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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




凍て蝶 act.2


※R要素が含まれます。もう1度ご確認。お姉さんは18歳以上ですか?OKな方はスクロール。















「ふざけるな!」

掴まれていた腕を振り払い、飛影は声を荒げた。しかし、それに対し、蔵馬の反応は“無”であった。それが、より以上に飛影の胸の裡に黄色信号が灯った。

1歩、注意深く退く、が、しかし、同様に蔵馬がその距離を縮める。期せずして互いに激しくぶつかり合う視線、しかし、見下ろされるその瞳には、恐ろしい悪魔が宿っていた。無表情な筈であるのに、いや、却って無表情なだけに、背筋が否応なしに凍る。誰もが逆らえはしない、美しくも妖うい、そして、気高い堕天使がそこにはいたのだった。その、黒き天使がしだいしだいに飛影の強い意思を削ぐ。無言の圧力は熾烈を極めた。

「っ!」

再び腕を掴まれる。瞬間、ニィー、と、蔵馬の唇が奇異につり上がる。始めて、その瞬間、飛影は目の前の男に恐怖を抱いた。額から頬に、そして顎へと、一筋の汗が涙のように流れ落ちた。

「ね。奇淋に抱かれてよ」

飛影の耳に囁く声には、甘さが含まれていた。誰をも魅了し、その支配下におさめてしまう声色であった。が、それだけに留まらないなにか得体の知れない成分が蔵馬の声には備わっていたのだった。

「・・・、い、嫌だ」

精一杯の拒絶。声が上ずる。躰に悪寒が走る。目の前の男はいったい誰だ?

飛影は混乱のただなかに立たされた。

「ふーん。じゃ、いいんですね。幽助に貴方がしていたことを教えても」

「・・・っ!」

それをも拒否をあらわすかのように、蔵馬から顔を背けた。脳裏に愛しい人物が映し出される。飛影のたった1人。焦がれて焦がれてやまない、たった1人が。瞼をきつく閉じると、幽助のその太陽のような顔が、飛影だけに微笑み返す。

幽助に知られたならば、・・・

きっと、いや、確実に嫌悪の眼差しでもって己を見返す。背を向け、自分のもとから去ってゆく幽助の姿が、この時飛影ははっきりと見えた。その溝は、決して元通りにはならないことも。「気持ち悪りーな、今までそういう目で見てたのかよ」その幻聴が、本物になることも。

そんなこと・・・。嫌だ、嫌だ、嫌だ。怖い、恐い。幽助の仲間であることを赦されたのに。それしか繋がりなどない。その僅な繋がりが消えたならば、きっと己は壊れてしまう。

幽助に知られたら、・・・。いつしか、暗示のようにその言葉のみが繰り返し繰り返し飛影のなかで木霊していた。

「ね、飛影。簡単でしょう?」

数十秒後。飛影は力なく頷いた。その様はまるで、壊れた人形のようであった。無力で憐れな・・・

「クスクス。いい子だね飛影」

蔵馬は飛影に微笑する。その笑みは、どこまでも美しかった。

傍らで、それら一部始終を眺めていた奇淋でさえ、その微笑の美しさを否定出来なかった。自分自身が、この狐に利用されていることを忘れるほど。そして、この男が内面に持つ、その危険な香りを、も。恐怖と同等に改めて奇淋は感じずにはいられなかった。

「じゃ、服を自分で脱いで」

「・・・!」

「なにを驚いた顔してるの。セックスするのに邪魔でしょう。さあ、速く」

震える手を伸ばし、首を隠す白い布にかける。が、そこから、動きが止まる。飛影の顔色は今や死人に勝っていた。

外せ、外さなければ。動け!しかし、意思とは裏腹に、飛影の手は端を掴んだまま微動だにしなかった。そのまま、秒針だけが刻々と刻まれてゆく。

「はあー。・・・、いつまでそうしてるつもり?ああ、そうか、自分からじゃなくて脱がせて欲しいんだ貴方。それとも、ズタズタに服を刻んで欲しいのかな」

セリフを告げると同時に、蔵馬の瞳が奇淋へと向けられる。それが合図のように、奇淋の手には剣が握られていた。その意図は明白だった。飛影の口のなかで、鉄の味が支配権を奪取した。

