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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




でも貴方は、逃げない act.1


飛影は長い眠りから目覚めた。蔵馬はその身に覆い被さるかたちで、その宝石のように美しくも激しい瞳を覗きこみ、妖艶な笑みを口元に飾ってみせた。飛影の漆黒の髪に唇を1度落とし、彼の背に手をまわし、寝台から起きあがる手助けをする。

「おはよ。ずいぶんと寝てましたね」

「・・・何処だ、ここは?」

飛影のその問いかけは当然であった。最後の記憶は、百足の自室だった筈。突然訪ねてきた蔵馬に対し、2、3、文句を云ったあたり迄は記憶にある。が、その後の記憶が、もののみごとに空っぽであった。

おそらくは眼前の奴の仕業に相違ない。詮索の必要性を感じず、飛影は、表面上の怒りをため息とともに飲み込んだのみであった。眠り薬か、それに類する草花、それも、魔界の強力な植物を使用したに違いない。躰の節々が痛い悲鳴をあげていた、奴のことだ、寝ている時でもお構い無しにこの躰を抱いたに違いない。その証拠のように、蔵馬は下のみ、こちらもとうぜん衣類は下半身の一部にかろうじて残っている、といった姿であった。ばかりか、妙に下半身のとある場所が、ずきずきと未だ熱と疼きがおさまらない。粘着性の液体が、下着共々濡らしており、不愉快げに舌打ちをした。

キッ、と、重たい頭を振り払うかのように、蔵馬を睨みつけた、が、相変わらず、その表情に変化は見られない。いや、寧ろ、その代わらぬ表情に、チカチカ、と、警鐘が心の裡にも脳裏にもなり響く。

「ここね、昔、塒に使用してた場所なんですよ」

「それで、監禁でもしようって訳か?馬鹿馬鹿しい」

蔵馬は己に対し、異常ともとれる執着をみせていることは承知していた。気まぐれに人間界に行けば、必ず、躰を求めてきたのだった。始めの頃は奴のしたいようにさせていた。抵抗らしい抵抗もしなかった。が、徐々に2人きりでの空間に息苦しさと、蔵馬の異様な光に気づいた。それ以後、肌を奴に預けるのを拒否した。しかし、拒めば拒むほど、氷よりも冷めた瞳で見つめ、異様な笑みさえをもみせるのだった。捕まったら、きっと逃げられはしないだろう、そう、思わせる魔力が宿った、そんな妖しげな瞳。

危険だ、これ以上近奴に寄れば、身の破滅だ。そう感じとり、人間界に行かなくなりはや半年がたつ。

が、どうやら、蔵馬はとうとう精神の堤防が切れたらしい。そう、苦々しく判断したのだった。

「ククク。監禁なんて、とんでもない。自由にここを出入り出来ますよ。・・・ただね」

顎を奴の指でつまみ上げられ、蔵馬のその不快な瞳と対峙する。深い黒に近い翡翠の瞳、その奥底にたゆたっているのは、間違いなく、熾烈で危険な焔だった。

背中にいやな汗が一筋落ちた気がした。戦闘中、飛影は1度として恐怖を抱いたことはない。だのに、この時、飛影は蔵馬に対し、明確な恐怖を抱いたのであった。

「1度でも、この空間に入った奴は、1週間と絶たず、舞い戻るんですよ、自分自身の意思で」

舌打ちとともに蔵馬の手を払いのけ、シンプルな木々を基調にした部屋には不釣り合いな豪奢すぎるベッドが中央に置かれていた。未だギクシャクする躰を戒めながらその身を立たせた。一々こいつに付き合ってやる義理などこちらには最初からない。出入り出来るのなら、蔵馬自身から離れた方こそ得策というものだ。近くにいるというだけで、己の身がどうなるか知れたものではない。

引き留められることを覚悟したが、あっさりと拍子抜けするほど蔵馬は己がその場を出て行くのを見送り、肩透かしをくらった気がした。が、後日、この場に自身で舞い戻ったのだった、奴の宣言通りに。





「やあ、飛影、お帰りなさい」

出迎えた蔵馬は、優美なほど優しく微笑みかえし、この身を抱きよせた。その上、顔のあちこちに唇を落とす、なんて煩わしい奴なんだ。蔵馬のこういう人間くささが1番鼻につく。

距離を僅にとり、威嚇の声をあげた。

「貴様、何をした!?」

最初の2日はなんともなかった、しかし、次の日から躰に違和感を覚えた。そして、更に次の日、喉の渇きと躰の震えが止まらなくなったのだった。冷や汗が躰中から溢れ、体力は明らかに落ち、視界が霞むのは日常とかした。止まない頭痛に嘔吐。邪眼は日に日に視界が狭まり、今では飾りになりはてた。

