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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




遺伝子1/2 act.2


水を最初に被ってきたおかげで、女に代わる恐怖もなく存分に泳げた。なにせ、いつも不安を抱えている。それこそ、雨でも降られたら、一発で躰が代わってしまうのだ。まあ、炎を使って水をお湯にし元の姿には戻れる。が、しかし、お湯を水には代えられない。氷や水を司どる妖怪ならば、造作もないことだろうが、飛影は氷女から生まれたとはいっても、それらの能力はない。その場合、応急措置が不可能なのだ。全くもって、忌々しい躰だ。忌み子の1番の弱点はこの躰だろう。女の姿になれば、妖力も普段より劣ってしまうのだから。

海のなか、紐も途中で外れるようなアクシデントもなかった。時折蔵馬が己の隣にきた際は、危なかったが。全く、海のなかで迄盛られたらこちらの身が持たない。それでなくとも、昨夜の情交で腰が甘くだるいのだ。

気づくと、海の水平線が、黄昏時を迎えようとしていた。

泳ぎに、ボール遊びにと、結構楽しめた。海の家とかいう場所の食い物も、まあまあだった。雪菜の嬉しそうな姿も確認出来た。人間界のこうした集まりは、魔界での数々の鬱憤を少なからず晴らしてくれる。可笑しなものだ。魔界で生まれたくせに、人間界での暮らしの方が心地よいと感じるようになるなど。もっとも、そんなことを口にすれば、ある男を増長させかねない。

「エロ狐が」

「酷いな、そのセリフは」

「蔵馬!・・・、気配をたって後ろに立つなと何度云えば貴様は覚えるんだ」

「クスクス。癖だからねー、なおしようがないんですよ」

「チッ」

「ねえ、それよりさ。今日何人の男に声かけられた?」

穏やかであった空気が、殺気を纏う。その様に呆れた。蔵馬の嫉妬深さは承知していたが、おそらく今日しか会わないであろう赤の他人迄それが及ぶとは。

「女に餓えてそうな奴らしかいなかったぞ」

「ふーん。奴ら、ね。複数形なのが気に入らないなあー。やっぱり失敗したかな。貴方のその姿を曝したのは」

その後、「1人残らず息の根止めようかな」という物騒な独り言は、9割近くが蔵馬の口のなかでのみ発せられた為、飛影は気づき得なかった。

「なに云ってやがる。そもそも、こっちの姿を強要したのはどこのどいつだ」

「クスクス。ごめん、俺ですね。・・・、今日、楽しめた?」

「・・・。悪くない」

「始め、雪菜ちゃんなんだってね?」

「・・・、は?」

いきなりの方向転換に追いつけず、訝しい表情を返す。

「“飛菜”と、貴方を呼んだの」

「偶然だ」

「そうだね」

だが、蔵馬は気づいていた。雪菜が意識してその“母”の名を真似て云ったことに。そこに、どんな思いがあるかも。やはり、1番の恋敵だな。

着替えの前に、シャワールームへと入る。全て個室なのが有りがたい。海水はざらざらして、一刻も速くさっぱりとしたい。だが、そこにあるシャワーのコックをよく確認せずひねり、頭上から大量の湯が降り注いだ。

「う、嘘だろ」

躰が男に戻ってしまった。なんと、お湯しか出ないような仕組みになっていたのである。なにが、設定温度だ、そんな気遣いは無用の長物だ。ま、マズイ!予定では、先ずはお湯でさっぱりし、最後に水を被ることにしていたのに。このままでは、男の躰のままここを出なくてはならなくなる。

「チッ」

どうする、どうする。こっそり、ぼたんあたりに、蔵馬に水を持ってこさせるか。長いことシャワーを浴びて逆上せたことにして。いや、やはりそれはマズイ。雪菜に不審を抱かれる可能性もある。それだけは、絶対に避けねば。それに、逆上せたなどと嘘をつけば、このシャワールームから出されて、看護と称して外に出ない訳にはいかなくなる。その場合、自分自身に向けられる好奇な目を想像しゾッとする。誤解だ、と叫んでみても、誰1人として信じないであろう。覗きだ!と騒がれるのがオチだ。兎に角、男の姿で、こんな水着を着ている情けない格好から解放されたい。慌てて水着を脱ぎ捨て、とにもかくにも海水やら砂やらを急いで洗う。

「・・・、クソ」

どうするべきか、いっこうに思案に恵まれずに、未だもって上からはお湯が流れ落ち続けていた。だが、次の瞬間、シャワーのお湯が水へと突然変化した。それとともに、隣や他のシャワールームから女たちの悲鳴が一斉にあがる。

