The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.
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君に愛を囁くのは僕だけでありますように act.1
飛影が忽然と魔界から姿を消した。魔界だけでなく、人間界にも霊界にもその痕跡は見あたらなかった。ふらりと1人で出てゆくこともままあった為、当初は誰1人として不信がることもなかった。しかし、消息がたち3ヶ月半年1年となると、誰もがその安否に疑問視するのは必然といえた。魔界が以前と異なり、1つの政の下に統治される様になってはや数年。先代煙鬼から始まり2代目大統領を拝命したのは躯であった。先代同様に躯は各地に自治権を与え、これを統治した。その結果、かつての主要国家は都市となり下がった。しかしながら、もとは国としての基盤が出来ており、無理に内政に口出しすればかつての国主たちが黙ってはいない。例え小さくとも国として機能していたものを無理に壊せば、魔界全土を揺るがしかねない危険を孕んでいた。辺境の小国家であろうともそれは些かも代わりない。なかには敢えてトーナメントには出場しない国主もいた。弱いからではなく、国の安寧を望んでの事であり、又、そうした国々は独自の文化や因習、それらに準ずる希少種族であったり価値があり、魔界を統べる大統領政府にとっても介入するには困難が伴う。故に、煙鬼は大統領の任期の間に魔界全土に国が幾つあるかを測り、引き継いだ躯はそれらの国主に対し不可侵と都市国家としての地位を与えたのだった。しかしながら、完全なる不可侵ではなく、霊界の関与を認めさせた上での不可侵条約であった。これに反発した国家もあるにはある。当然といえば当然であった。無秩序こそが秩序であった魔界。反発を覚えるのは必然であった。しかし、それらの国家は反乱勢力とされ魔界から名を消され、住む者も全て消された。これを統一へのやむを得ない処置とみるか、その判断は非常に難しい。発端は小さなものであっても、はからずも為政者となった責任を放置する事は煙鬼も又躯も出来なかった。しかしながら、これにより魔界に住む住人の数が正確な数値をみた。こうして、妖怪も魔族も、人間同様死後は霊界へと導かれるかたちをとったのだった。遥か昔は冥界があり、死後は冥界へと魂が導かれていたが、今はその在処さえも消滅してしまっていた。冥界自身、権力に取り憑かれたかの様に霊界へと反乱をおこし、そしてそれに続く混乱により冥界への道は鎖されたままであった。この為、おびただしい魂が魔界をさ迷い、瘴気がそれらを吸い込み限りなく腐臭を漂わせた。よどみ沈殿してゆくばかりのさ迷う哀れな魂たち。霊界の思惑は別とし、長年に渡りこれらに憂い悩まされた事は確かである。霊界の判断基準で死後裁かれるのは翻意ではない。しかしながら、死屍た魂を吸い込んだ瘴気はS級クラスの妖怪とて下手に手出し出来なくなっていた。それに、霊界との和平協定そのものがなくなれば、魔界はまたしても乱世を迎える事だけは確かであった。煙鬼から始まり躯の時代迄に及んだ魔界統一は一応の終息をみた。が、しかし、こうして魔界が統一したものの、いっこうに飛影は見あたらなかった。躯は大統領権限をもって魔界全土に索敵をかけ飛影を捜したが、手がかり1つ見つからないでいた。
数ヶ月に1度の霊界との定例会。百足の一室に大統領政府の面々が揃ったのは飛影の失踪から1年がすぎていた。
「霊界には来ておらぬ」
一同を見渡し重々しくコエンマは云う。
「魔界にもおらぬ。無論、氷河の国にも所在は確認されなかった」
そう応えたのは躯の政務の右腕である時雨であった。
次いで一同の視線がある男に留まる。眉目秀麗ではあるが、ただ美しいだけではない。その瞳は氷の様に寒々しく、他者を鋭く射貫く力を有していた。冷酷非情とも云われ、過去には残虐な所業をしてきた狐。しかし、一同が注視したのはそれではない。この狐が飛影を全くもって捜そうとしない、その疑念からであった。