理性を捩じ伏せ、震え続ける手を奮い立たた。そして、恐る恐る白い布を取り去る。

「クスクス、出来るじゃないか飛影。さあ、他も脱いでみせて」

1枚1枚、外気に曝されてゆく。その1枚、1枚が屈辱に打ちのめされた証のように。床に落ちる己の服。それらを見つめる熱のない2つの視線。たった1つ、飛影を支えていたものは、幽助への純粋な思いだけだった。

「・・・」

「綺麗だよ、飛影。貴方はその姿の方が似合う」

幽助、幽助、・・・

助けなどこないと判っていながら、飛影はただ1人を心のなかで呼び続けた。

突如、腕を掴まれ、気づくと奇淋をあおぎ見ている己がいた。始めて見る奇淋の顔。マスクで覆われていた素顔は、思いの外整っていた。が、その瞳には、一切の感情が映し出されてはいなかった。

ねっとりとした感触が肌を伝う。その爬虫類が伝うような感触に、悪寒が続く。

「ひっ!」

キーン、と、耳鳴りが生じ次いで吐き気が生まれる。ぴちゃっぴちゃっ、と、舌がはうたび、躰に云い知れぬ恐怖が駆け巡る。

知識としてはあった、自慰もした。彼の人と肌と肌を合わせることを、想像しなかったといえば嘘になる。だが、触れてくる熱がこんなにもおぞましいものだったとは。

嫌だ、気持ち悪い!

微かな音が飛影の耳に入りこみ、そちらへと顔を向けた。そこに映し出されたのは、椅子に悠然と長い足を組み、本を捲り始めた蔵馬の姿があった。もう、まるで、こちらには無関心なその様。そこに至って飛影は、どこかで蔵馬を信じていた己に気づかされたのだった。「ごめんね、悪戯がすぎたね」、「冗談ですよ」、そう云って微笑む蔵馬、を。そして、始めて飛影の瞳から涙が一滴零れた瞬間でもあった。

「ひぃ、んん」

首、鎖骨、そして、胸にと奇淋の愛撫が続く。這われる舌の感触がおぞましい。感じまい、と、感じてなるものか、と、飛影は頑なに瞼を閉じた。

その間も、奇淋の愛撫は続く。吸い付かれた場所には、鮮やかな朱色が散らばる。小さく主張していた胸の突起に歯をあてがわれた瞬間、痛みとも快感ともつかない電流が躰を覆う。その不愉快な感触が過ぎ去るより速く、もう片方を指先で転がされ、躰が意思を裏切り始めた。奇淋の手のひらが、胸から腰を往き来するたびに、躰が跳ねてしまう。

奇淋は思いの外興奮した。白皙の肌に、おのが足跡をつけるたびに美しく映える緋。絶える息づかい。その間隙をぬうように零れ落ちる甘やかな声。眉間に刻まれるシワ。羞恥と矜持がせめぎあう表情。その全てが奇淋の嗜虐心を煽ってやまない。この者は、男を狂わせる。秘していた色香が、今まさに咲き始めた。飛影のきめ細かい肌に手を這わせ、下へ下へと唇を次々と移動させる。萎えて未だ幼さを残る飛影のものを瞳にとらえ、奇淋の喉が物欲しげになる。ぴちゃっ、と、先端を舌に乗せた瞬間、それまで大人しかった飛影が突如変貌した。

「ひぃ!、や、止めろ!」

奇淋の顔面に強烈な手刀が加わり、視界が一瞬血に染まる。その間に、震える手で、飛影は懸命に忌呪帯法を外そと試みた。黒龍をその腕から解き放とう、と。が、しかし、それは叶わなかった。代わりに、飛影の悲鳴が室内に響き渡った。

「グッ、アアアー!」

右の手のひらから全身に痛みが駆け巡る。食い込む痛みの正体に、飛影は愕然となる。そこには、己の愛刀が、おのが手のひらとベッドを結合していた。

その剣の持ち主はどこまでも冷静な面持ちであり、薄く微笑さえ浮かべていた。

「怖いことするなあー、貴方は。クスクス」

「・・・!く、蔵馬、貴様。グッ、グッア、アアアー!」

蔵馬は尚も刀を飛影の手のひらにおさめてゆく。ゆっくりと、そして徐々に、肉が裂け骨が同時に軋む音、溢れ出す血飛沫。鮮やかな血色が、純白のシーツをみるみる代えてゆく。痛みに絶える飛影とは対極に、蔵馬はその美しい笑みを絶やすことは終始なかった。やがて、柄のみが手のひらの上に鎮座し、右手は完全に自由を奪われた。

