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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




100年後に好きと act.1


クスクス。可笑しくてたまらない。まるで他人事のように笑う自身は、やはり、どこか狂っているのかも知れない。

蔵馬のその瞳の奥には、本来灼熱のマグマが眠っていた。が、しかし、女に、いや、この女に限らず、1人の人物以外にその情熱を1ミクロンも動かす意思はない。自身に身を委ね、あさましく喘ぎ声をあげながら腰をくねらせている女を、冷ややかに眺めやる。そのなかには、はっきりと、侮辱が浮かんでさえいた。

「あんッ。・・・秀、いち、さぁん」

ちょっと甘い汁を眼前にみせれば、卑しくも浅ましい欲に溺れる。どいつも、こいつも、人間とは。この女も例外ではない。義理の父の後継者。先日、公のもと公表された。途端に先物買いに勤しむ人間たち。その、どれもこれもが、粘り気のあるギラギラとした波が表情にたゆたっていた。保身や出世欲に凝り固まった欲ほど、醜く不愉快極まりない。蔵馬は、そんな人間たちを嫌悪するとともに、哀れにも感じたのであった。

彼なら、こんなことはしない。相手の付加価値に対し、興味本位や卑しい下心で近づいたりはけっしてしない。思わず、脳内に浮かべた、彼。その姿に微笑を浮かべ赦しをこう蔵馬。

狂ってる自分を赦して、と。が、そう思考すること自体が矛盾していたかも知れない。

未来の社長夫人の座。夢見るのはこの女の勝手だ。この女に限らず、蔵馬はモテた。秀麗な容姿に明晰な頭脳、そこに今回は社会的地位もついた。これからは、今まで以上にハイエナが周囲を彩るであろうことは、疑いようもない。が、そんな甘い空想を与えてやるなど、1度として思わない。そんな夢物語を抱くこの女の思考回路を、理解したくもなかった。これから先もきっとない。そう、断言出来る。

この心はもう既に奪われたのたがら、たった1人の、彼に・・・

かん高い声をあげるとともに、膣内がキュッ、と、しまった。胎内へ生理的に吐き出す液体。それらを無感動に眺めやる蔵馬。

なんと気持ち悪いことか!

胸中で呟き、さっさと自身を女の胎内から外界へと逃走する。半ば虚ろな目をしてこちらを見ている女には目もくれず、蔵馬はさっさとバスルームへと汗を流しに入った。バスローブを身に纏い出てくると、女は媚びる視線を投げかけながら、グロスが半分ほどはがれた醜い唇を開いた。

「ねえ。秀一さん。次はいつ?」

次、だと?

危うく蔵馬は失笑するところであった。勘違いも甚だしい。1度寝たくらいで、この蔵馬に要求するなど。身の程をわきまえてから口にしろ。

蔵馬は妖狐の時にも勝るとも劣らない、冷酷な一閃を女に向け、その顔を一瞥した。途端、ひぃっ、と、脅え躰が小刻みに震え出す。

「悪いが、次はあんたじゃ勃たない」

女は蒼白になった後、云われた意味を理解した途端、渇となった。よほど自分自身に自信を抱いていたのであろう。今夜が、夢への階段の一歩であると疑っていなかったようでもある。

笑止な!

しかし、そのささやかな矜持は蔵馬によって打ち砕かれた。跡形もなく粉々に。

確かに、10人いたら半数は彼女を美しいとしょうしたであろう、が、蔵馬には外見の隙間から内面の卑しさが透けて見え、吐き気さえもよおした。

彼は違う。高みを目指すのに、誰の手もとらない。誰も必要としない。自らの意思と能力だけでのしあがる。孤高の魂。だからこそ、これほど惹かれた。だからこそ、誰にも代わることのない愛しい存在。

