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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




99%のbitterlady act.1


周囲の認識度と比べ、飛影と雪菜は実のところ仲睦まじい。どれくらいかというと、恋人“蔵馬”との間に生じた物事全て話すほど。このため、雪菜は兄と蔵馬の馴れ初めから全て情報を得ていた。雪菜は兄がそれはそれは大好きだった。互いに兄妹だと名乗りはしなかったが、肌で、その魂でもって兄妹だと察していた。大好きな兄が同性の狐さんに惚れていることも、すぐさま見抜いた。しかし、兄たる飛影は同性ということに負い目を感じていたらしく、ずっとひた隠していた。仲間でいい、それ以上のことは望まない。そういう態度だった。その健気さが雪菜の胸を熱くした。それからというもの、何くれと相談する様に至ったのだった。寡黙は照れ屋を隠すカモフラージュ、躯さんの所に居候しているのも嫉妬してほしいから。雪菜の目にはそう映った。笑ってしまうほど健気で可愛らしい。その兄と狐さんが先日めでたく心身共に結ばれた。兄の手をとり一緒に喜ぶ雪菜であったが、少し寂しくもあった。それが大好きな兄を取られたヤキモチであることも判っていた。そうなることを誰よりも望んでいたのに、1番近くで応援してきたのに、いざ兄が狐さんただ1人の者へとなり、自分が蔑ろになる不安が過ぎる。兄の妹へと敬愛は揺るぎないと判っていても、どうしても淋しさがまとわりついた。

「それで、今日はどうしたんですか?」

いつもの様に優しく問いかける。最初は逡巡していた飛影も、雪菜のこの笑顔を見ているとあれほど重たかった口が滑らかになる。

ぼそぼそと心もとない口調ではあったが話してくれた。要約すると狐さんがいたく女性にモテるのが気に入らないらしい。なんて愛らしい嫉妬だろうか。先日も会社の同僚という女性が狐さんのマンションに押しかけて来て、ソファーで寛いでいた兄を追い払った。その後、目を腫らして雪菜の所へとやって来た。いつもの覇気はなりを潜め、虚無感だけが飛影を包んでいるかの様であった。狐さんを責めるでなく、寧ろ自分自身が狐さんに相応しくないのではと、自虐の迷宮に迷い込んでいる風であった。無論、抗議に行きましたわ。その時の狐さんの慌てふためく顔は・・・───ウフフ、これはやはり内緒にしておきますわね。勿体無いですもの。確かにあの顔、スタイル、頭脳、並外れた妖力、妖狐の姿も然り。昔の噂でも、近寄っただけで妊娠するとかしないとか。兎に角、異性だけでなく、同性からも1度でいいからと思われるタイプらしい。傲慢不遜な佇まいも、寧ろ狐さんをよりいっそう引き立てていた。しかし、兄と出会ってからの狐さんを見ている限り、傾倒しているのは兄より寧ろそのモテる狐さんの様に思える。事実そうである。兄と同様、あるいはそれ以上に恋に臆病に見えた。慎重に慎重を重ね、石橋を幾度も幾度も叩いて兄に近づいてゆく様は微笑ましいとさえ思えた。が、しかし、それと同等に兄の周囲への警戒心、疑心暗鬼の根深さは凄まじい。未だ雪菜に対しても、決して心を赦してない。爽やかな笑顔を盾にし、氷の瞳を押し殺していた。血を分けた唯一の妹だから余計そうならざるを得ないとでも云うべきか。会う度に、背中にチクチクと殺気を感じたりする。狐さんからするとおそらくは、飛影の妹だからという理由で生かしているつもりなのでしょう。可笑しな人。それは自信がない裏返しだと気づかないのかしら。長年、来る者は拒まず去る者は追わずのスタンスで生きてきた様ですし、兄を自分自身だけに留めておける術が判らないらしい。なにも要らないのに。あるがままで良いのに。例え他人から極悪非道と蔑まわれようが、ただそこに狐さんが居れば兄は満足なのに。兄は生半可な思いでこの狐さんを好きになったわけではないのだから。だのに、この狐さんはその辺のことがイマイチ判ってない。兄を大切に思うあまり、深入りを避けてる。その一線を漸く乗り越えたかに見えたのに、またしても兄を不安がらせるだなんて。だからこそ、つい意地悪したくなってしまう。

一通り話しを聴き終え、雪菜は考えを巡らせる。

「そうですわね。蔵馬さんが女性方から失望される様になれば、飛影さんの心配もなくなりますわ」

「どうすればいい」

その必死な様が可愛らしいと、雪菜は心中でもって思った。

「殿方たちは猥談というものがたいそう好きだと聴きました。そこでですね」

ふんふん、と、真面目に妹の話しを聴く兎と、黒い先の尖った尻尾を隠し持つ愛らしい悪魔の秘事はこの数日後明らかになる。





※ ※ ※





この日も幽助の号令のもと宴会が設けられた。魔界の強い酒のせいでみなほろ酔い加減。こうなると、男たちはこぞって猥談に興じる。実のところ、飛影は猥談自体をよく理解していなかった。だいたいいつもコップ一杯呑んだらさっさと魔界へと帰っていたので、その後の幽助たちがなにを話していたかなど、飛影は知らない。しかし、この日は我慢した。己のなかの杞憂を払拭するためにも。それに、雪菜。男に惚れた己を蔑むでもなく、寧ろ後押ししてくれた。その心優しい雪菜の云うことに間違いはない、その一言につきた。が、しかし、こんなにも羞恥心と忍耐が必要だったとは。

