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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




言葉なき来訪者 act.1


※R要素が含まれます。もう1度、ご確認。お姉さんは18歳以上ですか?OKな方はスクロール。















彼が愛しい。何時であろうか、彼をこの手に抱いたのは。彼に口づけたい、彼の肌をこの手で丹念に味わいたい。こんなにも心を捉えられた、思考も、そして、躰をも。躰だけを欲していはいない、彼という奇跡に感謝を感じるほど愛しい。しかし、彼は遠い魔界。溜まる一方の生理的な欲、会いに行けば、例え朝を迎えようとも、彼を離しはしないであろう。ばかりか、こんな状態で赴けば、彼を抱き殺しかねないのは明白に思われた。

今更、善人面をしてどうする。そう、自嘲する己も確かに存在していた。散々、嫌がる彼を無理矢理抱いておきながら。薬を使い、朦朧とした彼を嬲ったりさえした。鞭で縛りつけて手足の自由を奪い、犯すように抱いたこともあった。だのに、彼に嫌われることを怯えているだなんて。ドロリとしたこの感情に流されてしまいそうだ。

ふらり、と、入ったバー。酒を体内に入れれば、多少なりとも、この腐ったものが鎮火する。それ以上の思惑はなかった。が、女のあからさまな誘いの視線。常ならば、冷ややかに黙殺していたであろう。しかし、人肌が恋しかった。彼を抱けないのならば、代用品でこの熱を。

席をたつと、それが合図だったかのようにしなだれるようにして女はついて来た。ホテルに入り、シャワーも浴びずにその女を抱いた。彼とは違う甘い匂い。柔らかな肌触り。しかし、心中で呼び叫び続けたのは、彼の名。躰は満たされた、が、心が寒空に放り出されたかのような。

紫煙をくぐらせ彼を思う。手に残る感触は彼と違っていた。これを、罪悪感、と、人はいうのだろうか。それとも、・・・

「おさまったかしら、少しは?」

女の問い掛けに訝しげな瞳を向けた。

「あのまま放っておいたら貴方、暴走しかねなかったから」

「・・・怖いな、女は」

蓋をし、鍵さえかけていたのに、見透かされた心。それほどまいっていた、と、いうことか。可笑しく思い、唇が歪む。

「フフフ。また溜まったらあのバーにいらっしゃいな。貴方気に入ったから」

「そうならないようにするよ」

「あら、残念」





※ ※ ※





帰宅したマンションの自室。鍵を開け、なかへと入り驚愕した。真っ暗ななか、ソファーに鎮座していた。まさか、彼がこちらに来ていたとは。

途端に芽吹く悪意。

教えたらどうする?

今の今まで、名前も知らない女を抱いていた。それを知ったら、彼の顔色に変化はみられるであろうか。

・・・いや、ないな。

自問に直ぐ様NOと答えた。あり得ない。彼が例え知ったとて、眉1つ動かさないのは明らか。ばかりか、鼻にもかけない。白眼視するだけのように思われた。

やはり、一方通行の思い、か。

これまでも、これからも、代わることのない平行線。どれだけ貴方を好きか、どれだけ貴方に囚われたのか、同時に貴方が憎くて憎くてたまらない。同じく思いを返してくれない彼を。

「今お茶淹れますね」

ネクタイを彼が座っているソファーへと無造作に放り投げ、キッチンへと足を向ける。ちらり、とこちらに向けられた瞳に心がざわついた。まるで、置いてきぼりにあった仔犬のように揺れるその瞳に。落ち着かせた心に、再び黒いマグマが呼び覚ますのを感じられた。

可笑しなものだ。あれほど憂鬱に陥っていたというのに、彼を大切にしたいと思うのに、それと同等に彼をメチャクチャにしたいと思うなど。矛盾が消えない。消えてくれない。所詮、女を抱いたところで代わらない。

「・・・ったか?」

お湯が沸いた音が邪魔をし、彼の発した言葉を聴き漏らした。カフェオレを淹れ、ことり、と、テーブルに置いた。常ならば、伸ばされる手。しかし、石のように微動だにしない彼に、軽い違和感を感じた。

