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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




Immortlle act.3


1週間後───

3人は顔を揃えた。それぞれが、それぞれの思いを裡に秘め。

それは、表情にも態度にも如実に顕れていた。剛鬼は無駄に虚勢をはり2人を明らかに見下していた。妖力において、1番己自身が劣っている引けめからか、あるいは、それを認めたくない心理が働いてのことか、それは露骨なほどの態度であった。飛影は表面化には平静を敷いていた、が、この計画に対しての並々ならぬ情熱が、心の隙間から溢れていることが見てとれた。それは、裏返せば、妹への渇望であることは明らかであった。それと知るのは、この場では蔵馬だけであっただろう。そしてその蔵馬。蔵馬は完璧な仮面を施していた。外側も、内側にも申し分ないほどである。そして、2人はそれを看守することは叶わなかった。相手に秘している内面を悟られる、それは、力のみが優劣の基盤となる妖怪にとって後々自身に致命傷を相手に与える結果に繋がる。そのことを蔵馬は心得ていた。蔵馬のほうに、明らかに一日の長があったといえるかもしれない。

「本当にこいつが“あの”蔵馬か?」

剛鬼の侮蔑とも冷笑ともとれる、糾弾に近いそれは、飛影に傲然とやりかえされた。「確かめてみたらどうだ」その誘導に剛鬼は易々とのった。この飛影の言葉には、明らかに剛鬼を己より、そして、蔵馬より格下と軽蔑していたといえる。

この妖狐蔵馬という男は、見た目に騙されるいい見本だ。ちょうど1年前、飛影自身も蔵馬の正体を謀りかねた、しかし、あの際肌で感じとったのだった。蔵馬の奥底に眠っている正体不明の闇を。その闇がこの蔵馬という男の強さに繋がっていることも。が、剛鬼はそれを気づき得なかった。その差、相手の力量を見抜く力の無さこそが、剛鬼と他の2人の決定的な差であっただろう。挑発にのり妖力を発し蔵馬に殺意を向けた。が、その相手の妖力の底冷えしそうな烈気に、剛鬼は怯みと恐怖を真から覚える結果となった。明らかな格の違いに、剛鬼は冷や汗と共に苦々しく退くしか出来なかったのである。その姿を、飛影は僅かな哀れみと冷笑と共に見つめていた。こうなると見越していかのように。

要点だけをつめた。霊界への侵入と、保管所へのルート、これらの情報の提供は蔵馬であった。そのことを熟知していると確信していたからこそ、飛影は蔵馬を仲間に引き入れたといっても過言ではない。かつて、大妖怪と恐れられ、霊界との繋がりがあると知っていて、それを利用しない手はない。飛影はそう考えたのだった。後に、それを後悔した飛影であったが、今の段階ではそれに気づき得なかったのである。そして、復路。それらを端的に決めたのち、この日は解散となった。

剛鬼のみが去った後、蔵馬が飛影に語りかけた。不審と不満を織り混ぜたそれは、蔵馬の盗賊としての矜持を実は傷つけてもいたのである。この計画の真の発案者は、蔵馬本人である。飛影本人もそのことには未だ気づかずにいる、それはいいとしよう。しかし、この計画自体の失敗は避けたいのが蔵馬の本音であった。飛影の他に幾人いようがかまわない、が、あまりに能力の低さが見てとれる相手では不安材料になるだけだった。が、しかし、この計画を飛影が拾ったからには、正確には蔵馬が巧みに情報を流し拾わせたのだが、主導権を飛影に委ねていることも意味していた。ゆえに、まだそれと悟られてはならない。飛影という妖怪をもっと知る、いや、蔵馬にとって、この霊界への盗みの真の意図とするところは飛影本人だったといえる。それを手に入れるためとはいえ、生理的に受けつけ難い奴と一時でも手を組むことに対し、激しい嫌悪感が蔵馬のなかにこの時はっきりと蚕食していたのだった。今の段階では飛影に対し従う立場だと理解してはいても、使い物にならない奴を組み入れた飛影の真意を謀りかねてもいた。それと同時に、飛影から、剛鬼のような輩と同格に見られていること自体に屈辱を感じてもいたのだった。それらの相反する歯がゆさから、蔵馬は飛影に詰め寄ったのだった。