こ、故障か?た、助かった。

天の恵みでも采配でも、どちらでもいい。慌てて着替えを済ませ、そこを飛び出した。その時、右側のシャワールームも時を同じように開かれ、青い髪が瞳の端に映る。雪菜が、ニッコリと微笑みを己へと向けた。

ま、まさか!?妖力で。だが、それを確かめる訳にもいかない。暫く、どうするべきかと逡巡していると。

「びっくりしたよー、いきなり水が出るんだもん」

その隣からは、雪菜とは違う色合いの青い髪がのぞく。

「ごめんなさいぼたんさん。自分のところにだけ水が出るようにしたかったんですが、力加減が巧くいかなくて。ご迷惑をおかけしたみたいで」

「あはっ!なあーんだ、雪菜ちゃんだったのかい。いーの、いーの。びっくりしただけさね」

雪菜が?

まさか、知っているのか?

それとも、たんなる偶然か?

「あら、蔵馬さん。まだ、シャワーも、着替えもしてないの?」

螢子の声が出口付近から聴こえ、そちらに視線を向けた。なかを見ないようにと、ドアのところで隠れた蔵馬。腕だけがのぞき、その手のひらには、バケツが握られていた。

「・・・。蔵馬?」

螢子の後ろに立ち、蔵馬を見あげる。次に、蔵馬が持っているバケツに視線を動かし、苦笑した。その中には、水が、大量に入っていた。おそらく、男の方のシャワールームもご丁寧にお湯しか出ないような仕組みになっていたのだろう。慌てふためく蔵馬の姿を想像し、思わず笑みが零れた。海の家あたりから、己の為に盗んできてくれたことがうかがえ、温かいなにかが胸を締めつけた。

「ひ、飛菜!これ!あ、あれ?」

女の姿だったのが意外だったのか、驚いた顔を曝す。この冷静な男からは、想像出来ないほどの慌てぶり。そんな姿も、一瞬、可愛らしいと思ってしまったことは、秘密だ。余計、この狐は増長する。

「まあ、蔵馬さん、ありがとうございます」

声のする方に振り返ると、そこには、雪菜とぼたん、そして静流が揃って立っていた。

「え?」

雪菜からの突然の謝意に、またまた蔵馬は驚きの顔を見せた。

「おや、やっぱり蔵馬は優しいねー、雪菜ちゃんの為にお水持ってきてあげたのかい?」

「・・・。い、いや、これは、その」

蔵馬の強張る表情など、滅多に見られるものではない。

「大丈夫さね。雪菜ちゃん自分で水出してたよ。ちょーっと失敗しちゃったみたいだけどねー、あはは」

「・・・、失敗?」

「フフフ。そうなんです、力加減を間違えてしまって、全てのお湯を水にしてしまったみたいで。皆さんにご迷惑を」

「あはは、一瞬だったし、大したことないさね」

「・・・。そ、そう。じゃ、これは不要ですね」

「ええ、不要ですわ。うふふ」

「あははは。今度は始めから用意しておくよ、雪菜ちゃん」

「ええ、是非。クスクス」

「・・・。ふ、フフフ」

その2人の様子に、飛影は不思議そうに首を傾げた。気のせいであろうか、可愛い妹の笑みが、一瞬、蔵馬の意地の悪い笑みと重なる思いだった。

飛影の後ろでは、こそこそと会話が成されていた。

「ねえ、静流さん、雪菜ちゃんと蔵馬の間に火花が見えるのって気のせい?」

「うーん、さしずめ黒い微笑対決ってとこかな。まっ、あの様子だと、どうやら今回は蔵馬くんの完敗みたいだね」

原因はいっさい不明だが。と、静流は内心で付け加えた。

「貴様も速く着替えてこい。帰るぞ」

こんなとこ、2度と来るか。水着も2度と着ない。まっ、この狐と2人きりであれば、かまわないがな。





蔵馬のマンションに帰りつくと、ポツリと呟いた。

「・・・。あーあ。今回はツメを誤ったな」

「?」

彼女にいいところをとられた。ことが、悔しいといえば悔しい。やはり、油断は禁物のようだあの少女は。しかし、小姑が2人ってのは、どう考えても不利だよな。ここはやはり、こっそりとどちらかの記憶を操作するかな。

「まっ、でも、貴方の水着姿可愛らしかったので、差し引いて引き分けかな?」

「・・・、なんだ?さっきから」

「フフフ、内緒」










Fin.
2012/2/25
Title By 確かに恋だった

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