- Awake Main - | ナノ




The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




罪状=愛 act.1


彼と敵対関係になると判るとともに、裡なる声が歓喜の雄叫びをあげた。これで口実が出来る。彼に刃を向ける口実が。この生ぬるい生地獄から解放される。だが、しかし、それはこの時は夢物語で終わることとなった。幽助の存在が、その後、魔界で思わぬ事態へと変革を遂げたからである。しかし、1度芽吹いた種は、確実に成長していった。

どうして、こんなに迄も自身は代わってしまったのだろうか。たった1人に振り回され、毎夜、星を眺めるように彼の訪問を心待ちにしている。今日は来てくれなかった。明日は来てくれるだろうか。怪我など負ってはいないであろうか。毎晩、そんな心配ばかり。そのくせ、臆病風にふかれ、彼に会いに行けない。魔界へと続く道で、幾度その足を止め、似合わぬため息を溢したことであろうか。

始めは戸惑い、勘違いであると自身に云い聴かせた。憧憬を恋だと錯覚しているに過ぎないのだ、と。だが、それらは全て徒労へと変質していった。認めてしまえば、それらの苦悩から解き放たれ楽になれた。そう、彼が好きなのだ自身は。だが、この歳になってからの恋は、麻疹と同様だった。大人の麻疹。そう、死さえ招き兼ねない重症ということだ。あまりにも好き過ぎて、あまりにも愛し過ぎて。どれが本質か判らなくなってさえいた。歪み始めた愛情は、周りの景色さえも曇ってみえた。

とろけるように愛してあげたかった。真綿で優しく包むように。時折、冗談で彼に好きだよと云ってみる。本気であると、彼が気づくことがないようにと、軽々しい口調で愛を囁く。しかし、決まって彼は難しい表情をし、俯いてしまう。でも、そんな彼さえも堪らなく可愛くてならなかった。そんな苦い表情をさせているのが、他ならない自身であると思うだけで満たされた。本当は穏やかな笑顔を欲しているくせに、その苦悩の顔1つで、薄汚い感情が独占する。気持ちを認めると同時に、醜い嫉妬も共に息を始めてしまった。

醜い感情は、日に日にそれは愛しいと思う気持ちをも呑み込み始めた。彼のたった1人になりたい。彼の記憶の一部になりたい。永久に忘れ得ぬ存在になりたい。どんなかたちでも。最初から彼の愛情を求めなかった。彼が自身に向けているものが、仲間意識しかないと理解するがゆえに。そして、それ以上は彼のなかでは気持ちは育たないであろう。そう、決めつけていた。そして、それが、最大の誤りであり罪の始まりでもあった。

「いらっしゃい、飛影」

闇夜と同化した衣装を纏い、ベランダから微かに彼の芳香な匂いと魔界の匂いが室内へと流れる。だが、彼はそこから1歩たりとも動こうとはしない。彼が来ると予想はしていた。

「クスクス。どうしたの、入っておいでよ」

赤いルビーの双眸がこちらを睨む。額の第3の瞳も開かれたまま。その佇まいは内在する膨大な怒りを背負ったままであった。だが、一瞬、ほんの僅か、彼の表情が表現し難いものへと代わった。

「どうしたの。怒らないの?貴方は俺を殺したくて来たんじゃないんですか?」

穏やかな口調とは裏腹に、毒の針がそこかしこに含まれていた。蔵馬の瞳は弓なりに細められ、同時に唇が可笑しそうに笑みをかたちどる。まるで、悪魔が蔵馬の裡に降臨したかのように。それは、見る者を震えあがらせるには充分であった。

「・・・。何故だ」

この飛影の小さな声に、どれだけのものが込められていたのであろうか。

「フフフ。“その目”で見ていたならば、判るでしょう」

刹那、彼の顔色が蒼白なものへと代わった。内紛する怒り、憎しみ。そして、これから彼女を失う悲しみ。それらが、彼の美しい赤い瞳を徘徊していた。さあ、飛影、今こそ刃を向けてごらんよ。それを交わして、貴方の一部になるのだ。貴方は永遠に俺という存在を忘れ得ない。愛してくれなくてもいい。貴方が俺を愛する筈はない。こんな身勝手で、汚い狐を。嘘でしか、自身をあらわせなくなった愚かな狐など、貴方に相応しくはないのだ。こんなにも愛してるのに、貴方を傷つけたい。こんなにも好きなのに、貴方の心を汚したい。いや、もう既に手遅れだ。貴方のその顔を見たい自身を止められなかった。屈辱感に満たされたその表情を見て、自身はこの時確実に歓喜していたのだから。