やはりというべきか、その平静さに爆発したのは幽助であった。何故心配しないのか、何故捜そうとしないのか、何故そうも冷静でいられるのか。飛影とは恋仲だと思っていただけに、蔵馬の態度は疑問しかわかない。それだけに留まらず幽助を激高させるセリフを吐くありさまであった。
「居ない人わざわざ捜し出してどうするの幽助」
「おまえな!」
「・・・、まさかとは思うがお主何処かへ飛影を監禁しているのか」
時雨の言質はこれまで誰もが1度は考えたものだった。しかし、これまでの蔵馬の飛影への溺愛がそれらを否とさせてきたのだった。又、そこまで馬鹿なまねはするまいという考えもあった。
「なるほど、ね。俺は疑われてるわけですか。クスクス、じゃこれをどうぞ」
テーブルの上には様々なかたちの鍵が置かれた。植物を模したものから言霊迄多種多様の鍵。その累々たる数にも驚いたが、蔵馬があっさりと自分自身の塒を曝したことへの驚愕がこの時は優った。奥の手を幾つも持っていそうな蔵馬の行動に皆釈然としない顔を浮かべあう。そして、それらを嘲笑うかのように宣言したのだった。
「どうぞ全部調べてくださってけっこうですよ。誰も居ませんがね」
幽助は幾つかの鍵を掴むと、蔵馬に向け鋭い視線を残して去っていった。残りは大統領政府で調べるらしい。
蔵馬は用が済んだとばかりに人間界へと帰っていった。
その態度が却って確信をよんだ。躯だけではなく、この場にいた者たち全てが犯人は蔵馬であるとの認識を得たのだった。霊界にまだ行ってないところをみると、無事ではあるだろう。が、しかし、蔵馬の残虐な一面が表に出て飛影を苦しめていることには違いない。塒の鍵はこれで全てではないであろう。もっと最下層の危険地帯。そこに居るのではないか。
「躯様。やはり、最下層迄調べるべきかと」
しかし、時雨の提案に躯は首を縦にはふらなかった。まだあの辺は瘴気が色濃い。むざむざ死にに行かせるようなものだ。しかし、そこでふと躯は疑問に思った。あの様な場所へとあの計算だかい蔵馬が行くだろうか、と。蔵馬自身もそうだが、飛影をも危険に曝す様な場所へと敢えて行くとは思えなかった。
結局、蔵馬が差し出した場所には飛影はおろか、誰1人としていなかった。
それからさらに数年がたった時、漸く蔵馬の狂気が明らかになった。
蔵馬は昨年学生時代の女性と結婚した。蔵馬も落ち着いたのかと安堵する者、飛影を忘れ、捜そうともしないでと憤慨する者、と周囲は様々であったが。そして、翌年子供が生まれた。その子供は、蔵馬でもなく、母親の麻弥でもなく、恐ろしく飛影に似ていたのだった。
「・・・。どう、いう」
幽助を始め病院に見舞いに来ていた者たち全員が絶句した。雪菜に至ってはその赤ん坊を目にとめた瞬間泣き崩れた。本能がざわめき慄く。眼前の男の狂愛に。
「クスクス、適合者見つけるの苦労したんですよ」
「適合者だと!おめー飛影になにした!」
「ちょっと苦しいですって、この手離して幽助」
今にも蔵馬を殺しかねない幽助を桑原が後ろから羽交い締めして離す。それでもまだ怒りがおさまらないのか、肩で息をし視線はきつく蔵馬を捕らえたままだった。
「魂のクローンですよ」
「な、なんだと?」
「そんな事が赦されるとおもっておるのか!」
コエンマは慄然とし次いで理解した。誰の目も届かないところで実験を重ね、飛影から魂だけを抜きその魂のクローンを完成させたのだと。霊界でも魂のクローン体は研究されてきた。近年に至って理論的には可能とされたが、人の場合と同様に倫理感、又、嫌悪感がそれらの研究に推進する力を失わせていた。しかし、時々奇妙な形跡がある妖怪が霊界へとあがってきていた。魂と肉体の結びつきが非常に弱い妖怪たち。そういった種族かともおもったが、目の前の美丈夫が犯した罪だったのだとここに至って漸く悟る。
「そんなに悪いことしましたか俺。確かに実験はしましたよ、でも、誰1人殺してませんよコエンマ。それは貴方が1番判ってるじゃありませんか」
確かに。それらの妖怪が霊界へと来たのは自然死であった。しかし、計算されたかの様な微笑に誰もが寒気立つ。
