T×T
*ディープキス描写あり






風呂から上がってきた神童の髪がつやりと自室の蛍光灯を濡らした。頬は上気し健康的に火照っているが、それでも疚しい気持ちは拭い去れない。彼といえば床に雫が落ちるのを気にしているようだが、俺としちゃあ今現在そんなことはどうだっていいのだ。湯中りでもしたのか、赤く潤んだ瞳に俺(の中の何か)が反応しない訳がない。
「すまないな、俺が先に風呂貰ってしまって」
「……この前来たときは俺が先だったから」
おもむろに彼の顔を覗き込むと、そこにはとろりとした小豆色の瞳が、今にも転がり落ちそうだった。どうも様子がおかしい。やはり湯中りだろうか。意味もなくへのじから姿を変えない口元がワンテンポ遅れてひくつくのも、いつもはすぐに茹で蛸のようになってしまう彼に似て非なる仕草で、やっぱりやっぱりおかしい。

「さっきからぼおっとしてどうかしたのか?のぼせた?」
「……三国さん、お母様、戻られないんですよね」
「あ、ああそう」
だなと俺が言い終わらないうちに神童は冷たい頭のまま俺のベッドに登った。なんだなんだと脳内が追い付かないうちに彼は布団をきちんと畳んで枕の位置を正して、そしてちょこんと座り込む。最初は訳が分からなかったが次第に彼のしたいことが理解できた。みるみるとまではいかないけれど、だんだん染まってく頬骨のあたりがすごく彼らしい。ちなみに俺はこれでもすごく混乱しているのだ(地の文がおかしくなったら言ってくれ)。

全部整うと彼は俺の手を引いて、萎れたシーツの上に座らせた。
…………やばい、俺。心臓が壊れそう、って、こういうことを、言うのかな。
「だいじょぶ、なのか」
「これでも勉強しましたから。風呂で……全部済ませてきました」
煽っていると言えなくもないその台詞に皮膚が粟立つ。対照的に俺から出てくる言葉は弱音ばかりだ。先輩としてこれじゃあいけないと思い試しに手を握ってみたら、彼の手のひらは異様に熱くて、ああ平常心装ってくれてるんだなと妙に感慨深くなった。きゅ、と人差し指に力がこもる。
「嫌だったら、言ってくれ、な」そろりと撫でたこめかみも愛しい。双方ぎこちないながらも塞いだ唇から漏れるのはいつもの空気の音なんかじゃなくて、代わりに扇情的な声が鼓膜を揺らす。鼻にかかった母音も吐息も、今は全部俺の腕の中にすっぽり収まっているから、やけにテンションが上がって何度も貪った。うっすら汗が滲む。だけど急にとん、と胸を押されたので、口を離すのは早かった。

「ん」
そこには間違って開いてしまったAVのウェブページより官能的な神童の姿があって、なんだか罪悪感にさいなまれる。本当に男かこいつ。今にも零れてしまいそうな涙も、二人の熱でどろどろに溶けてしまっているようだった。

「ぁ、は、いき、できない、す」
「そ、そうか。ごめん」
意識的に、目を逸らしてしまいたくなる。だけど彼の姿がえろっちいからだとか後ろめたさを感じるだとかそういうものがあるからではない。彼の瞳が、まるで俺を拒絶しているように見えたからだ。
俺に向けたそれは、恐らく嫌悪ではないはずで、
「…………ほんとにおれで」
「いいんだよ」
言うなれば自信喪失による自己嫌悪だ。
ぽんぽんと背中を叩いてやれば、途端不安が押し寄せて来たのだろう、神童は震わせるようにえずきだした。それもそうだ。どっちも未経験なのだもの。
「三国さん……俺、悔しいです。俺は三国さんが大好きなのに、こんなことで怖がって、踏み出せなくて、馬鹿みたい」
「俺もだよ。先輩のくせに全部お前に押し付けてさ……」
「いえ、そんな」
たしか謙遜し合うカップルは長続きするのだったか。こんなに近くにいるのに、ちゃんと安心させてあげられない自分こそ悔しい。

俺が彼にとって、苦痛を和らげることができる存在になりたい。ただそれだけなのだ。
体なんて二の次でよかったのだ。

「なあ、拓人」
「、三国、さん」
「ばぁか。太一って呼べよ」
「……太一さん!」
「よくできました」
わしわし撫でたブロンドはこれ以上ないぐらいさらさらでしっとり濡れていた。愛しさのあまりそこに一つリップ音を落とす。負けじと神童も俺の胸辺りに顔を押し付けたが、その後鎖骨辺りに小さな痛みが走って俺は驚愕した。
「拓人……」
「ふふ、一本です」
いたずらっぽく微笑む彼が堪らなく魅力的で、つい何も考えずに押し倒してしまった。形勢が変わって急にあたふたし始める神童を見て、やっぱり今日は寝られないなあと、ふと思ったのであった。



翌日母が帰ってくるまでファーストネームを呼びあっていたことを思いだしながら、今日も部活に打ち込もうと思う。








お泊まりシリーズ完結編です!さらっと始まり唐突に終わる。エロシーン無かったですねそういえば……拓ちゃんに太一さんって呼ばせたい系クラスタ。太一さんも拓ちゃんもDTそして処女なのでめっちゃ不安とかなんかそういう話でしたはい!
なんだか長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました!お疲れ様です!





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