「フフフ。大人しくしてなきゃダメじゃないか、飛影」

それでも、飛影は必死に蔵馬を睨みつける。動かせる左手で刀をとりのぞこうとしたその時、今度はその左手に痛みが走る。

「ッ!グッ」

見ると、蔵馬がいつも使用している鞭が幾重にも絡みつき、飛影の手首を絞めあげていた。ベッドの端にそれらは繋がり、僅かな振動も赦されなかった。細かい薔薇の棘が、飛影にはそのまま蔵馬に思えた。1つ1つにはそれほど効力はない、だが、それらが団結した際の強力な力。奥の手を幾つも持ち、最後の最後、獲物が息絶える間際に切り札を出す、その様に。

「油断も隙もあったもんじゃありませんね、本当に。クスクス。両手だけでは不公平ですからね、両足も縛ってあげますよ」

「ヒィ!アアアー!」

足首に食い込む棘。そればかりか、意思を持って飛影の頑なな足を広げにかかる。

「や、いやだっ!」

全て開かれたその姿。羞恥で死ぬことが出来たならば、どんなに楽であろうか。

「おい、いつ迄そこに転がってるつもりだ。さっさとしろ」

飛影によって殴られた頬を庇いながら奇淋は立ち上がり、今や自由のない飛影を見下ろす。そして、始めて、この小さな妖怪を不憫に思った。そして、この狐の異常ともとれる執着に、改めて戦いた。それらの奇淋の思いは、これから成そうとする行為への罪悪感を薄めたい心の動きではあったが、・・・

「止めろ!外せ!」

尚も暴れる飛影。外そうと試みるたびに、鞭は意思を持ち更に絞めあげ、新たな血が飛影の肌に生まれ落ちる。

「しょうがないなあー。あまり使いたくはなかったんですがね」

そう云いながら、蔵馬はドロリとした液体を取り出した。見るからに、怪しいものであることが判り、飛影は新たな汗が出る。己の想像するなかで、おそらく最も最悪のものに違いない。

「飛影。さあ、これを呑んで。痛みを全て快感へと代えてくれる。じきに気持ちよくなりますよ」

やはり、催淫剤の類いのようだ。

「やっ!」

飛影は呑むまいと、唇を噛む。だが、その様は、蔵馬を尚も怒りへと代えたのだった。

突然、頬に痛みが走る。脳ミソ迄もを揺るがすほど、それは強烈だった。恐る恐る蔵馬へと視線を向ける。そこには、殴ったことなど然したることではない、そう、傲然と佇む蔵馬がいるのみだった。この時、飛影のなかで、僅かな望みが絶望へと席を譲った瞬間だった。誰も、助けてはくれない地獄へと、飛影は落とされた。あれほど高かった矜持と伴に。それは、翼を折られた蝶であった。

尚も蔵馬は飛影の頬を殴るのを止めようとはしなかった。2度、3度、と、続けざまに殴る。飛影の頬が腫れ上がり、口のなかは幾重にも切れた跡から、血が唇を占めた。最早、抵抗する意思は飛影のなかから完全に潰えていた。

「フフフ。さあ、呑んで、飛影」

血の味と伴にドロリとした液体が、飛影の胎内へと流し入れられる。

「速効性ですからね、今感じている痛みも、すぐによくなりますよクスクス」

蔵馬がそう云うのとほぼ時を同じく、躰に変化があらわれた。目が眩むほどの熱が躰を覆いつくす。先ほど殴られた頬の痛みさえも、じんじんと違うものに変化した。苦痛の筈であったのに、なにかを求めるかのような熱さ。呼吸が、吐く吐息さえも熱をおびる。

さらり、と、蔵馬は飛影の頬にその美しい手のひらでもって包みこむ。そのささやかな刺激さえ、今や飛影には過ぎた快感であった。

「はぁ、ッ」

無意識に零れてしまった吐息。生理的な涙が瞳から流れ落ちるさまさえ、扇情的であった。

「どう?気持ちよくなってきた」

全身が苦しい、熱い。蔵馬の鞭で縛られた手足の痛みは、今や飛影への愛撫そのものに変貌を遂げていた。そこから、新たな熱が生まれ下半身の一点へと集まるのを、どこか遠くに感じる。

「さあ、飛影。よく啼いてくださいね」










2011/10/17

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