「クスクス」
「何処でそんなおぞましい実験をしておった。お前の塒は全て調べた筈じゃ!」
「冥界です」
「なんじゃと!?あそこはお前たち自ら」
「ええ。邪魔だったし消しました。都合がよかったからあそこは。なにせ、滅んだ場所迄捜そうだなんて誰も思わないでしょう」
それによりコエンマは悟らざるを得なかった。あの時から、既に冥界を視野にふくめていたのだと。
「飛影の本体もそこに未だあるのか」
霊界に魂が来ていない以上、本体もまだ冥界にあるのだろう。しかし、疑問がわく。冥界への行き方であった。
「なんなら見てみますか」
そう云うと、蔵馬はあの次元刀を出したのだっ、桑原にしか扱えない筈の。
「ああ、これ?人体クローン実験の段階で、遺伝子だけに限らずその特殊能力も寸分たがわず写し取る事に気づいてね。能力だけを移植する事にも成功したんです」
誇らしげに語る蔵馬とは対照的に、皆の顔色は蒼白なものへと変化した。蔵馬がひと振りすると、そこはまさに冥界へと続いていた。薄暗い回廊の両脇には無数の胎児が液体カプセルに保存されていた。これら全てが飛影のクローン体。蔵馬の狂気が具現化された光景に慄然とする。長い長い回廊の奥に、飛影はいた。胎児たち同様液体カプセルに保存されたかたちで。意識も意思もなく、ただそこにあった。
「クスクス、飛影、見つかっちゃった。せっかく貴方を閉じ込めたのに」
「まるで飛影も了承しているかの様な言い種じゃな」
苦々しくコエンマは吐き捨てた。
「フフフッ、だってこの飛影1番じゃないって云うんだもの。好きだけど1番じゃないって。1番は雪菜ちゃんなんだって。それで俺は理解した。ああ、飛影にとって至高の愛は家族なのか。だったら、俺自身が飛影の家族になればいいんだって。最初は魂剥がして、俺がやった様に胎児に移せばいいかなと思ったんですが、それじゃ1度しか家族になれないでしょう?俺は飛影の父親にもなりたい、兄にも弟にも従兄弟にも。祖父だって叔父だってなりたいもの。クローンなら、それも魂のクローンなら飛影を何度でも愛せるし愛されるもの」
「あの娘と結婚したのは飛影の父親になりたかったからか」
ただ、飛影への愛故に。敢えて人間の女性と結婚した蔵馬の底知れぬ愛しかたが恐ろしく感じた。
「ええ。飛影人間の愛情表現に興味あったみたいですし。1度くらいいいかなと。だから、この胎児とあの女のなかに出来た胎児を融合させたんです。人間のなかで霊力ある女捜すの大変でしたよ。次は氷女にするつもりです。1番適応するんじゃないかと思うんですよね。まあ、適応しなかったら別の妖怪の腹を借りるつもりです」
そうして生まれた飛影たちに蔵馬は今と同様の美しい笑みを浮かべ云うのだろう。貴方だけの家族だと。貴方を愛しているのは自身だけ、時に父親として時に兄弟だと嘘を云うのだろう。そして、その偽りの愛をも独占し洗脳する。そこにあるのは虚しい虚構であり、独りよがりでしかない。
「もう、いい。黙れ」
「どうしたの幽助?あんなに飛影捜してたじゃないか。会えて嬉しくないの?」
狂ってる。
こいつは永遠に飛影の魂を独占するつもりなのだ。
無数にある飛影たち。虚構の飛影たち。だが、何れも本物の飛影。
最早飛影を戻す術はないのだという苦い認識だけが残った。
その後、蔵馬は霊界の牢獄へと繋がれた。妖力も封じ込められ、人間と融合したため蔵馬の身には霊力も備わっていた故に霊力も封じ込められ、それでも、蔵馬は笑っていた。
「ねえ、飛影はもういくつになったかな?」
会いにゆくたびに人間界に遺してきた遺児を、愛おしい本物の息子の様にいつまでもいつまでも案ずる蔵馬。蔵馬のなかでは続き続ける親子愛。そこには1点の曇りもない。だからこそ恐怖する。
なあ、蔵馬、飛影。どこで歯車が狂ったんだ。どこで愛情が狂気に代わったんだ。どこで歪んだんだ。
怖いほどに・・・───
Fin.
2014/11/11
Title By capriccio
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