「飛影?」

「よかったか?」

「・・・なにが」

「女を抱いてよかったかと聴いてる」

白皙の肌が常より青白い。唇は不自然のように一文字に硬く結ばれ、戦慄いてさえいた。

頭に浮かんだ単語に、素直に喜べなかった。信じられなかったからではない。彼の云い分に対し、憤りが先行したゆえであった。

「へぇー。貴方邪眼で見ていたの。そういう趣味?」

「なっ!」

「だからなに?女抱いてなにが悪いの。それをどうこう貴方に云われる筋もないはずだけど」

冷ややかに彼を射ぬき、彼の表情を観察する。わなわな、と、怒りがせりあがる彼に対し、己は対極に位置していた。それさえ、彼の怒りを買うことに繋がると承知していても、止められなかったのである。

「それともなに。抱いてほしくなかったの。可笑しいでしょう、それは。俺は貴方にとって代えのきく存在でしょう。今更恋人ぶって拘束しようっていうの?傲慢だね相変わらず」

「・・・れは」

「それとも、俺を好きって云うかい?云えもしないくせに束縛しないでくれるかい」

違う。こんな言葉を云う意思はなかった。が、奥底に眠っていたこれらの蟠り。そう。何時だって求め請うのは己のみ。彼は口を貝のようになにも云わない、態度や仕草でもって伝えてくれることさえも。1度目覚め、口にしてしまったら、誰の手であろうが止められない。

苦虫を噛み潰したような表情を溢し、その場を去ろうとした。このまま行けば、取り返しのつかない事態に陥ることは明らかである。卑怯と罵られようとも。飛影を愛しいと思う純粋な気持ち。それを壊したくはなかっただけのエゴかも知れない。

袖に微かに伝わる振動。彼の手だと判っていても振り返れない。咄嗟に伸ばされた手。他意はないのかも知れない彼のなかには。が、しかし、僅かにホッとしている己がいた。引き留めてくれた、と。

1度歪んだ心情を、正常に戻すには時間が必要である。

ごめん、飛影。今は無理だ。もっと貴方を傷つけてしまう言葉を口にする。

この時、蔵馬には見えなかった。自らの思考に埋没していたがため、飛影の顔が、泣き出してしまいそうなほど危うさを伴っていたことに、気づき得なかった。

小さな風を背中に感じ、蔵馬は訝しげにそっと振り返る。そこには、なにも語らない飛影の背中があった。

判っている、十分に彼の性格を判っている。彼が不器用な愛し方しか出来ない、と。本当のところ、彼がどういった気持ちで己に抱かれているかも。これが、欲望の延長に成り立つ思いであることも。好きと云わないのではない、云えないだけだと。羞恥が先にたつ彼。全部を貪欲に求めてしまう己。時として、この大きな思いは、彼には理解出来ないことも。それでも、云ってほしいと、言葉でもって表してほしいと願う。傲慢なのは彼ではない。己の方こそ強欲で傲慢なのだ。

1度開いた窓。しかし、瞬間、飛影はそこに映し出された自身の情けない表情を見、自然と手がマフラー代わりの白い布を取り去っていた。

あれほど蔵馬に云われ腹がたったというのに、消えない嫉妬。それは同時に図星をも指されていた。あやふやな関係にしておきたいとの表れを突かれた。2人の関係を濁してきた酬いかとも思う。しかし。

好きと云う唇で、他の女に口づけた。愛し者でも見るように細めた瞳に、他の女を映した。優しく、時として激しく求めた手で、他の女の肌を嬲った。

たったそれだけが赦せなかった。

一夜限りだ、と、蔵馬が云えば自身は容易く蔵馬を赦してしまう。それさえ、嫌であった。いつの間に蔵馬に対し、甘くなったのであろうか。いつの間に、蔵馬の全てを信じていたのであろうか。

云わなくても伝わっていると思っていた。が、それは、蔵馬が示す通り傲慢だったに過ぎないのではないか。

葛藤する気持ちを脱ぎ捨てるかの如く、下着も脱ぎ捨てまっさらの姿で静かに振り返る。そこには、予想図に描いていた蔵馬はいなかった。自身以上に困惑した蔵馬がいるだけだった。

「・・・なんの、つもり?」

蔵馬の顔が悪魔に魅せられたかのように歪む。

手に残っている感触を消したい。微かに漂う女の匂いさえも。全て自身で上書きしたい。これほど嫉妬心を露にしたことがないゆえにか、飛影は自身のその行動にどんな顔をつけてよいか判らない、と、いった面持ちで佇む。

