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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




嫌いになった? act.1


※R要素が含まれます。もう1度、ご確認。お姉さんは18歳以上ですか?OKな方はスクロール。
















百足内に与えられた飛影の部屋に、パトロールから帰って来た。が、部屋の扉を前にし、うんざりするため息を溢した。

薔薇の微かな香り。

その芳しくも怪しげな香りが、飛影の部屋の入り口付近に充満していた。

マーキングのつもりかあの狐は。

蔵馬と付かず離れずな関係は人間界にいた頃からだが、どうも、最近、奴の思惑が当初と異なり始めた様子で、その行動は理解の範疇を越えている。やたらと、好きだ、愛している、だとか、こちらを拘束する言葉を耳に吹き込む、言霊で満たした息吹の如く。挙げ句、こうして百足の自室に足しげく通って、周囲に牽制したりと、兎に角こちらを束縛するようになってきて、正直なところ、辟易してもいた。

好きか、嫌いかの、端的な二者選択ならば、好きの部類に入るのだろう、が、好きという概念がそもそも己には欠如していた。まるきりないわけではない、極端にそういう感情が淡白なのだ。嫌い、ならば、無視を決め込めばよい、最悪殺せば済む。だが、奴を殺すほどは嫌っていない。実は、それが1番厄介なのだった。どうにもこうにも、もてあます。奴は自身と同じものを要求して来ている、それは最近の奴を見ていれば一目瞭然、だが、それをこちら側にも求められても、飛影は困惑せざるをえない。

好きです。

愛してます。

俺だけにしてね。

情事の最中、奴はそんな甘ったるいことを耳に吹き込む、が、1度としてそれらの言葉に感銘を受けたためしがない。奴との情事ははっきりと云って気に入っている。欲が吐き出せればそれでかまわない、無理矢理だろうが、痛かろうが、反対に、極上の快楽を得られるようなセックスだろうが、互いに欲が溜まった末のはての合意の上のセックス、それ以前、あるいは以下のプロセスに何の意味があるというのだ。以前の己ならそうだった、だが、奴は決定的に違った。

関係の始まりは奴からの強姦だった。

無論、徹底的に抵抗したが、姑息にも奴は薬を使い、躰は欲望のまま貪られた。情事の間中、奴は今まで相手にしてきた奴らと代わらぬギラギラした獣の目つきで犯した。

だが、その後変化した。

穏やかに、まるで、真綿を包むように気遣い抱くようになった。始めはその変化に戸惑いを覚えたものだが、慣れてしまえば何てことはない。

・・・筈、だったのに。

今1度ため息を溢し、扉を開く。中に足を踏み込むと、奴はソファーに寛いでいた、片手に人間界から持参したであろう本を読みながら。お帰りなさい、と、穏やかに迎え入れられ、反対にこちらは眉間にしわを寄せ、じろり、と、一瞥した。

「パトロールご苦労様」

「嫌みを云いに来たのなら帰れ」

「そんな、すぐに追い返そうとしないで」

「何しに来た?」

首に巻きついている白い布を苛立ちまぎれに脱ぎ捨て、窓際に立ち、己から招いた覚えのない油断ならぬ奴を今1度睨んだ。が、動じる気配は皆無で、その表情はどこまでも穏やかなものだった。それだから安心というわけにはならない、過去を思い返せば、こんな奴の時ほど距離が必要なことは学習しているつもりだ。同じソファーに座る意思は更々無い、近くに座れば何をされるか知れたものではないからだ。

「今日は貴方にプレゼントがありまして」

「要らん」

「そう云わずに。はい。ブラックバカラという品種の薔薇」

距離を取ったにも関わらず、奴はかまわず、あるいはこちら側の警戒心を知った上で無視してのことか、ずかずかと距離をその足で縮めた。

そして、眼前に珍しい黒く微かに紅い薔薇の花束。

得意気な奴の表情。

真意を謀りかね、訝しい目を奴に向けた。

「記念日。だから」

「記念日?」

「そう、貴方と今日始めて出会った日」

脳裏に過る奴との出会い。もう、遥か昔に感じるその出会い。妹の雪菜を未だ探していたあの頃。人間に堕ちぶれたこいつ。必然性のなかった出会い、だのに、今思い返せば、必然的な出会いだったのかも知れない。だが、そんな今更なことに一々感傷に浸る趣味は生憎持ち合わせてはいない、眼前の奴と違って。

