The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.
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凍て蝶 act.1
※R要素が含まれてます。もう1度ご確認。お姉さんは18歳以上ですか?OKな方はスクロール。
「おいで飛影」
蔵馬はその優しい口調とは裏腹に、鋭利な刃物を奥底に隠しているかの如く誘う、いつも。それにあがなう術を知らない愚者な己。
蔵馬に“あの”弱みを握られてさえいなければ・・・
いくどそう後悔したであろう。いくど目の前の男を殺したいと願ったことであろう。
この日も、妖しく花園に舞う蝶のように、ふらふら、と、おとなしく蔵馬に従うことしか出来ない飛影であった。
※ ※ ※
秘していた思いを、あの日、あの時、何故己は抑えることが出来なかったのであろう。抑えてさえいたならば、それ以後、蔵馬に屈辱を味あわされることもなかったであろう。己で撒いた種とはいえ、誰かにその責任を擦りつけ、心の裡にある、暗く、重い濁り全てを、無性に消してしまいたくなる。
幽助の心の神殿には既に先住民が存在していた。あの女、“螢子”という名の幽助の心の唯一の存在。出会った際に思い知ったというのに。その、確固たる思いを覆すことなど、叶わぬと判っていた。傍らで見ているだけで満足ではなかったのか、己は。何故、衝動を抑えきれなかったのであろう。
常であるならば、黒龍波を放ち、己のほうが先に睡魔へと向かう。が、その日は幸か不幸か立場が逆転した。疲れはてた幽助の躰を百足内の自室へと運び入れ、唯一の家具であるベッドへとその躰を横たえた。
瞬間。瞳に飛び込んだ幽助の唇。意思とは異なる心臓の鼓動をどこかで感じた。なんと表現してよいか判らぬ暗黒の絶望感が、この時飛影の心のなかで確かに育んでいったのである。それを直視することに耐えられなかった。己は強い精神の持ち主である、と、どこかで制止する声を聴いたきがした。が、その思いとは裏腹に、瞼を閉じ、その唇に己のそれをそっと重ねた。
覚まさないでいてくれ、今だけ。
飛影のその夢の時は、いつの間にか侵入していた蔵馬によって、儚くも消え去ったのである。
「へえー。貴方、ずいぶんと卑小だったんですね」
振り返ると、壁に背を預け腕組みをした姿勢の蔵馬がたたずんでいた。その黒に近い翡翠の瞳に、冷笑と侮辱が泡のように弾けた。背中に冷たいものを感じ、飛影は蔵馬から視線を意図して反らした。結果、その後、その瞳には、燃え上がるような熾烈な怒りが広がったことに、飛影は気づきえなかったのであった。その怒りは、蔵馬の激しい嫉妬を物語っていたのである。
「何故、貴様がここにいる」
それでも飛影は懸命にたてなおし、蔵馬に対峙した。が、返ってきた台詞に血の気が引くのを感じたのである。
「幽助とここで待ち合わせしてたんです」
内心で鋭い舌打ちをした。迂闊であった。幽助は手合わせの後、大統領政府に呼び出しされていると云っていたではないか。何故、その際、大統領政府の影の重鎮でもあるこの蔵馬の存在におもいをいたらなかったのであろう。幽助のことだ、会議は面倒だから、というもっともな言い訳をたてにし、蔵馬に煙鬼のところ迄一緒に同行するようにと予め申し出ていたのであろう。
「その幽助の様子では、大統領政府迄いったところで、ものの役にはたちそうにありませんね」
「・・・」
「まあ、いいでしょう。煙鬼には俺が言い繕っておきます。でもね、飛影」
腕組みを解き放ち、悠然とした面持ちでもって、蔵馬は飛影との距離を縮めた。突如、片方の腕をとられ、顎を摘まみあげられた。交わされる瞳に、寛容さの類いは1つとしてなかった。ばかりか、勁烈な光をたたえ、蔵馬は飛影を見下ろしてさえいたのである。
