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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




誇空に馳せる act.1


酔った勢い。それ以外のなにものでもなかった。飛影も翌朝には何事もなかったかの様に振舞っていた。それにどこか安堵した。例え責任をとれと詰られたりしても、蔵馬にはこの時その気はなかった。自身、ろくでなしだと思うが、正直飛影との関係を壊したくない。だからこそ、記憶から黙殺した。しかし、すぐさまそれが誤りであったと気づく。簡単なことであったのに、目の前に理由は存在していたのに、怯えて無かった事にしてしまった。

あれから数ヶ月。代わらない関係。が、しかし、確実に代わった。訪れを今か今かと待ちわびる自身に対し、飛影は夢幻花の花粉を取りに来る以外用はないとばかり。希薄になってしまったのは自身が飛影に手を出した。その一事であろうことは明白であった。怒りからか、それとも矜恃を踏み躙られたと思ったのか。確かめようにも1度無かった事にしてしまった事を今更聴けるはずもなく。悶々と日々を過ごす。

そんな折、とんでもない噂を耳にした。飛影が、あの飛影が男娼の真似事をしている、と。最初はあり得ないと一笑に付した。が、しかし、蔵馬は目の前の扉を前にし硬直していた。あり得ないと思っていた事が、今まさにこの扉の向こう側で行われている。そう悟るとともに、全身に回る血が沸騰するのを蔵馬は自覚した。気づくと扉を開け中へと足を踏み入れていた。知らない男の妖怪に組み敷かれ、飛影は夢中でその快楽に酔っていた。愕然とし、手足が震える。

「・・・、ずいぶんと楽しそうな事してますね」

発した声に、自身すら恐怖を覚える。それほど冷たく毒が含まれていた。

男は思わぬ登場の蔵馬に驚き、慌てて飛影のなかから出し、衣服もそこそこに飛び出して行った。気だるい気に起き上がる飛影の太腿からは、先ほどの男と交わった証が流れ一種妖艷な光景であった。しかし、それとともに沸きあがる嫉妬。今まで抑えこんでいたものは、爆発寸前であった。

「なんの用だ」

自身をも上回る冷たい声に視線。飛影は突然乱入した蔵馬に、始めてと云ってよいほどの苛烈な視線を投げつける。

蔵馬は辺りを見渡しベッドの周辺に魔界での札が数枚散らばっていることに気づくと、更に顔をゆがめる。あの飛影が金で抱かれているだなんて、信じたくなかった蔵馬にはその有り様はまさに地獄絵図に等しかった。

「・・・。たまたま百足に用があっただけです」

なんとみえみえの嘘をつくのだろうか、と、自身に呆れかえる。云いたいことも伝えたいことも山程あったのに、ここにきてそれらが霧消してゆくのを、蔵馬はどこか他人事の様に感じていた。本当は飛影に会いに来た。真相を確かめたかったのも確かにある、だが、しかし、本当の理由はただただ一目会いたかった。なのに・・・

乱雑した札を拾い集め、飛影に差し出しながら自身でも寒気が伴うセリフを口にしていた。沸きあがる苛立ちは黒い嫉妬を意味していた。

「こんなはした金でよく抱かれてましたね。それとも、男咥えるの好きなの。淫乱」

青ざめるどころか、飛影は灼熱にも似た鋭い視線を投げつける。

「貴様には関係ない!」

関係ない、か。それは蔵馬からしてみれば毒矢の様に心に突き刺さった。あの夜もまた同様に意味のないものなのだ、飛影の視点から見れば。後悔も自責の念もない、無論、愛などない。自身だけがもがき苦しみ、飛影は本当になにもなかったのだ。最初こそそれは望ましく思ったが、自身の気持ちに気づいた今となっては飛影のその振る舞いそのものに愕然とし次いで悲しみを凌駕する嫉妬を覚えたのだった。

「クスクス、そう、ですね。確かに。・・・じゃ、これの倍出しますよ、俺にまた抱かれませんか?」

「な、・・・なにを」

乱暴に飛影を組み敷くと、その躰に残る痕跡に怒りを覚える。

「やっ!やめろ!」

飛影の激しい抵抗に、更なる悲しみが産み落とされる。そんなにも触れられたくないのか、と。

蔵馬は鞭で素早く両手足を拘束すると飛影の上半身をベッドへと押しつけ腰だけをあげる体勢をとった。双丘を開くと、先ほどの男の残滓が蕾から溢れ落ちる。蔵馬はその光景が我慢ならなかった。指を数本ねじ込むとともになかに残る痕跡共々かき出す。