「あんな奴と手を組むんですか?」

侮辱を隠そうともせず、蔵馬は述べた。足手まといになるのは明らかではないか、暗に2人のみでことは成就する、と、蔵馬は飛影に進言したのだが、飛影は一笑にふした。

「棄て駒は必要だろう」

飛影はこの計画に始めから、剛鬼を数に入れてはいなかった。いや、もっと正解をきすならば、復路には必ずや霊界の追っ手がくる、その追っ手の貢物として剛鬼といういわば棄て石として人選をしたのだった。薄く口角を吊り上げ不敵に笑い、蔵馬にそう述べた。蔵馬はその一言で、飛影の一端を知りえ、飛影と同様に、あるいは、よりいっそう不敵に笑い返した。

「つまり、俺は、奴より信用してくれている。そう、解釈していいんですね」

「今のところは、な」

だからこそ、裏切りだけは赦さない。飛影の瞳はそう述べていた。

その激しく燃えたぎる瞳に、蔵馬は改めて思ったのだった。やはり、この妖怪は自身の思いを裏切らない、と。何故、こうも心が躍動感を覚えるのだろうか、何故、こんなにも満たされるのだろうか。この妖怪の容姿、激しさのなかに見え隠れする危うさ、その仕種迄、1つ1つに惹き付けられるのは一体何故なのだろうか。長い間生きてきたというのに、その答えが未だに判らない、だからこそ、面白い。蔵馬は心のなかで、人知れず会心の笑みを浮かべていたのだった。

まあ、いい。計画は始まったのだ。あとは、ゆっくりと飛影を自身の監視下に置ければ、途中経過はどうなろうと結果が証明さえしてくれればそれでよし。そのための霊界への侵入なのだから。飛影が云うように、剛鬼にはせいぜい棄て駒になってもらおうではないか。どうせそれしか使い途がない奴だ。生きていてもらっても、こちらの思い通りにならないクズには、それ相応の死に様が相応しい。

蔵馬は飛影と別れた後、秀麗な口元に笑みを浮かべた。その笑みは無機質でもあり、美しくもあった。





それから後、霊界の3大秘宝を盗むことに成功した。

蔵馬の手には、暗黒鏡が、妖しく光りを放っていた。飛影の手には、降魔の剣。

剛鬼を仲間に入れるための方便を飛影が口にしていた。この後、飛影によって死を与えられることなど露知らずに、飛影に追従する有り様を瞳に捉え、蔵馬は心のなかで罵っていたのだった。人間を操る、飛影は人間をと云ってはいるが、正確には、より妖力が高い妖怪をその剣の犠牲者に実行するつもりなのだろう。もともと、飛影はこの3大秘宝を巧みに使い、“彼女”の行方を探す道具として欲していたのであろうから。

視線の端に飛影を捉えたまま、蔵馬は自身の思いに遡行する。この1年あまり、飛影はがむしゃらに氷女が流す氷泪石の売買組織を壊滅に追いやってきた。が、肝心の“ユキナ”と、いう目標にたどり着けずにいた。焦りが飛影の裡に、確実に増幅していた。何処にいる。邪眼ですら探せ当てられない。かつての妖力もない。大勢の巨大な力を持った組織に“ユキナ”が囚われの身になっているとなると、到底1人では無理だ。そうして、追いつめられていく彼の様子を、蔵馬は遠い場所から傍観していた。にも関わらず、その飛影の焦りをもっともよく判ってもいたのだった。だからこそ、タイミングを見計らい、霊界の秘宝の情報を流した。

しかし、霊界への侵入は困難を極めるのは必定。そこに至って、蔵馬という妖怪を思い出した。彼の邪眼で、母、“南野志保利”の命が残り火をくすぶっていることを知り、これは使えると、彼は確信したに違いない。自身に暗黒鏡をやるとちらつかせ、霊界への侵入ルートを聴き出す契機にした。暗黒鏡で居場所を、降魔の剣で、自身の意のままに出来る数を確保する。そして、妖力を傘に、剛鬼を脅し、暗黒鏡に彼女の居場所を願い事として聴き出させる。暗黒鏡の捧げ物が命であると、彼は知っていたのだろう。それが叶わぬ時は、自身を。追ってに早々と剛鬼が倒れた時のための保険として、自身をあてがう。それが、飛影が描いていた筋書きである、と、蔵馬は飛影との再会した時からある程度判っていたのだった。そして、あえて、飛影のその策謀にのったのである。