クスクス、と、1度乾いた笑みを溢す、と、秀麗な顔を飛影の耳元へと運び、そのなかに悪魔にそうとうする囁きを流し入れたのである。
「幽助には貴方がしたことは黙っていてあげます。その代わり、会議が終わって後、またこちらに来ます。その際、奇淋の部屋で待ってます」
「奇淋の部屋、だと?」
「行けば判りますよ」
突き放され、呆然と蔵馬が部屋を後にするのを見送った。掴まれた側の腕の痛みが、針の如く全身に刺さる思いであった。庇うように、そっと、その腕に己の手のひらをあてがう。その姿は、まるで、蔵馬から己自身を守るかのようであった。
安らかな寝息をたてている幽助を振り返る。それは、無意識のうちに、助けを求めてのことだったのかも知れない。が、当然のように、こたえはなかった。
躯に拾われて後、始めて入る奇淋の室内。今までこれといって口をきいたことはなかった。
ある意味、飛影は躯軍のなかでは孤立していたのだった。躯本人に巨大な権限があるこの百足。その主である躯自ら、飛影の潜在能力を見込まれ引き入れられた。そればかりか、その力を躯自身により、更に高みへと引き上げられた。結果、妬み、嫉みが先行した、新参者、成り上がり、それらの蔭口は飛影の耳にも入っていた。飛影の出現により、躯軍No2の地位を奪われる形となり、奇淋本人は飛影への存在それ自体に警戒と復讐を植えつけたのだった。それらの心の移り代わりは自然な成り行きであったには違いない。誰しも、己自身を追い落とした存在に虚心ではいられない。無論、飛影はそんなささいな地位に固執するタイプではない。力が全てである魔界のありように、疑擬を抱いたこともない。ある種のその潔癖な性格を、躯はいたく気にいってもいた。実はそれこそ、奇淋が飛影を増悪する要因の1つでもあったのである。そして、その思いに最大限に利用したのが蔵馬であった。
最初、蔵馬は奇淋に近づいたのは、純粋な飛影に対する心配ゆえであった。地位を奪われ、逆襲にかられないと、誰が決めた。現に、鯱がいい例ではないか。その心配から奇淋の監視を兼ね、飛影のところへ足しげく通った。無口で、頑なに己の胸の裡を明かしたがらない不器用さ。矜持の高さゆえ、他人に弱点を知られることをもっとも恐れていた飛影。だからこそ、陰ながら彼を守りたかった。その思いが報われることがないと知りつつ。が、ある日、奇淋の常軌を逸脱した行動を目の当たりし、蔵馬のなかに眠っていた悪魔を呼び覚ましてしまったのである。
気づきたくはなかった。いや、気づいてはいた、が、認めたくはなく、ずっとそれから目を背け続けていた。奇淋が得意げに画像を見ていた。侮辱をこめて笑うさまを、蔵馬は制止出来ずに、それに見いっていた。そのなかに映し出されていた飛影の淫らな自慰行為。飛影の唇が、“幽助”と、切なく囁く。瞬間、蔵馬のなかにあった僅かな理性の糸が、音をたてて切れたのである。握りしめた拳は、色を失っていた。
あるいは、奇淋は、飛影の弱みを握り、一時優越感にひたりたかっただけであったのかも知れない。脅せさえることが出来れば、飛影の蒼白になる顔さえ見れたならば、奇淋はそれ以後止めたかも知れない。が、奇淋はその画像の存在を打ち明ける相手の人選を誤ったのである。もっとも見せてはならなかった、蔵馬、にである。
ひとしきり飛影を罵った後、奇淋はこの画像を躯に見せると云い出した。無論、そんな事態になれば、飛影ではなく奇淋に制裁が加わるであろうことは必定。躯は、部下に対し寛大で且つ寛容ではある、が、このての陰惨さを嫌ってやまない。相手の弱みを、取引材料とするようなことは。敵対する相手がこのようなてを使うならばともかく、例えば、黄泉であるとか。それと気づかないからこそ、躯も奇淋より飛影を選んだともいえた。時雨を重く用いるのも同じような理由からであろう。
