- Awake Main - | ナノ




The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




2番目に好きな人 act.1


何をおいても、彼は、“雪菜”ちゃん。

今、こうして、パトロールをさぼった口実と称して、人間界に退屈しのぎに来ていても、その場所が例え、躰を繋げた間柄の自身のマンションにいる時でさえ、自身がこの腕の中に閉じこめている時でさえ、何げない日常の会話の最中でさえ、貴方のなかを1番に占めている存在は彼女。

時として、その過剰な迄の、彼が、双子の妹に対する愛情は、自身の裡に眠る堕天使を呼び起こす。盲導で偏執的で、そして、凶悪狂暴な。これを、独占欲だと気づかせたのも、又、貴方。

好き、などという、甘やかな領域は、軽く飛び越えてしまった。

愛している。

愛しすぎた、彼を。

この世界の唯一無二、誰の代わりにもならないほどに、彼だけを。

が、貴方の1番になれないことも、充分すぎるほど判っている。始めから、勝敗のつけようが無い勝負、彼女に敵わないなど、痛いほど承知している、が、この思いが日に日に肥大するのも自身ですら止められ無い。

以前、彼に問うた。

「俺が行方不明になったら、貴方は、邪眼を憑けてくれましたか?」

無益な問いと、それを聴いた自身が1番よく判ってはいたのだ、が、聴かずにはいられなかった。貴方の中の、俺という小さすぎる存在は、果して何%の割合を占めているのかを。無駄と知りつつ、確かめずにはいられなかった。

聴いた瞬間の彼の表情は、心底呆れた顔をしていた。煩わしげに、あるいは、忌々しげに、ため息さえも漏らしていた。馬鹿馬鹿しとさえ思ったのかもしれない。先ほど迄両者に纏っていた、匂いや熱など、その瞬間、鮮やかに冷却した。

ああ、聴かずに済めばよかった、と、直ぐに後悔し自身を詰った。

誤魔化した言葉はありふれており、それさえも、彼には不愉快だったらしい。後始末もせず、服を正し、こちらを一瞥した時の彼のルビーに似た瞳の中に見いだしたのは、迷い子のような自身。そして、彼は何も答えてはくれないまま、魔界へと帰って行ってしまった。

長い間生きてきたが、これほど自身の心を掻き乱す存在は今までいなかった。妖怪としてのみ生きていた頃は、誰も教えてはくれなかった感情。いや、必要ではなかった感情、欲を感じたならば、女を奪え抱けばいい、その場で、女が見つからなければ、男でもいっこうにかまわない。しかし、人間に成りすまし、人間の情を母から知識として与えられた時に錯覚した。愛したら、それが同等に返ってくると信じていた自身は、何と愚か者であろう。





時々、雪菜ちゃんを街に連れだし、人間界のいろはを教えると称して、桑原君を筆頭に、蛍子ちゃん、温子さん、静流さん、そして、何故か暇を見つけては霊界から現れるぼたん。そこに、ボディーガードとして、幽助、桑原君、俺が加わる、大体、月に1、2度は行っている、最早、慣例行事とかしていた。今日は、飛影も、パトロールをさぼって合流した。殆ど、無理矢理引っ張って来たといった方が正しいが。

「お久しぶりです。飛影さん」

雪菜ちゃんのその愛らしい挨拶は、飛影に柔らかなものを加える。一見すると判らない、が、その眼差しに、烈火のような鋭さ、苛烈な棘、それらのものは一切消失し、あるいは、霧消してしまう。俺自身には決して出来えない。それこそが、彼女の特権であり権利であるかのよう。

その光景は、自身の胸中に、羨望と、悔しいさと、嫉妬が入り交じり、荒れ狂う焔となって暴れるのだった。

云ってしまおうか、彼が貴女が探している兄だと。

云ってしまおうか、何故、貴方がその瞳を手に入れたのか。

壊してしまいたい。何もかも。徹底的に。

貴方を抱いている、と、そう知った時の彼女の顔が、どのように変化するか、見てみたい。

同じ男に組み敷かれ、啼いている、と、真相をばらされた時、如何に彼の表情が変化するか見てみたい。

それらの夢想が、無意識に顔に出ていたらしく、この中のメンバーで、唯一、自身と飛影の事情を知る幽助が、コツ、と、肘をあて、「スマイルスマイル。んな面してっとバレっぞ」と、耳打ち際に茶化しながら忠告してくれ、幽助に感謝すると共に、自身の心の狭量さにも呆れかえる。

全く、冷静沈着を旨とするこの自身が、一瞬といえども、何と滑稽な失態を演じてしまったことか。幽助に見破られるとは情けないにも程がある。慌てて、裡に抱えた思いを隠した上で表情も造り代えた、そして、何げなくを装い飛影を見ると、謀ったかの如く視線が交わった、その瞬間、彼は冷やかな眼差しを返したのだった。

・・・ばれた、な。

今、自身が何を思っていたか、彼にも判ったのだろう。

雪菜ちゃんに対する、過剰とも、鋭敏ともとれる、彼の触覚に、どうやら、触れてしまったらしい。

雪菜ちゃんたちがいる手前、彼は彼らしく無言を通した、が、恐らくは先ほど迄自身が考えていた謀は確実に彼に知れただろう。胸中で、1つ、自身には不似合いな、情けないため息を溢したのは、帰った後に、彼に責められることを案じてのことだった。嫌われたか、な。