「断っておきますが、同意のうえで抱きましたよ」

「・・・、な、に?」

「クククッ。彼女、結構具合がよかったなあー。また、抱いてみたい。あ、無理、か。分裂期の周期に抱いてしまったから。惜しいことしたかな」

周到に調べあげた。氷女の分裂期を。半年もたてば、彼女はこの地上から消える。妖怪の子が育つスピードは、人間とは異なる。1番邪魔な存在を、自分自身の手で処断した。それもこれも、彼からのたった1つの憎しみが欲しいが為に。それは、かつて冷酷と謳われた妖狐そのものであった。その身を抱いた後は、氷河の国へと彼女を追いやった。これで生まれてくる子は氷女たちの手によって、その短い生涯を閉じるであろう。飛影と同様にその国から落とすとすれば、自身が必ず手を下す。彼女に繋がる者など、この世に遺しておくものか。

悔しくてしかたなかった、彼の愛情を一身にうけることが出来る彼女が。本当はそういう眼差しを欲していた。そういう微笑みを自身にも向けて欲しかった。

だが、何故彼女は抵抗しなかったのであろうか。それが不思議といえば不思議であった。ただ静かに「罪と罰は平等に与えられるものですものね」彼女に触れた際、それが最後の言葉となった。が、しかし、それももはやどういう意味が含まれていたかなど知る必要もない。あるいは、彼女は自身に同情したのであろうか。それとも。それとも、やはり、彼女は兄である飛影を1人の男として愛していたのであろうか。その罪を自分自身に向け、罰とし受領したのであろうか。

「嘘、だったのか?・・・、俺を好きだと云っていたのは、あれは全部嘘だったのか」

あれほどはりつめていた糸が、その瞬間こと切れたようだった。赤い瞳から、始めて雫が幾つもの流線を描きながら零れ落ちる。

「・・・。飛、影?」

そこに居る彼が、始めて頼りなげに見えた。あれほど矜持が高い彼からは想像もつかないほど。ひどく、幼子のようにも。

「俺は、・・・。一体どちらに裏切られたんだ?」

その瞬間、自身は彼に好かれていたと知った。愚かな行為を行ってしまったことも。そして、後悔という感情が、始めて自身の全てを支配した瞬間でもあった。

求めていたものは、こんなにも目の前にあったのに、・・・

「飛影」

「触るな!」

「・・・、飛影、俺は」

再び暗闇へと消えてゆく後ろ姿に、“愛している”、そう、始めて告げた。だが、それは、暗闇に吸い込まれ、彼には届かなかった。いつ迄も、その光景が焼きついて離れなかった。その後、彼の消息が途絶えた。

約半年の後、俺は雪が舞い散るなか赤子を1人拾った。銀髪の美しい髪に、金褐色の瞳を有した愛し仔を。その赤子の手のひらには、この世でたった1つの美しい氷泪石が握られていた。

神よ、罪深いこの仔に、どうか、光をください。愛という名の光を。

それがせめてもの贖罪になるのでしょうか、・・・

蔵馬は白銀の空を見上げ、吐息した。

「緋影─ヒエイ─」

彼の名で、蔵馬は息子を呼ぶ。愛しかった思いもその名に刻み。その瞬間、赤子が薄く笑っていた。雪のように透明で、寒々しい微笑を。それは、これから始まる監獄へと導く笑みのように蔵馬は見えた。

いつか、いつの日にか貴方にもう1度出会う迄、この仔を愛して行こう。それが、罪をかさねた者の罰であもあり、光であるのだから。この仔は罪のかたちであり、自身たちが貴方を確実に愛した証。

帰っておいで、飛影。もう2度と貴方を裏切らないから。この地に帰っておいで、愛しい人よ・・・









Fin.
2012/5/2
Titl By HOMESWEETHOME

prev | next





QLOOKアクセス解析
AX



- ナノ -