蔵馬は、これを逆手に奇淋を脅迫した。お気に入りの飛影を害したと知ったら躯からどのような制裁が加わるか少しは考えてみるんだな、と。そして、奇淋は、嫉妬と怒りで狂ってしまった蔵馬に膝を屈したのだった。この時の蔵馬は、妖力において確実に奇淋を数段上回っていたのであった。その冷酷な妖力は、奇淋を瞠目させ、且つ、震えあがらせた。怒らせてはならない相手を、もしや目覚めさせてしまったのではないか。奇淋は、急加速する不安を隠しきれなかったのである。
その部屋に入ると、持ち主である奇淋と、不気味に笑みを称えている蔵馬がいたのだった。
訝しいげに両者を眺めた。蔵馬はそれを確認すると、奇淋にむけなにやら合図する。どこか脅えをはらんでいるふうな奇淋に対し、蔵馬は、冷静でもあり、淡々としていたのだった。その2人の上下関係が、飛影の心の裡に、えたいの知れない恐怖じみたものが広がってゆくのを感じさせたのであった。
何故、奇淋は蔵馬に従っているのだ。
その疑問が解決するよりはやく、壁に埋め込まれたテレビが作動した。吸い込まれるかたちで、そのテレビに視線をむけ、その瞬間、全身に鳥肌がたち、血の気が引く音をはっきりと聴こえたのである。
それは、己の室内であった。
見慣れた壁、見慣れた窓、この魔界で唯一休まる大きなベッド。どれをとってもその場所は、見間違いようがない己の室内であった。一時の驚愕が躰を駆けめぐった後、監視カメラが仕込まれていたのだ、と、そこにいたって理解した。なんのまねだ、そう、問い質そうと2人を灼熱ににた視線をむけた。しかし、映し出された己の醜態に、開きかけた言葉はのみ込まれたのである。
「んっ、は・・・」
映像が進むにつれ、飛影のなまめかしい声が、室内に反響し始めた。身に覚えのあるその光景に、飛影はしだいに慄然となり、瞼を閉じ視線を外したのであった。
「ふぅん・・・あ」
見たくない。
聴きたくない。
止めろ。
止めてくれ!
「ゆ、幽助、・・・うっん」
リプレイされた映像とリンクするかのように、その時を飛影は思い出していた。己のペニスに両手をあてがい、彼の人を脳裡に思い浮かべ、一心不乱に手を動かした、ことを。白濁した液をどこか恍惚として眺めやった、ことを。手におさまり切らなかった大量の液が、茂みをぬうように伝え落ち、後孔にたどり着いた時、なにを望んでいたか。1つ1つ、鮮明に。
飛影の顔色は、死人の如く白くなっていた。
いつの間にか、映像は止められていたようであった。しかし、飛影はそれさえ、気づきえないほど、動揺していたのである。自身の心臓の音のみ伴侶であるかのようだった。
眼前に微かに妖力を感じ、飛影は恐る恐る瞼を開いた。立っていたのは、蔵馬であった。蔵馬は表情がなかった、淡々としてるようでもあり、無機質の彫刻のようでもあった。が、その顔には、逆らえないなにかがあり、飛影はその無言の圧力にたじろぎ、1歩後退した。
伸びてきた蔵馬の手のひらに腕を捕まれ、引き寄せられる。
「ここに来てくれた約束に免じて、貴方が幽助にキスしたことは黙秘してあげます。でも、この映像。・・・どうして、ほしいですか?」
先ほど迄無機質であった彫刻が、悪魔の血でよって、息吹を吹き込まれたかのように変貌した蔵馬であった。表情にも、妖力にも、毒針がこめられていた。それも、かなり強烈な。
「・・・」
「幽助に見せましょうか」
「貴様!」
「いや?そっか。じゃ、取り引きしましょう。“これは”処分してあげます。その代わり、・・・奇淋に抱かれて下さい」
蔵馬の瞳は恐ろしいほど真剣であった。いっさいの妥協さえも赦さない。黒に近い翡翠の瞳には、熾烈な焔が確かに宿っていたのだった。
2011/8/28
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