The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.
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愛してるうちに殺しますか act.1
幽助の店へと足を運ぶのは、いつの間にか愚痴を溢しに行く、と、同意語に成り代わっていた。
その日も例にもれず。
「痴話喧嘩もほどほどにしろよ」
暖簾をくぐったその瞬間の、幽助の有難い、そして、多少の酸味、と、皮肉も加わった台詞だった。
「痴話喧嘩、か」
「何だ、違うのか?俺りゃあ、てっきり飛影とひと悶着あったもんだと」
最後に、ニシシ、と、ある意味無邪気に笑い声をあげからかう幽助こそ、幽助たる所以だったかも知れない。が、今は、一々、そのことにかまってやる余裕も無いに等しかったのである。飛影のことになると、自身でも驚くほど、どこ迄も傍若無人に変貌する。その結果、幽助に八つ当たりぎみの、嫌みともとれる言葉を続けたのだった。
「楽しんでません?」
「そりゃおめー、他人の不幸は蜜の味ってな」
うん、確かに、一理ある。自身だとて、他人の不幸を生き血にして生きてきた、生き証人そのもの。妖怪が相手なら、それはそれで楽しくなぶり、不幸や地獄絵図の溝を、楽しんで広げにかかるであろうこと疑いないな、自身の性格上。仲間で、友人でもある、幽助と螢子ちゃんの仲が、もし、拗れでもしたなら、盛大にからかうであろうし。と、心中でもって、些か意地の悪い予想図を描く。が、しかし、この2人は、直ぐにもとさやにおさまってしまうのも目に見えており、からかう側としては、多少物足りなさも感じるしだいで。結果、様々にもてあました感情は負に傾斜し、雪菜ちゃんと飛影の仲が拗れないものか、と、危険思考に期待が高まる、どおりになってしまうのも、又、1つの事実。
他人の不幸は蜜の、味、か。
「勝手なことを」
半は、自身の中に住む悪魔に対し、云い聴かせる為に呟いた言葉である。
「どうせ、あれ、だろう?又、おめーがねちねちとやるからだろうが」
「それは何を指して云ってるのかな、幽助?」
何を、のことをよくよく幽助は判った上で聴いたに違いない、が、そうそう素直に頷く自身でない、誰が相手であろうとも。幽助は幽助で、ことを脳裏に生々しく描いてしまったのか、真っ赤に熟れたトマトのような顔をする。飛影も、幽助を見倣って、1度くらいはこうした反応を見せて欲しいものだ。戦闘中の真っ直ぐな思考と行動の幽助とは違い、本命の色恋には、意外や意外、未だに螢子ちゃんとは幼なじみという危ういバランスを保っている。速く、自身のように強姦でもして、ものにすれば済むものを。そのくせ、真逆なことも平然とやる。遊び好き、言葉を下品に代えれば女好き、幾度、幽助が女と連れだって歩いていることを目撃したことか。1度などは、女と別れる際、四面楚歌だったもようで、無理矢理引っ張り出されもした、しかも、「悪りー、こいつ俺の女」と、きたもんだ、呆れかえり、言葉も出なかった。女装さえしていなかったというのに、あっさりとその女は引き下がったものだから、よけいに腹ただしいこと、この上なかった。無論、その後、幽助には痛いお仕置きをしておいたが。だのに、他人の情事はウブな反応を見せるから、本当、困ったことだ。
「当たってるのが癪ですね」
「もうちょい飛影のこと待ってやれよ」
それは、精神的に、と、いうことを指している、と、判った蔵馬であった、が、喧嘩をして飛影を怒らせてしまい、しかも、こちの一方的な嫉妬で、彼を詰った、その結果、彼をこの腕に抱けないという、そのたった1つのことで、こんなに心が荒れ狂う。狭いと、詰られようが罵倒されようが、こればかりは、如何な、蔵馬であっても心が右往左往する難題であった。
「ねえ、幽助」
「あん?」
「君や躯や時雨や死々若丸や周や才蔵や修羅や凍矢や狐光や九浄や北神や奇淋や棗や痩傑と、手合わせするのを禁止って、そんなに俺は心が狭い?」
「・・・」
幽助は、蔵馬の表情が至極真面目であるが故に、咄嗟には反論出来かねなかったのである。そして、正直なことをいえば、甚だしく呆れたのである。何となく、喧嘩の原因が見えた。要は、飛影を、例え、戦闘の一環であるとしても、彼を拘束しうる輩に我慢ならないってこと、か。
ここ迄くれば、一種の病気、だな。
内心で、そう結論づけると、漸く反論に出た幽助であった。
「ああ、蔵馬。1ついいか?」
「どうぞ」
「名前、多すぎ」
あげたこの名前だけの、嫉妬と憎悪と、1%の羨望が蔵馬の内部にガン細胞の如く詰まっているのだということを、幽助は即座に理解した、が、続けられた蔵馬の台詞に、尚も、呆れかえったのである。