スーツを纏い、蔵馬は部屋をあとにした。そして、ベッドの上で1人自身を否定された女を、あっさりと忘れた。覚えていても、意味のないことだからである。

これから会う彼のほうにこそ、蔵馬は心踊らされた。会社を女とともに出たところから、彼の視線を感じた。無論、直接的ではない。遠い場所から。邪眼ごしに見ていたことは明らかだった。1度、わざとらしくそちらの方向へ視線を向け、ニヤリ、と、蔵馬は微笑みを浮かべたのだった。その後も、彼の視線には気づいていた。気づいていて、その上であの女を抱いたのだった。

自宅マンションへと帰路につく。扉の向こうには彼がいた。愛しい、愛しい彼だけの妖怪。が、しかし、蔵馬は白々しい声で彼へと挨拶したのだった。

「なあーんだ。来てたんですか、飛影?」

かえってきたのは憮然とした彼の表情だった。

鞄をソファーへと置き、ネクタイを外しながら、窓際から一歩も動こうとしない彼の背後に回った。ガラス越しに見える彼の表情は、無に近い。些か残念に思いながら、飛影をその腕のなかへと導く。

あれほど、まとわりついていた、人間の欲望が、飛影という存在を腕に抱いた瞬間に霧消してしまう。そして、実感の度を深めるのだった。ああ、やはり、俺は彼が愛しいのだ、と。

しかし。

「触るな!」

明らかに怒りの声。蔵馬は、裡に歓喜の嵐が渦巻くことを自覚したのだった。口元には、この時、笑みさえ浮かべていた、それも、誰にも真似出来ないほど美しい。

「嫉妬。した?」

「・・・」

飛影の怒りはほんの僅かであった。その後はまたしても無にかえった。

「ねえ、飛影。こたえてよ」

何も云わない飛影の服を脱がそうと蔵馬の手が動く。躰のラインを確かめるようになぞる。反応すまい、と、意地になって硬直している彼。そんな、ささいな意地っ張りさえも、蔵馬には愛しさが募る。白い布を取り去り、その隙間から手を忍ばせる。胸の小さなしこりを摘むと、ガラス越しの飛影の表情が紅潮したのが判った。

黒いマントからは、魔界の風が馨る。彼が、誰にも屈していない証である。

「抱くよ?」

彼の漆黒の髪を幾度か梳き、チュッ、と、うなじを強く吸う。

「・・・つも・・・く」

「え?」

「・・・。何故、いつも女を抱いたあとに俺を抱く?」

今回が始めてではない。蔵馬から、女独特の甘い香りがしたことは。

「貴方に嫉妬して欲しい。貴方に、もう、女を抱くな。そう云って欲しい」

無論、蔵馬には判っていた。彼は絶対にそんな言葉は口にしない、と。でも、他に飛影の思いを知る術がない。思い人を嫉妬させたいがため、人の心を踏みにじることは、蔵馬が先ほど抱いた女より、性質が悪いであろう。その自覚も本人にあるからには、いっそう。あるいは、他に取るべきみちがあるのかもしれない、が、蔵馬にはこの方法しか選択肢に最初からいれていなかったのもまた事実であった。

「貴方が好きだから」

「俺、は。・・・、貴様が嫌いだ」

「うん。それも知ってる。でも、貴方はいつか云うよ。俺が好き、だとね」

むしろ確信をこめて、蔵馬は云いはなったのである。それに対し、飛影は苦虫を噛み潰した表情をした。蔵馬の言質を完全に否定しえなかったからである。その表情は、自分自身の裡でもてあます気持ちを、飛影は未だ解決出来てはいない証でもあった。

「・・・。100年後かも知れんぞ?」

「いいよ。千年だろうと貴方が云う迄」

顔も名前も覚えられない女を抱き続けよう。貴方に嫉妬の焔が如何に熱く苦しいものなのか判る迄。いや、判らせてみせようではないか。その時、始めて貴方に云わせてみせる。

貴様が欲しい、と、ね。

そう、胸中でもって続きを付け加えていた蔵馬であった。

飛影は鋭く舌打ちを返し、自らの意思でもって蔵馬にその唇を押し当てた。蔵馬は離れていくのを赦さず、飛影を強く抱きしめた。

いつの日にかくるであろう、未来ごと。










Fin.
2012/1/5
Title By 確かに恋だった

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