The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.
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離れていくなら壊すから act.1
ビルの屋上の柵に器用にバランスをとり、飛影は下界を見下ろしていた。両の瞼を閉じ、額に第2の能力を埋めこんだ邪眼。その禍々しく鋭い刃のよう瞳とは裏腹に、彼の表情は見事に裏切っていた。あろうことか、彼を表現するに欠かせない鋭敏、鋭気、は綺麗に消え失せ、静かに、そして、穏やかに、口元が笑っていた。無論、本人にその自覚は無い。
・・・面白く無い。
蔵馬は柵を背にし、飛影のその横顔を見、胸中に呟いた。
判っている、彼が今その邪眼で、誰を見通し、そのような顔をしているのか。痛いほど判っている。血を別けた、唯一無二の妹。彼とは対照的に、穏やかで優しい、誰からも好かれる彼女。だが、蔵馬は知ってる、飛影を愛したから知ってしまった。隠された彼女の一面を。彼女は、強かだ。
あの笑みは、彼女の心の裡にある氷山の表面。
あの優しさも後天的に磨かれたニセモノ。
彼女はとっくに飛影が自身の兄だと知っている。だのに、知らないふりをする。
何時までも、飛影のその邪眼に写る自身を独占する故に。
何時までも、2人が出会った頃と代わらぬ無垢なままな妹。
彼女は、今、こうして飛影が見守っていることを気づいている。桑原君と一緒にいても、いや、きっと、他の誰が一緒にいても彼女は唯一無二の兄の気配に気づくのだろう。そして、それに気づか無い、愚かな飛影。
いや、気づか無いのではないな、彼女が飛影に気づかせさせないのだ。
飛影からは見えない唇を、蔵馬は無意識のうちに歪めた。それは苦痛というの命題。瞳に悲愴を浮かべていたと知るのは、誰1人としていない。そして、それが唯一の救いだったと知るのも、また、蔵馬だけだった。
一陣の風にのって、飛影の忌々しげな舌打ちが蔵馬の耳にも入った。
「チッ」
「どうかしましたか?」
「いや、たいしたことじゃない」
まあ、大方、桑原君が原因だな。何かヘマをやらかして、彼女の手を煩わせた。想像に難くない。そして、毎回、それに苦虫を噛み潰す飛影。いい加減、進歩のないことこの上ないな。
しかし、その飛影たちに嫉妬のこもったため息を漏らす自身の方こそ、よりいっそう滑稽なのだろう。
それでも、この連鎖から逃れられないのは何故か。
それは。
きっと。
「愛しちゃってるから、か」
「何か云ったか、貴様?」
「いえいえ、独り言独り言」
「フン」
「ねえ、飛影」
「何だ、独り言なら聴かんぞ」
「あんまり、雪菜ちゃんばかり見ないでね」
「?」
案の定、飛影は蔵馬の発言の脈絡がないことに対し、眉間に鋭くしわをよせた。それとも、本気でこちらの本意を判ってないのか。甚だ判断に危ぶまれる。
「貴方と俺はどういう関係?」
「セックスの対象」
にべもない飛影の言葉に、冷静沈着を旨とする蔵馬が、唖然とした。ポーカーフェイス、そんな馬鹿げたものは、飛影の前では脆くも崩れ去る。
「そこは、一応、恋人って云って下さいよ」
「くだらんな。云い方を代えただけだろうが」
「本当に、貴方ときたら、善い意味でも悪い意味でも期待を裏切らないんだから」
「一体、何が云いたいんだ、さっきから」
回りくどいのが嫌いな飛影は、最早、纏う気配が殺気に近い。
「だからですね、あんまり雪菜ちゃんばかりかまって、俺から離れようだな」
飛影の纏う殺気に臆することなく、蔵馬は続けたが、飛影がそれをさせなかった。蔵馬の言質を遮るかたちで、飛影が先に迸る。
「離れるも何も、貴様とは割りきった関係だと思ってたがな」
が、これが、飛影の最大の、そして、最悪の過ちだった。
一瞬にして、蔵馬の顔つきが代わったのだった。それは、誰が見ても、背筋を凍らせる価値のものだった。
「云っておきますが、俺から離れていくなら壊すから」
「!?」
蔵馬のその言葉にある、壊す、何を指しているか悟ると、悔しげに飛影は下唇を噛んだ。“この”蔵馬を怒らせてはならない。飛影の野性的本能がそう伝えていた、切実に。
殊更、ゆったりとした足取りで蔵馬は飛影との距離を縮め、うつむいたまま内紛の葛藤を抱えている飛影の顎をつまみ上げ、無理矢理視線を交差させる。
良いね、本当に飛影は期待を裏切らない。
その表情1つ1つが、蔵馬に彷彿と快感を呼び起こすのだった。狂暴という名の。
「約束、ですよ、飛影」
「・・・チッ」
長い躊躇いと葛藤のすえに、飛影は舌打ちを打つしか手がなかった。
顎をつまんでいた蔵馬の手は、指先から手のひら全てに愛憎をこめ飛影の頬に滑らせる。ひたり、と、きめ細かいその頬を包みこむと、誰にも真似出来ない妖艶な、それでいて、苛烈なものを瞳の奥底から放ち、言葉を続けた。
「キス、して、飛影」
「な、に?」
飛影の瞳が大きく開かれる、驚愕によって。
「約束の代わりに、貴方自身から」
脅迫とも、狡猾とも取れるその言い種に、飛影は渇となるが、逆らえばどうなるか、1番飛影自身が身をもって知っていた。
苦々しく思いながらも、飛影は己の眼前で風にたなびく蔵馬の艶やかな黒髪の1房を荒々しく掴むと、身長差を埋めるように己に近づけさせた。唇が重なる瞬間、蔵馬の瞳の奥に、勝利者のそれがたゆたっていた。
口づけは、生暖かい血の味がした。
Fin.
2010/12/18
Title By 確かに恋だった
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