「ひっ!・・・ひんん、やめ、ぅん!」

飛影はそれからも逃れるかのように頭を必死にふり、躰をもねじり蔵馬からの決死の逃げをうつ。

次の瞬間、蔵馬の周辺に黒炎が降り立った。しかし、殺意が足りなかったのか、蔵馬の気迫に負けたのか、黒炎は蔵馬を焼くには不充分であった。しかしながら、それは、飛影が蔵馬に向けて黒龍を出したと同じ事が云える。今まで、手合わせの際にも1度としてなかった、黒龍。飛影には闘うに際し一種の美学があり、敵とみなさなければ黒龍を出さない。黒龍を支配下におさめた当初はコントロールに難しく、又、出さなければ飛影自身に死が待っていた。しかし、今の魔界は平和へと代わり、飛影自身も黒龍を完全なる支配下におさめている。その為か、飛影は剣の道を極めようとしているかのようであった。この為、幽助などは手合わせの際躍起になって飛影に対し黒龍を出させようと必死になっていたほどであった。その飛影が蔵馬に向けて黒龍を放ったのだった。哀しみが驚愕をはるかに上回った。

蔵馬は自虐的な笑みを1つ浮かべると、拘束していた鞭から飛影を解放した。飛影は眠りに落ちていた。安らかとは云い難い。幾重にも苦悶を抱えた寝顔に、蔵馬のほうが最初に耐えらなくなった。逃げるようにその場から去っていったのである。

その日から数週間後。まるで蔵馬が帰宅するのを待っていたかのように、空が突如暗黒へと代わり、雷が轟く。その雷雲から黒龍が現れた。真っ直ぐに蔵馬の住むマンションへと降り立つと、黒龍はその姿を蔵馬に始めて見せたのだった。長髪、黒い瞳に黒い肌。黒い衣装、その漂うものはまるで覇王のようであった。

「・・・、噂には聴いていたが、本当に具象化出来るとはな」

「我主の使いで来た」

「クククッ、ご苦労なことだな、たかが夢幻花の花粉を取りに来るとはな」

「・・・」

黒龍は魔界の炎の化身である。絶大な力を取り交わす為には、その主である飛影の妖力が絶対条件である。初期の頃は炎を呼び出す力が足りなく、危うく飛影は腕を無くしかけた。しかし、その後この黒龍は飛影との今の力関係に落ちついた。奇妙な話しであるが互いに拮抗した関係であり、又、飛影は黒龍を支配下へとおさめるとともに、黒龍はその対価として力を与える。飛影の妖力が増せば、黒龍も又力を得る。今、蔵馬の目の前にいる黒龍はその過程で本来の姿を得た黒龍であった。しかしながら、絶対の服従関係。はるか昔に1度だけ聴いた、魔界の炎の本来あるべき姿。お伽話と思っていたが、飛影は黒龍をここ迄成長させていたのだ。素直に感服するが、蔵馬には絶望を与えに来た死神にしか見えなかった。もう、飛影自身此処には来てくれないのだという。

用意してあった物を渡す手が震える。それすらも可笑しくてならない。

「私は貴公を見誤っておったようじゃ」

剣呑に云う黒龍だったが、それとは対照的にどこか淋しさを漂わせていた。

「・・・。どういう意味だ」

「そのままの意味じゃ。貴公ならば主を救ってくれるものだと期待していたが、誤りであった。残念だ、今の主を私は気に入っていたのだが、もはや刻限に近い」

「・・・、飛影から、離れると?馬鹿な!お前たちは契約を交している筈だ!」

「さよう。しかし、主の妖力が衰えを見せるならばそれも止む無し」

飛影の妖力が衰えるだと。馬鹿な、つい先日会った際もそんな兆しは微塵も感じられなかった。げんに、黒炎を出し蔵馬を一時苦しめたではないか。

「やはり、判ってはいない様だな。なにも妖力だけが問題ではない。不安定な主の心も私は影響を受ける」

不安定な、心。飛影の心の変化を始めて知り得ざわめく。

「・・・、俺に原因の一端があるとでも」

「一端?本当になにも判ってはいないのだな。何故、主があの様な事をしているのかも。云った筈だ、主の妖力が衰えると私は眠る運命だ」

「つまり、飛影は男たちから妖力を吸い取っていたとでも云うのか」

それこそあり得ない話しである。飛影は氷女の子だ、氷女にそんな力はないと断言出来る。

「延命処置だ、私へのな。無論勧めたのは私だ。先も云ったが私は今の主を気に入っている。あれほど穢れがない者は魔界においては稀有じゃ。力を純粋に求め、私を本来あるべき姿迄にしてくれた。離れ難いのが本音」

