The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.
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我儘なプロポーズ act.1
血相、形相。まさに、恐慌の嵐を纏っての訪問だった。そして、着く早々、キッ、と自身を赤い瞳で睨みつけたかと思うと、そこら中に当たり散らし始めた。
「ちょ、ちょっと飛影。落ちついてください。なにがあったんです」
またしても躯に負けた鬱憤かとも思ったが、どうも様子が可笑しい。肩で息をする迄物に当たり散らし、やっと爆風がおさまりかけたかと思うと、いきなりの責任転嫁のセリフに、今度こそ唖然。
「貴様のせいだ!」
「いや。いきなり俺に怒らないでくださいよ。本当になにがあったんですか」
手際よく荒らされた室内を片付けつつ、同時に飛影の為にティーオレを淹れる。勿論、甘い蜂蜜をたらすことは忘れず。内心で、飛影には結局は甘いんだよな、と、自嘲の苦笑を浮かべつつ。
「ほら、これでも飲んで落ちついて」
出されたそれと、自身を交互に一瞥し、憮然とした表情のまま一気に飲み干した。
「で?」
「・・・」
逡巡しつつ、またしても怒りが沸き起こったのか、もの凄い形相だ。ここ迄の怒りを露にしている彼を見るのも、実に久しい。でも、そう思いつつも、そんな顔もまた可愛くあるんですがね、と、内心で蔵馬は続けた。
「黒龍が、・・・」
黒龍?思わぬ炎の化身である聖霊の名に、訝しい表情を返した。あの子(と、云ってもその生きてきた長さは実は飛影よりも自身よりも長い。魔界で火が誕生すると共に、その火を司る炎は聖霊となったのである。絶大な力を伴とし。)が主たる飛影に反抗する筈もないし、と、思っていると、常日頃寝床としている彼の右腕には、肝心の黒龍がいないことにこの時漸く気づき得た。
「置いてきたの魔界に?」
「そうじゃない。あいつが勝手に!・・・、くそ!」
もうそれ以上話したくはない、という態度で、ソファーにそのままゴロンと寝そべる。
そこへ、自身の携帯が鳴った。人間界用ではなかった。魔界へと繋げられる物を、蔵馬を始めとして、魔界の政務に関わる者は持つべしと煙鬼より定めらし条令だった。着信側の相手を見て、どうやら向こう─魔界─の保護者たる躯も頭を痛めているらしい。それとも、彼女の場合面白がっているか。おそらくは後者なのであろうが。1つため息を溢し、携帯に出る。
『そっちに行っているだろう』
誰が、とは云われはしなかったが、すぐさま了解する。そして、未だに、ソファーの上で葛藤している様子の飛影を一瞥しつつ応えた。
「ええ、今しがた」
誰かからの電話であると察した飛影は、ムクリ、と、ソファーから立ち上がると。
「断固反対だと云え!」
怒声が向こうにも聴こえるように、飛影はそれだけを云うとまたむっつりとした表情を残し、傍らにあるクッションに顔を埋めてしまった。
携帯からは、愉快愉快、という躯の笑い声が木霊していた。
「あの、一体全体なにがあったんですか。来る早々、黒龍を対象に怒って暴れられたんですがね」
『クッ、アハハ!想像通りでよけい笑えるわ』
「で?」
『“結婚”したいんだとよ』
・・・、ケッコン?血痕、じゃない、な、結婚の方?え?どういうことだ。
幾ら蔵馬自身が聡明であろうとも、躯のセリフは意表をつきすぎており、そこから導き出される答えなど思い浮かべられなかった。ましてや、結婚と黒龍が結びつけられなかった。如何な蔵馬とも。
「ああー、誰と誰がですか」
『黒龍が狐とな』
「お言葉を返すようで悪いですが、生憎、俺は黒龍に手など出してませんが」
考えもしないし、あれを相手では勃つものも勃ちゃしない。確かに、主たる飛影に忠実で可愛くは思ってはいる。こちらに来て、1人と1匹の可愛らしい寝顔は絶景だとは思う。主に似て甘いものに目がないのか、よく一緒に蔵馬お手製の菓子を食べる姿も2人揃って愛らしい。だが、極端な喩えならば、ペットを可愛く思うのと大差ない。ちょこちょこ、と、また、ピョンピョンと言葉の代わりに炎を吹きながら室内を小さな躰で飛び回る姿は、蔵馬には黒い野良猫にしか見えてはいない。
『貴様じゃねーよ。まだまだガキの狐だ。こっち─魔界─で生まれたんで妖力が身についたんだろうな。まあ、お前さんの眷族候補だ』
ええっと、つまり、妖狐化したばかりの子狐?