蔵馬は己を離すと、先ほど迄の甘い雰囲気の様子を、ガラリ、と、鮮やかに一変したのだった。しょうがないなあ、とでも云いたげな表情、腕組みをし、こちらを見下す態度に、ムカムカ、と、怒りが放出する。

「貴方が悪いんですよ。いつまでも俺を拒むから」

「何をしたと聴いてる!」

荒げた口調で問詰したが、蔵馬は一切耳に入ってる様子はない。そればかりか、クルリ、と、こちらに背を向け悠々と中央のベッドに腰を下ろし、ニコリ、と、やわらかな微笑みをかえした。

その姿を紅い瞳に捉えた際、この場に不釣り合いな想像をした。

まるで、死を司る魔王だ。と。

そして、おもむろに。

「貴方の妖力、美味しいってさ」

何を云われたのか、咄嗟には判断出来なかった。眉間にしわがより、いっそう鋭く睨みかえした。

「な、に?」

「ここね、俺の育ててる植物の栄養貯蔵庫のようなものなんだ。貴方は云わば肥料。1度でもここに入った者は、その妖力を記憶され、栄養として奪われる。奪われたくなければ、妖力をあげるしか手はない。死にたくはないだろう?俺だって、貴方には死んで欲しいだなんて願ってない。だから、貴方は強くなるしかない」

「ふざけるな!」

「大丈夫ですよ、貴方の黒龍と一緒と考えて下さい。妖力を餌にして、俺の支配下の植物はより強く成長する。要はギブアンドテイク。貴方は今よりもっと強さを手に入れられる、俺は貴方を看病という大義名分を借りて抱きほうだいということさ。ここの餌にはなりたくはないだろう?」

ククク、と、笑みさえ浮かべた。奴は殊更ゆったりと己を呼び寄せたかと思うと、そのまま服を全て脱ぎ捨てた。そして、軽々と抱き上げ、ベッドへと下ろされたのだった。どうやら、このベッドそのものが、記憶装置であり、妖力を吸いとる装置か。あまりに、奴の考えそうなことに、いっそう腹立だしい。

「震えてるね、可哀想に。麻薬と一緒だからね、ここの溜まったものを吸わせて肥料に代えないと、ずっとこのままだよ、飛影」

やんわりと、それを握られ、軽く上下にしごかれただけの躰、しかし、たったそれだけなのに、躰はもう、知っている。蔵馬に触れられた場所がひどく熱い。身をくねらせ、意識を散開させようと試みるが、躰中が熱くてたまらない。

熱い、熱い。速くこの熱から解放されたがっているあさましい己の躰。

が、しかし、こんなあさましい躰へと代えた蔵馬を憎悪の眼差しで見返した。

「貴様、ぶっ殺してやる!」

「いいね、ぞくぞくするその顔。肥料を貰えたならば、ここの木々はおとなしくなるよ。貴方も普通に戻ります。ああ、先に云っておきますが、俺を殺したら、貴方もどうなるか、想像するのも一興でしょう?」

震える躰を抱きしめられ、そのまま、ベッドへと半ば拘束された。思い通りにならない躰が歯がゆい。

鎖骨に唇が落ち、蔵馬はそこに歯をたてた。

「ッ!」

血特有の鉄の匂いが鼻腔をかすめた。

「俺が憎い?」

「当たり前だ!」

「だったら強くなることですね、俺を殺せるくらいにね」

フフフ、と、蔵馬の笑みとは対照的に、その時、確実に、飛影のなかに蔵馬に確固たる殺意が生まれ落ちた。地の果て迄追いつめてやる。その決意を、蔵馬は敏感に感じとり、確信に代えることに成功したのだった。

さあ、俺を、俺だけを追いかけておいで飛影。矜持を傷つけられた貴方はきっとこの状況を脱却する。貴方は絶対に逃げない。俺だけを憎み、俺だけを怒り、俺だけを殺そうと、躍起になる。そして、こんな身になったことを、蔑み、怨み、卑下するのであろう。そして、またそこから憎悪が生まれ落ちる。

これから後、ずっと、1分1秒たりとも、貴方の心も頭も俺でいっぱいになる。なんと、美しい未来であろうか。

蔵馬は飛影に口づけながら、ひっそりと微笑んだ。

待ってるよ、いつまでもね。

貴方に殺されるその日を、永遠に。

そして、貴方はその時になって始めて気づくのさ。失った“何か”を、ね。

待っているよ。飛影。貴方だけを永久に、ね。










Fin.
2011/2/25
Title By 確かに恋だった

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