「馬鹿馬鹿しい」

即答で答えると、奴はこれ見よがしに、哀しげな表情をした。だが、騙されるものか。それが仮面であるなど、こちら側は奴との短くも長い間、それを充分に承知していた。

「せっかくの記念日なのに」

「祝いたいなら勝手に1人でやれ。俺を巻き込むな」

「そんなつれないこと云わずに受け取って」

はい、と、無理矢理こちらの手を取り、その大きな花束を握らされた。途端に鼻腔に漂う薔薇の匂いにむせかえる。

チッ、と、舌打ちをし、その花束を意味もなく覗き返した。が、その途端、視界がぐらりと揺れ動いた。何か仕込んでいやがったか。

「貴、様!?」

「駄目ですよ、飛影。俺が相手なんだからもっと警戒しなくちゃ」

穏やかだった奴の表情が一変し、その表情は獲物を確実に捕らえた狩人だった。

ガクガクと躰が熱のために震え始め、両の足で支えることすら覚束ない。花束は床に落ち、その役割を終え、無残に散らばっている。蔵馬は、その花弁を1つ、誰にも真似出来ない優美さを持ってつまみ上げ、口元へと運ぶと、ニヤリ、と、妖しげに微笑んだ。忌々しく睨み返すと、奴は花弁をピッと投げ棄て、ゆったりとその腕を伸ばし、こちらを抱え上げた。

「な、にを?」

「野暮だな。ベッドに運ぶに決まってるでしょう」

その宣言に身震いした。

「離、せ」

「いいんですか、今のままだと辛いのは貴方ですよ」

尤もな言葉を云うが、そもそも、こうした本人に云われたくはない。

細やかな抵抗はいなされ、軽々とベッドの上へと降ろされる。今から、奴に抱かれる、奴とのセックスは極上の快楽を己に与えてくれる、判ってはいても、抵抗したくなるのが情というものだ。

「や、め」

首筋に奴の唇が降ろされ、味わうかのように舌で舐められると、薬の効果も手伝って、電流のように快感が走る。

「ふふ。貴方から薔薇の匂いがする。俺の匂いですよ、忘れないでね」

ふざけたことをぬかすな、そう、反論したくとも最早出来ない己は、意思とは反対に蔵馬の首に己の腕を巻きつけていた。速く、この熱から解放して欲しい。

蔵馬は飛影の服を脱ぎ捨てると、陶器のようにきめ細かい肌の上を殊更ゆったりと指先で、1つ撫で上げた。飛影は、びくっ、と、躰を反らせ、快楽の入り口で右往左往している。何時見ても、触っても代わらぬことに安心するかたわら、反対にその綺麗な肌をめちゃくちゃにしたい欲望に駆られる。

首筋から徐々に徐々に舌を移動させ、浮き彫りになっている鎖骨の辺りに薔薇と同じ色を散らす。吸いつくと、飛影の躰は如実に変化し始める。小さく主張している乳首に舌を這わすと、途端に甘い声を上げる飛影に、蔵馬は気分をよくする。

「コリコリ。こっちはどうですか?」

反対側の乳首をつまみ上げると、飛影は残っていた理性を棄てた。

「あ、・・・く、蔵馬」

「欲しい?なら、貴方からそう云って」

「欲しい、だから、・・・速く」

「じゃあ、足開いて」

一瞬の葛藤の後、おずおずと云われるがまま、飛影は己から足を広げ、恥ずかしい場所全て蔵馬だけに晒した。しどどに我慢汁が伝え落ち、双丘迄淫らに濡れ、その奥に隠れている後孔はもたらされるものを待ち望むかのようにひくついていた。

蔵馬は指先にローションをたっぷりと馴染ませ、その場所を掠める、すると、飛影は無意識に腰を上げた。クス、と、胸中で微笑むと、殊更ゆったりと指を侵入する。

「あっ、・・・ふぁ」

「貴方の中は何時も熱いね」

「ごちゃごちゃ、貴様、五月蝿い。・・・犯るならさっさと、しろ」

「全く、ムードないんだから」

チュッ、と、憤っている感のある飛影を諫めるかのように、頬に口づける。すると、入り口が強ばりを解き、蔵馬の指を中へ中へと自ら導こうとする。もう1本加え入れ、抜き差しを激しくすると、飛影の表情が徐々に快楽に支配され始める。クチュクチュと、それに伴い、淫らな音も部屋を支配し始めた。飛影の中の前立腺を刺激してあげると、無意識に求めるように唇を開く。それはキスをねだる合図。