「・・・。すいません、あまりのことで」
絶句とはこのことだ。もう2度はお目にはかかれないだろう妖狐と黒龍。それが、なにをどうしたら結婚したいなどという事態になったのだ。
妖狐は、元を正せば狐である。自身とて、生まれは狐だった。だが、妖化には幾つかの運命と、それ相応の時間が必要であり、同じ眷族にこれ迄お目にかかったのは、はるか昔の1度きり。それほど、妖狐は魔界においては稀少な種族である。
『クククッ。黒龍が散歩に出て一目惚れしたらしい。で、飛影は親みたいなもんだからな黒龍にしてみれば。連れてきて一悶着あったって訳さ。空いてる左腕に住まわせろ、と。反抗期真っ只中なガキだったなあれは』
「・・・、はあー」
ため息とも諦めとも区別し難い気のない返答をした。おそらく、躯の目には、黒龍と飛影その両方がそのように見えていたに違いない。
『じゃれあってる2匹に怒り心頭で飛影が怒鳴りつけてな、なかなかに愉快な絵図だったぜ』
「貴女は反対ではないんですね」
『お前からも説得してやれ』
そしてまたしても笑い声がし、それを最後に切れた。
明らかに今のこの状況が楽しげである。
にしても、何故面倒と説得、その難題な両方をこちらにまわすかな。
「・・・、飛影」
「・・・」
「飛影ったら」
再度優しく呼びかけたが、不機嫌の園からのご帰還にはいたらない。
「淋しいの?」
「違う!」
漸く起き上がりはしたものの、その表情は未だもって納得も承服も出来かねる様子がありありであった。
「いいじゃない。黒龍だって感情はあるんだから」
ましてや、初恋なのであろう。絶大な妖気とは裏腹に、長く生きてきた聖霊ではあるが、その力を征服された時が、始めて黒龍はその姿をあらわせ意思を持つ。ゆえに、長く生きてはきたが、意思の目覚めは極々最近のことなのだ。だからこそ、まだまだ子供といえた。飛影の力なくしては、飛影の絶対なる征服がなければ、未だ黒龍は魔界の奥深い場所に眠っていたに違いない。
その黒龍が妖狐化し始めた子狐に恋するのが、そんなに我慢ならないのかな。
そこで、ふと、あることに気づいた。
まさか。まさか、ね。だが、冷静沈着の仮面の下で、蔵馬は破顔していた。なんて、可愛いんだろうか。黒龍自身のことよりも、“そちら”が赦せなかったとしたならば。
「クククッ。貴方、俺を盗られちゃった気がしたんだ」
「なっ!」
飛影のその真っ赤な顔は、そのまま肯定を意味していた。
唇の端を釣り上げ、蔵馬は嬉しそうに笑う。尚も続ける蔵馬は、始めてみせてくれた飛影のその感情に、嬉しくて堪らないといった風に目を細める。だが、飛影にしてみれば、そんな笑みは却って悪魔にも死神にも見えていただろう。秀麗なだけに、意地の悪い笑みは飛影に冷や汗を流せるに充分だった。それほど、痛いところをつかれたのである。
「飼い犬に手を噛まれたと思ってヤキモチ妬いたんだ、貴方」
「ち、違う!べ、別に貴様とあのチビ狐を重ね合わせてなんかない!」
蔵馬の悪魔的な誘導尋問にまんまと引っかかり、慌てて否定のセリフを云ったとで後の祭りである。重ね合わせたからこそ黒龍に対しヤキモチ妬いたと、まるっきり云っていることに気づかない飛影であった。おそらく、2匹がじゃれあっていた際、面白くなかったのだろう。そして、怒りのやりどころに困りはて、こちら─人間界─に逃げてきた。そう考えれば、開口一番に「貴様のせいだ」と云われたことに納得がゆく。全く、どこ迄惚れさせるんですか。
「じゃ、いいじゃない。黒龍とその子狐とを結婚させても。結婚ってのが気にいらないなら、お付き合いくらいさせてあげたら」
「・・・」
「試しに左腕に飼ってあげたら」
「・・・。狐の紋章にでもなるのか」
「さあ、どうだろう。でも」
「でもなんだ!?」
「貴方は渡さないよ」
「?」
突然の方向転換により首を傾げた。蔵馬から云われた意味を謀りかね、飛影はきょとんとした愛らしい顔を曝していた。
今の妖狐化した子狐の成れの果てが、自身そっくりの趣味や性格にならない保証はどこにもない。過去に1度だけ対峙した妖狐は、実に自身と同類の匂いがしたものだ。だからこそ、その場で生き延びる権利を自身が力で捩じ伏せ放的させたのだ。その者の名前など忘れてしまったがな。飛影に惚れたりしたらそれこそ目もあてられない。だからこそ、そんな危ない杭は可愛い黒龍にくれてやろうじゃないか。自身の目の届く範囲に置くのが相応しいのだ、監視としてね。
「可愛い黒龍の最初で最後のお願いですよ。きっと、ね。だから、赦してあげなよ」
数日後──
小さな妖狐と黒龍を伴って人間界へと飛影はやって来た。未だ結婚は無しだ!と、豪語はしているが、半ばは諦めたかの様子の飛影だった。
仲睦まじい2匹。黒龍の方が一目惚れしたというから、てっきり子狐を一方的に構いたいのかと思いきや、全くの逆だった。子狐はふさふさした尻尾に器用に蔵馬の造ったクッキーをのせ、せっせと黒龍へと貢いでいる。パクパクと食べ終えると、すかさず飲み物を尻尾にのせ黒龍の為に差し出す。そして、暇さえあれば互いに見つめ合うのだった。だが、あまりにもベタベタな2匹の様子に、却って飛影も蔵馬も赤面する思いだった。なにせ、その様子は、蔵馬と飛影そのままを鏡に投影していると云っても過言ではないのだから。
「・・・。フム。杞憂だったかな?」
Fin.
2011/11/13
Title By 確かに恋だった
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