飛影の剣が剛鬼に向けられようとした刹那、重々しい口調で、飛影の意図を壊した。

「悪いが、俺は手を引かせてもらう」

さあ、ここから筋書きの変更だよ、飛影。貴方は俺を見誤った。

「蔵馬、貴様!」

怒りで、飛影の瞳が紅色が増す。その瞳のなんと美しいことだろうか。貴方には、その妖しくも美しい瞳でもって、俺だけを見つめてもらう、これからは、ね。

が、しかし、そこに思いもよらない闖入者が舞い込んだ。

いずれ、追跡者がくるであろうことは蔵馬の予定に入ってはいた、が、コエンマの迅速な行動に内心舌打ちした。そのため、飛影に逃走の機会を与えてしまったとなっては、歯ぎしりせんばかりに蔵馬は内心憤っていたのである。ここからという時に。無論、それらを表面化することはしなかったが。

ここはいったん、退く、か。

チラリ、と、用心深くその人間を盗み見した。1度建て直しを謀るべきだろう、ここは。この追跡者を逆に利用することも可能かも知れない。飛影を手に入れ、さらには、霊界に今1度接触するためには、駒は多いほうがよい。それに、この追跡者の実力を知っておいて損はない。幸い、飛影が棄て石にと選んだ剛鬼がいるではないか。華々しく散ってもらおう、ここで。

「悪いが、俺もまだ捕まるわけにはいかない」

暫し、傍観者として静観するとしよう。





予想外であった。霊力もまだまだ赤子同然の追跡者とは。しかし、それに倒れた剛鬼のなんと不甲斐ないことか。蔵馬は剛鬼に対し、同情も哀れみも抱いてはいなかった。寧ろ、その能力の欠如を突き放すようであった。

しかし、“浦飯幽助”、ね。

ずいぶんと愉快な人物のようだ。彼は、使えるかも知れない。見た目ほど、粗野とも思えない。単純なようではある、が、芯が1本中に通っている。それも、かなり強靭な。蔵馬は冷静に、そう判断をくだしていた。

霊界に捕われることは、最初から蔵馬の予定であった。捕われてもらわなければならなかった、と、いったほうが正しい表現であったかも知れない。それを契機にし、飛影をも霊界の干渉を請けさせることに蔵馬の意図があったのである。霊界の鎖が、どうしても蔵馬には必要だったのだ。自身だけではその鎖を造り出せそうにない。あの、飛影をつなぎ止めておくことは容易なことではない。鎖は飛影にとって、最も忌み嫌う類いのものではならない。ならば、いかにしてその鎖を生み出す、か。そこで、蔵馬は霊界を利用することにしたのである。

あとは、その鎖を自身が握りしめることが叶えば、必然的に自身が飛影の上にたてる。

やはりここは当初の予定通り、母を使い情状酌量を訴えてもそれが叶う立場に自身を仕立てたほうが賢明だろう。浦飯幽助とやらには、それの証人になってもらおうではないか。飛影は、必ず宝を取り戻しに、この探偵の前に姿をあらわすに違いない。その時、この人間に手をかせば、飛影は怒り隙を見せるだろう。そこに乗じることが叶えば。

忍ばせていた暗黒鏡を取り出し、写し出された月に、蔵馬は微笑した。

「貴様には俺に従ってもらう」

暗黒鏡の扱いなど、どうとでもなる。その自信が、蔵馬にはあったのだった。その自信にみちた笑みは、この上なく妖艶に暗黒鏡に照らされていた。今1度暗黒鏡を懐に隠し、闇夜に代わった街へとその姿を消した。

妖力を抑え、殊更にゆっくりとした動作でその彼の前に自身を曝した。傷ついた彼の前に歩みより、制御した表情でもって「3日、待ってくれ」そう訴えた。瞳には驚愕と疑心が交互に浮かんだ。宝を返すと約束をし、その場を去った。

「あいつの目、嘘ついてるようには見えなかった」

向かいのビルに立ち、中の様子を伺いつつ、その彼の言葉に、蔵馬は自身が勝利したことを確信した。後は、いかにして彼を信じこませるか。

月夜にも負けない美しい微笑みを残し、蔵馬は背を向けた。










2011/6/26

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