飛影は自覚はないようだが、最中はキスを好む。蔵馬は指を抜き差しするかたわら、飛影の柔らかな唇を丹念に味わう。絡め合い、角度を代えた瞬間にこぼれ落ちる吐息さえも愛しくてならない。

「も、もう」

「うん。俺も限界」

指を後孔から外し、蔵馬自身をその場所にあてがうと、一気に貫いた。

「ああー!」

甘く、淫靡な悲鳴は蔵馬を心地よくさせる。

「飛影、飛影」

最初は労りから入り口辺りを刺激していたが、飛影の快楽に歪む表情を見て、蔵馬は加減を忘れた、夢中で飛影を揺さぶった。絡みつくように蠢く飛影の内部は、何時抱いても最高級のものだった。もっと奥に、まるで、そう訴えているかのような錯覚。蔵馬は飛影の躰を折り、肩に飛影の足を乗せる形で、1番感じる飛影のポイントを攻めたてた。

「はうっ!・・・く、蔵馬。あんっ」

「可愛い。今の貴方の顔、1番好きだよ」

飛影は最早蔵馬のなすがままだった。奥を突き上げられるたびに、えもいわれぬ快感が躰中満たし、我慢しきれず最後を望む。

「く、蔵馬。あんっ、・・・も、もう」

「いいよ。イって」

それが合図かのように、飛影は最後を迎えた。己の腹だけに留まらず、顔に迄白濁した液が飛び散った。イッた余韻で強烈な内部の収縮に、蔵馬は下腹に力をため、一緒にもっていかれるのに耐えると、飛影の顔にかかってしまった白濁した液を綺麗に残さず舐め取った。

「貴方の味は何時も極上ですね」

口元に笑みさえ浮かべそう告げると、挿入した状態のまま飛影を起こし、自身の上に座らせた。イって間もない飛影は朦朧としており、蔵馬の肩で息を整えるのが精一杯の様子だった。少しだけ角度をとり、飛影を愛しむように頬に口づけると、蔵馬は今度は自身がイクために腰を揺らし始める。

「ま、まて、まだ」

「ごめんね。無理」

飛影の僅な抗議をあっさり無視すると、蔵馬は楔を打ち続けた。





ベッドの上でうつ伏せになって、ぐったりとしている飛影の背中に向かい、何度も謝罪してみるが、ご機嫌は悪い様子だ。それもその筈。何時もは飛影の躰を慮り事を抑えているが、今日は特別だったから。だから、我慢出来なく無茶苦茶抱いてしまった。

「ごめんね」

「悪いと思ってもないくせに謝るな」

「うん。だからごめん」

そう、悪巧みはしたが、抱いたこと、それ自体の行為に蔵馬は一片たりとも罪悪感など抱いていない。それが本心。ただ、箍が外れてしまったことへの謝罪。飛影はそれを判っていたようだ。

「嬉しかったから」

今日という特別な日が。貴方と、あの日出会ったこと自体が。だから、貴方にもそうであって欲しかった。今はまだ、貴方はまだまだ遠い。でも、何時の日にか、この気持ちに気づいて欲しい。そう願うのは傲慢だからだろうか。蔵馬自身も定かではない。自身と同じく気持ちを返せ無い飛影だと判っている。こんなに貴方ばかり求める自身が狂気の部類に入ることも承知している。でも求めてやまない貴方。壊れそうな危うい自身。永遠に続きそうな、愛、そして、反する憎しみ。

「嫌いになった?」

何かに理由をつけて必死になって貴方の全てを求めてしまう俺を。ねえ、嫌いになった?

もし、嫌いと云われてしまったら、果して自身は正気でいられるのだろうか。それは、極て回答困難な命題だった。

「・・・嫌い、じゃない」

不器用な貴方の精一杯のそれが優しさ。葛藤が貴方の裡にある。それでも、今はその言葉で蔵馬は幸せだった。

「じゃ、また抱いてもかまいませんか?」

「物好きな奴だな、貴様は」

怨めしそうに見上げる瞳の中に、今は、俺だけが写しだされている。

貴方に嫌われたなら。

その時は。

ふと可笑しくなって蔵馬は笑った。飛影を振り回しているようで、実際は逆の構図が成り立つ。結局は、鎖を繋げているのは蔵馬自身ではない、飛影なのだ。

でも、それも悪くはない。










Fin.
2010/12/18
Title By 確かに恋だった

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