたよう。真ッ赤な紅葉に雪が積って、なんて真ッ白いんですかねぇ」 「鳥口君……僕は今、人間の再生を間近で観ている。……真逆此んな処で拝めるとは思っても見なかったよ」 益田の復活に伴い、青木の肩の荷も漸っと降りた様だった。鼻にかかった髪を掻き上げる仕草も、堂に入ったものが戻っており、掻きおどけた軽薄な表情にも幾分安定している。これは人を見る仕事柄ついた癖で、人間観察は得意技だと言い張れる位には場数を踏んでいる。 だが僕は、人間観察では測れない人も居る事をついこの前知った。
祈祷師と、探偵だ。
(筆跡:鳥口守彦)
僕らの平穏は、矢張長くは続かない。 風呂を出た後牛乳が飲みたいと言った益田が、丁度売店に足を運んだ時だった。
女性の耳をつんざく悲鳴。 一点に集中する周囲の目。 そして痛い沈黙。
もしかして湯煙殺人事件かな?なぁんて脳内で冗談を云い青木に振り向くと、青木は神妙な顔付きになり「虫でも出たんだろうかね」と真面目な事を言った。どうやら女湯から聞こえたらしい。無理矢理突入しては変態扱いされるかも知れないので、男警察官としては起きて欲しく無いものなのだろうか。 ところが、人生とは上手くいかないもので、僕の心配に反し次々と野次馬が寄って来たのである。只事では無いのだろうと察した益田が受付嬢を喚びに行き、青木は部屋に警察手帳を取りに行った。こういう時の警察と(微妙な所だが)探偵は役割が有るから良い。カストリ記者なんて手持ち無沙汰なだけなのだ。 仕方がないので聴き込みでもすることにした。藍染の浴衣姿に洋手拭と謂う如何にもな格好で傍のご婦人に話しかけると、マア素敵なお兄さんだことと云いぺらぺら喋繰ってくれた。顔は悪いほうでは無いと思っているので嬉しいと云えば嬉しいのだが、どうもかの破天荒な探偵様に依ると「目が離れてるトリちゃんだ!」らしい。彼の影響力の凄まじさは十分承知している積もりではあるが、どうしても真に受けてしまうのだ。 で、そのご婦人の語った事の次第は、どうも予想通りで。 受付嬢を支えながら、青木より先に益田が帰還する。 「益田くゥん……これってあれでしょ、ですよねぇ、」 「……其の線で間違い無いッスよねぇ。はぁ……何でですかねェ。休みに来たのにこんなんばっかりじゃないかァ」
露天風呂に、女性の屍体が浮いていたと謂うのだ。
「この温泉街、山の中だから交番ぐらいしか置いてないんです。温泉街も大きいほうではないし……兎に角通報しよう」 青木が部屋に警察手帳を取って戻ってきた時には、既に現場は男女関係無く野次馬で一杯で、大混乱を極めていたのだった。
この前温泉に行ってきたので、ネタが沢山ありましたね…… 見知らぬおばさんが、いけめんの若いお兄さんに世間話してたんです!!!!いけめんでした!!!!!
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