「そうかい?かなり省略して述べましたがね」
その台詞を耳から吸収すると同時に、始めて、幽助は飛影に同情したのである。
容姿、頭脳、力に名声、その何れか一方を手に入れたいが為に、人間に限らず妖怪も努力して止まないというのに、眼前の妖怪は、生まれながらに、それらを、さも当然の如く、神か悪魔に与えられ生を受けた。幸か不幸か。今までは、それだけで済んだのであろう。蔵馬自身も、与えられたそれらを最大限に利用し、長い間生きてきた、ようだ。結果、その類いまれな容姿の光に、虫のように惹かれてきた輩は、それなりに遇し、あるいは、徹底して冷遇し、利用価値が無くなったと身と判断すれば躊躇うこと無く棄てる。策謀に利用出来るか否か、あるいは、自身の頭についてこれるか否かで他人を判断する。この為、おのずと自身が中心になる、結果、自身の裡での嫉妬や妬みやらいう感情とは、一切無縁で生きてきたのであろう。他人には与えておきながら。
が、始めて、惚れた相手が、“あの”飛影では、それらは、逆の効果をもたらすようであった。
矜持が人一倍強く高い飛影が、他人に干渉や束縛されることを嫌い、自身の思い通りにならないその飛影に対し憤り、飛影が唯一見せる愛情の対象である妹雪菜ちゃんには悪意、いや、正確には殺意を持ち、手合わせする輩には、今まで味わったことが皆無の嫉妬を禁じえない。かといって、当の飛影を嫌いなど到底なれない、その悪循環。
「で、おめーは、手合わせするなら全部自分が相手になるとか云ったわけか」
「うん。ご明察」
「あのな、今さら云うのも可笑しなもんだが、飛影の手合わせは食事と意味代わんねーんだぞ?」
そう、毎日、同じ料理を出されれば、誰だって嫌けがさすというもの。朝食に軽く俺、昼食に少しばかり変化を望み奇淋や時雨、3時のおやつ代わりに死々若丸や凍矢、夕食は豪華に躯や棗、そんなとこだ。深い意味など、飛影のほうには、少しも、これっぽっちも、1ミリもない。飛影、という人物を知る者であれば、それは、ごくごく当然であり、認識でもある。
それすら、赦せない、とは。蔵馬のご執心ぶりに感嘆すら覚える。
「そういうものかな?」
「そうだって」
「・・・こんなに愛してるのになあ、俺1人じゃ足りないと暗に云われてる気がしてね」
「バーカ。飛影のこと考えりゃ、おめーに躰預けた時点で、好きだって認めてるようなもんじゃねーか。他の奴らだったら、あいつの性格上一思いに殺してるっての」
「そう、かな?」
うんうん、と、自分自身を、又、この場にいない飛影の為にも熱心に同意し、蔵馬の前に、奴のお気に入りのラーメンをチャーシュー多めに、無論、多めにしたのは励ましと、反する同情が幾ばくか混入してはいたが、ドン、と、勢いよく差し出した。蔵馬は、内心はどうあれ、爽やかな笑顔迄ご丁寧につけ加え、ありがとう、と、云うと、ぱりん、と、備え付けてある割り箸を割り、食べ始めた。
何やら、未だに自身の思案中の真っ只中なのか、蔵馬は俺手製のラーメンを食べている最中でも、心ここに在らずな様子だった。
飛影が絡むと、冷静沈着な表の面は、あっさりと消失し、蔵馬が裡に抱えこんでいる悪魔という正体が表舞台に現れるのだった。だからこそ、このように無言でいる時の蔵馬が1番近づいてはならぬ、と、過去の経験から幽助は学んでいた。
筈、であった。
何気ない蔵馬の呟きに、空気に見えない凄まじい落雷を落とし、俺に恐怖というものが駆け巡る。冷や汗をかいたといってもいい。
「愛してるうちに殺そうかな?」
とてもではないが、誰、とは聴かないでおいてやった。蔵馬自身の為にも、又、飛影の為にも。俺にしちゃ賢明な判断であっただろう。そして、蔵馬の愛してやまない飛影に向けて、心中で十字架をきったことさえも、又、誰にも云えはしないだろう。幽助は、狂気と相容れない枷に悩む蔵馬にかける言葉が浮かばない。
相棒から仲間へ代わり、続いて愛着へ、そして、執着から歪み始めた愛情。
その先にあるものを知るものは、誰1人としていない。
愛は、永遠、なんて陳腐で甘い言葉は、あるいは、この2人にとっては、1番遠い言葉なのかも、な。
それだからこそ、愛している、と、互いにわかち合っている、又は、錯覚している今のうちに、か。
判らなくもない、が。蔵馬のその考えを否定する権利も、留めてやる権利も、幽助は持ち合わせてはいない。何れの途を選び進むのは、2人が決めること。
愛情の成れの果ては、神にも判らぬことなのだから。
Fin.
2010/2/13
Title By 確かに恋だった
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