「抱け、とでも?」

答えず、俯く飛影。

「判ってるんですか。今俺を赦せば、確実に自惚れるよ」

貴方に愛されている、と。貴方を傷つけた。貴方を裏切った。例え、一時であろうとも、この手は貴方を離れた。それでも、貴方は赦そうというの。赦してくれるの。

やはり、貴方は甘い、ね。

「・・・構わない」

僅かに残留していた理性は、飛影の一言で瓦解したのだった。

躰は正直に反応していた。気づいた時にはこの手に彼を抱いていた。彼は決して確かな言葉を紡いだ訳ではない。が、彼の云いたいことが胸に届いたことは確か。彼なりの精一杯の愛の告白に、嬉しさで目眩がした。

やはり、彼だけが愛しい。その不器用な愛し方さえも。

深い口づけを交わすうちに、トロリ、とした瞳でこちらを見つめ返す彼。歓喜で奥に落ちていた醜さが蘇る。シャワーを浴びてこなかった躰、残る女の香り。瞳に、狂暴なもう1人が灰のなかからら立ち上がる。

「ねぇ。飛影。舐めて」

離した唇に指先をあてがい、綺麗な彼の唇をなぞる。それだけで意味は通じる。

あれほど懺悔のなかに身をおいていたというのに、舌の根も乾かぬうちに彼を虐げたくなる。ごめんね。でも、どちらも愛して欲しい。どちらも本物だから。

「ねぇ。お願い飛影。女の中にいたから、気持ち悪くて」

「・・・」

わなわな、と震える彼の躰。今、目まぐるしく交差していることであろう。愛情と憎悪が。でもね、飛影。そんな顔が1番好きな表情なんだ。貴方の葛藤する顔を思い出し、自慰をするほど。貴方を思い白濁に汚れた手を見つめ、恍惚とするほど。やはり、どこか壊れているのだろうか。

クチュ、と、音をたて、蔵馬の硬く熱いペニスをその口に頬張る。ムッとむせかえるほどの雄の匂い。そこに微かに残る匂いが胸をざわざわと掻き回す。指示を請けた訳だからではない。自身が我慢ならなかったから。蔵馬の乱れる姿を知っているのは己だけでいい。この熱く、グロテスクな楔に貫かれるのは己だけでいい。声を殺し、獣のようになる姿を知っているのは己だけでいい。女の残り火など、蔵馬に残せておけない。

「女のなかに入っていたのしゃぶって、美味しいの飛影?」

狂暴な狐は詰る。しかし、辛辣な台詞と裏腹に、その手はどこまでも優しく飛影の髪を梳くのだった。愛しているから、赦しを請う瞳で。

激情に赴くまま抱いた。解していない小さな秘口を獣のように後ろから彼を犯す。律動のたびに歪む彼の表情が窓ごしに映し出され、それさえ媚薬となり己を煽る。硬くたぎる楔を最奥へと衝く、同時に閉まる躰。達しそうになる寸前、彼の肌が仄かに色ずく。「はっ、はっ」と、肉欲に貪る浅ましい自身の声。重なり合う肌と肌がぶつかる音。隙間を埋めるにゅちゃにゅちゃとした水音。

「イキたい、飛影?」

「や、・・・も、もう。・・・だ、だめ」

「イキたいなら、俺の名前を呼んで。ねぇ、呼んでよ、飛影」

「んん。・・・あ、く、蔵馬」

喘ぎのなかに掠れた名前。が、それだけで充分であった。彼に覆い被さり、日焼けと無縁な白い項に唇を這わせ跡を残す。そして、彼の胎内に生をぶちまけた。
腹のなかに満たされる熱い蔵馬のもの。ぶるり、と、満たされ躰が震えた。この液が自身の血となればいい。この液が自身の肉となればいい。どろどろに蔵馬と1つになれたなら。ぐちゃぐちゃに1つに溶け合えたなら、この苦しい思い全て判り合えるのだろうか。


夢中で躰を貪る獣たち。窓ガラスに彼から放たれた白濁の液が、彼からの証。言葉に出来ない彼の代わり。

ガラスに腕を伸ばし、ツゥー、と、指先に絡めとり口元へと運ぶ。彼の匂いに、口元が歪む。

失神する前に呟いた彼の言葉。「貴様だけ・・・」まだ足りない、と、望む貪欲な感情をもてあます。その後はなんと綴られたのであろうか。蔵馬は知る術がない。

ねぇ、愛していると囁いてくれるのは何時ですか、飛影。この身が壊れる前に囁いて。










Fin.
2011/5/16
Title By 確かに恋だった

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