「貴様が勧めただと!?」

「ああ。しかし、あの様な策に出ようとは私も予測していなかったが。その点、追い詰めた責めは受けよう。本来私は強き妖力によって力を発揮出来る。誰でも良い・・・血、数滴で良かったのじゃ。主から入ったものを私が変換する、それで事足りた。だが、主は全て自分自身の女々しさがまいた種だと云いはりあの様な策に及んだ。だが、結果、主の心は益々雲に覆われた」

その時蔵馬にはフラッシュバックの様に飛影の顔が浮かんだ。なにもなかった様に振る舞いながら、その瞳には確かに不審ななにかががあった。あの時、泣いてなどいなかったが、顔は笑っているのに瞳には涙が浮かんでいた。傷つけ倒れ込む様に眠る飛影の苦悶な表情。もし、今考えている事が正しいならば、自身はなんと愚かな事をしたのだろうか。同じだったのだきっと。なにもなかった様に振舞っていたのは、自身に気持ちを悟らせまいとしてのことだったのだ。だが、それは同時に飛影に希望を失わせたに違いない。叶わないのだ、と。どれほど飛影を悲しませたのだろう、どれほど飛影を傷つけたことだろう。そして、自分自身を責め続け、痛め続け、黒龍の存在そのものにも影響が出るほど。そして、追い討ちを掛ける様に飛影を金で抱こうとした。

「切り捨てたければそうするがよい。主は力を失い、私は又深い眠りにつくのみ・・・」

黒龍が去った彼方を蔵馬は哀しみの瞳で暫く見ていたのだった。





※ ※ ※





───・・・黒龍の声が聴こえない。その漆黒の姿も見えない。飛影は無意識に手を伸ばす。しかし、常ならば感じるはずの熱がない。ああ、逝ってしまったのか、俺が弱いばかりに。すまないすまない

「・・・ゅう」

重たい瞼を開くと、そこには黒髪の長髪の男がいた。一瞬、黒龍かと思った。しかし、違う。柔らかな翡翠が己を心配そうにのぞき込んでいた。望んではならない蔵馬。なのに、何故ここにいるのだろうか。とうとう幻覚も見るようになってしまったのだろうか。

「・・・い、飛影、飛影」

「ま・・・蔵、馬?」

「そうです俺だよ飛影。ああ、急に起きないで、もう大丈夫だから」

大丈夫、とはなにを指しているのか咄嗟には判断出来なかった。しかし、辺りの血の匂い によって漸く覚醒する。そうだった。黒龍を人間界へと送り出した後、数名の男たちが部屋へと入り、そして、その男たちに・・・

が、しかし、もう男たちには息がない。己ではない。黒龍を放った後でもあったし、ならば、蔵馬がこれを成したのだろうか。しかし、それが本当だったとして何故。

「飛影、もうこんなまねしないで。ごめんね、俺がもっと速く打ち明けてたら。ごめんね、ごめんね、飛影」

何故そんなにも優しく抱きしめてくれるのだ。これは本当に蔵馬なのだろうか。

「飛影愛してます。だからもう」

蔵馬は飛影の顔をのぞき込んで息を呑む。ハラハラと静かに雫を落とす様にどれほど飛影を傷つけたか思い知らされた。涙を流す瞼に何度も口づけをし、信じてくれる迄耳元に囁く。そうして、強く抱きしめた。もう、離さないと決めたのだ。又馬鹿な事をするかもしれない、飛影を又傷つけるかもしれない、でも、この思いは本物だから。だから、ずっと傍らにいさせて、飛影。おずおずと背に回される小さな手のひら、この時ほど蔵馬は嬉しく思ったことはない。





主よ、暗闇は晴れた。主が泣くと此処にも冷たい雨がふる。雪がふる。私は雨や雪が嫌いじゃ、主に力を渡せなない。しかし、もう心配はない。私は此処にある。共にある。又私を呼ぶと良い。祈ろう主の心に2度と雨が降らない事を・・・───










Fin.
2014/11/16
Title By たとえば僕が

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