「で、ゴム付けろって寸前のところで平手だぜ。殴るか普通そこで!」

「燃えるとこだろそこは!」

「いやいや、そうなるのはお前がMだからだろ酎」

酎ならば女王様プレイも喜々としてやり遂げる。が、みな、想像の速い段階で危険性を感じ留めた。酔ってはいても、やはりそこは越えてはならない境界線であると、長年の戦闘で身につけた危機感が警報を鳴らしたのだった。棗の女王様姿には興味はあるが、誰しも考えたくない情景とはあるものだ。酎が怪しげな衣装を身に付け、尻を突き上げ「うっ!もっとー!叩いてー!」等とは・・・。

「愛がないだなやぁー皆」

「お前たちは淡白そうだよな」

すると、真っ赤な顔をして俯いてしまった凍矢、反対ににやにやと不抜けた顔の陣。

「そうでもねえーべ。だって、凍矢のスベスベお尻気持ちいいからずっと舐めてられるべ。下のお口がまた絶品」

陣は最後まで云えずその凍矢自身によって床と頬とを強制接吻させられた。

「その点蔵馬はソツなくヤルだろね」

何気ない鈴駒のフリが、1点集中。興味津々の矢が飛影に降り注ぐ。ここにいる全員、蔵馬と飛影がそういう仲になっていたことには薄々感ずいていたが、蔵馬怖さに聴くに聴けない状態にあった。しかし、この日蔵馬は残業が長引いているのか、まだ現れていない。ここぞとばかりに視線が飛影に集まった。あの色事に長けた妖狐をどんな手管で陥落せしめたのか。蔵馬が飛影にぞっこんなのは見る者が見れば気づく。が、伝説と迄謳われた妖狐の閨事情が知りたい好奇心がこの時上回っていた。結果、云いたい放題。しかし、これこそが飛影の、そして、雪菜の待ち望んでいた状況であった。

「やっぱあれか、あの薔薇の鞭で縛られてからか?M字開脚とかさせられそうだもんな」

「んでもって血流してんのに無理矢理ヤリそうだもんな、あいつ」

「触手で縛って放置プレイ、とか?」

「その隣で極太なもの持ってクスクス笑ってる姿容易に想像出来るべ」

「それプラス卑猥な言葉攻めとかもやりそうだな」

「そんでそれこっそり録画してたりしてな」

「んにゃ、あいつなら堂々とハメ撮りだな。かけてもいい」

「もっと効率的かもよー、等身大の鏡の前とかさ、そういう嗜虐的なの好きそうじゃん」

「体位とかも激しそうだしな。それに持久力ありそうだし。大変だな飛影」

「それとも毎回薬漬けにしてからヤラれてるのか?」

「ふん、伝説の妖狐が薬や道具を頼らなくてはダメとは、落ちぶれたもんだぜ」

「・・・う、だ」

「え?」

今、可笑しな言葉聴いた様、な。

「だから、蔵馬は早漏だ!!」

しーん・・・───

その後、蔵馬はどうやら速いらしい、から始まり、蔵馬はどうやらもたないらしい、蔵馬は妖狐の時でタマを打ち切ったらしい、イヤイヤオレが聴いた話しではイ〇ポらしいぞ、と、可笑しな伝言ゲームの様に魔界、そして、何故か人間界に迄に伝わってしまった。事実を確かめ様にも、あの蔵馬本人に聴けるはずもなく、真相は闇のなか。蔵馬とならば例え遊びでも一夜を共にと望んでいた女性からも男性からも、みな憐れむ様にその後蔵馬は見られることとなり、誰も蔵馬に粉を掛ける様なことはなくなった。





「全くもう。もう少し気の利いた作戦はなかったんですか、雪菜ちゃん」

「ウフフ、こんなにも蔵馬さんのイメージダウンするとは思っていなかったんですのよ」

日頃の冷酷非情キャラとのギャップが功を奏したと雪菜は考えていた。心の奥底で、やるならば徹底的にとの囁きがあったのは兄には内緒。目の前の狐さんにはどうやら見抜かれてるが、そこは普段無意味な殺気を突きつけられているのだ、お相子ですわ。

蔵馬としてはとんだ小姑だと云いたいところだが。過程はどうあれ、あれから飛影は蔵馬が傷心?していると勘違いしているらしく、蔵馬の部屋に入り浸っているから良しとする、しかない。考え方によっては、飛影を俺色に染めるいい機会ではないか?そもそも、噂の的は俺でなくても良かったのだ。蔵馬としては、飛影にこそあらぬ噂で蔵馬一筋と思わせたかった。本人は全く気づいていないが、実のところ飛影のファンは多い。表立ってなにかを仕掛けてくる様な輩はいないが、(そんな危険分子は荒方始末した。)用心にこしたことはないではないか。ただ、問題は。

「なにか?」

「いえ、今日も可愛らしいなあー雪菜ちゃんは、と」

「クスクス、本当に狐さんは口がお上手ですわね」

何れにせよ、この可愛らしいくもこ憎たらしい小悪魔雪菜ちゃんは飛影の大切な大切な妹、あの飛影が己の命をも投げ打って救い出そうとした妹のことを、蔵馬も憎からず思っていたのだった。兎に角これからは飛影を不安にさせないこと、そして、最も重要なことはこの小姑を怒らせないこと。それが肝心だ。飛影にそれこそ泣かれたら。そう想像するだけで心に厚い雲が覆うのを蔵馬は思い知った。

大丈夫だよ、飛影。俺はなにがあっても貴方の傍を離れないから。それは1種の凶愛だったかもしれない。










Fin.
2014/02/17
Title By たとえば僕が

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