いや、元々、嫌うだとか、好きだとか、彼にはそういった感情自体をこちら側に1度として向けたためしが無い。ただ、呆れただけか。それとも。

止めた。考えるだけ無意味だ。

大人しく、彼からの叱責に甘んじたほうが幾らかは、マシ、というものだ。





彼女たちとのショッピングから解放され、飛影と連れだって自身のマンションに戻る。その間、彼は一言も喋らない。それが、これから死刑台に立たされる囚人のような錯覚を育むのだった。

部屋の中へと入り、飛影のお気に入りの紅茶を淹れる。俺自身を疎ましく思いながらも、こうして部屋にきてくれるのは、何故、か。考えるだけ意味の無いこととも判る、が、少しでも、彼のなかに自身がありたい。それを証明するが如く、紅茶は決まってローズTeaを差し出す、まさに、意地の延長行為のなにものでも無いのだ、が、それを、彼は1番気に入ってる。部屋の中に、暖かな柔らかい匂いが充満するのとは反対に、飛影の表情はそれとは対極にあった。

「雪菜ちゃん、楽しそうでしたね」

自身から進んで、首にロープをかける言葉を、殊更彼にかけた。

一瞬、空気が凍る。

「貴様、余計なことを雪菜に云おうとしていただろう」

「ごめんね」

素直に謝罪する、無論、暗黙のなかに、別の言葉、愛しすぎて、と、つけ加えたのだった、彼は舌打ちをした後に、思いもよら無い言葉をその唇からつむぎ出した。

「雪菜は雪菜だ。だが、貴様は貴様だ」

「・・・え?」

どういう意味、そう問う前に、飛影は続けた。

「以前、貴様聴いたな。行方不明になったら邪眼を憑けるのか、と」

ごくっ、と、戦いとは違う種類の恐怖心から喉がなり、ある種の期待をこめ彼を見つめるが、何時もの棘々しいものがなりを潜めていた。先ほど、彼女に見せたものとは違ってはいたが、その瞳の中には、嫌悪の類いは見あたらない。これは、本当に期待してもいいのだろうか。

しかし。

「邪眼を憑けたから貴様と会ったんだ。考えたことも無い。第1、貴様が、行方不明になるという予測が成りたたん。貴様は誰かを攫うほうだろうが」

ああ、やはり、少し、論点が外れてる。あの時の冷やかな瞳は、自身が誘拐される、その如何に馬鹿馬鹿しさを感じてのことだったとは。が、それであったとしても、あれから後、彼は彼なりにそのことに関して思案していてくれたようだと知れた。それは、ほんの僅な光。

「そういう意味で、聴いた訳ではなかったんですがね」

「じゃ、どんな意味だ?」

逡巡の後、核心部に近い言葉を選び、彼に改めて問うたのだった。

「好きだから。貴方は彼女を大事だから、邪眼憑けたんでしょう。だから、その」

「つまり、貴様を大事かどうかという話しだった訳か、あれは?」

「まあ、端的に云えば」

「下らんな」

一刀両断な彼の台詞に、少なからずショックを受けた、そして、ショックを受けている自身に更にショックを受ける。まあ、始めから判っていましたがね。

「だが、まあ。貴様がいなければ、人間界に来ることもなかろうな」

それは、囁きにしては少しはがり大きな声だった。

「それって、どういう意味が含まれてるんですか?」

「・・・知るか!頭がいいんだろう貴様は。だったら辿り着くことだな」

飛影はそう云うと、冷めてしまった紅茶を一息で飲み下し、忌々しい、との棄て台詞を残して、魔界へと帰って行った。





「うーん」

「結局、未だに答えに辿り着けずにいるんだよね、これが」

夜半、幽助の屋台の小さなカウンターに座りながら、先日の件を話したのだった、が、当事者の自身に判らないものを幽助に判れということじたいに無理な話しであったかも知れない。

が、幽助は、何やら真相を思いいたったのか、向こう側からのり出す勢いで1つ口にした。

「あれだ、ほれ!」

「あれ、とは?」

「雪菜ちゃんは1番、で、おめーは2番ってやつだ!」

「・・・それ、あまり嬉しくありません」

「そう、しょげんなよ。飛影からしてみりゃ、破格のランキングじゃねーか」

「ランキング、ね」

カウンターに行儀悪く肘をつき、多少毒を含んだ視線を店の主たる幽助に見せた、が、彼は気づいているのかいないのか。まあ、恐らくは後者であろうが。

「君も同列に含まれてそうで、嫌みにも聴こえますが」

「睨むな睨むな、俺は、たんに戦闘部門ランキングだな、そんなかじゃ、結構上位?んで、おめーは気に入ってる部門ランキングの1番」

それらの説明は、何だか幽助らしくて、妙に納得してしまって可笑しくなった。しかし、振り分けがあるのか。

「愛してるランキングじゃ無いのがね」

「その特別席は雪菜ちゃんしかすわらせる気ねーだろうから、諦めろや。ん?待て待て、するってーと、愛や好きの次に重たいってーと、やっぱお気に入り、だよな。気に入ってるランキングじゃあ1番何だから、やっぱ、蔵馬は2番だな!」

「愛してるランキング、のかい?」

「まあ、そこらへんで勘弁してやれや」

そこで、新たな客が入り、へい、まいどー、と、威勢のよい幽助の声をBGMに代え、1人、心中で甚だ物騒な思案に耽る。

1番になるには。

彼女を、殺る、か?

貪欲な愛が向かう先は。

破局という名の交響曲を奏でるのだろうか、はた又。

愛しすぎた自身の、敗因であることは確かのようだった。










Fin.
2011/1/21
Title By 確かに恋だった

prev | next





QLOOKアクセス解析
AX



- ナノ -