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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




 大奥─幽玄─ act.1


※Wパロ?第2ダン。よしな★ふみ作「大★」飛影。★奥の美味しいとこチョイス。世界観は一応★奥です。オリジナルも少し。キャラは独断と趣味?で抜擢。バッチコーイてお姉さん方はスクロール。















「飛影。喜んで、貴方に縁談のお話しですよ」

母、氷菜は優しく笑みを浮かべ、愛息に向かう。

このご時世、男子は家の奥で大切に育てられていた。戦国の世が終息をし、“魔川”が天下をおさめ、百年あまりに及ぶ。戦乱の世から泰平の世が到来した。それ迄政の中心は男子であった。魔川家が政を江戸におき、第1代、第2代、将軍は男子であった。変化が訪れたのは、第3代将軍の御世であった。原因不明の病、そして、その治療方法も見出だせないままその病は日の本全土を襲った。若い男子だけがかかる奇妙で恐ろしい病。赤く疱瘡のように爛れ腫れ上がり、醜く変貌する。恐ろしい速度で男子が日の本から減少していった。天下人たる魔川家も例外ではなかった。第3代将軍がこの病で世を去ったのである。しかも、跡継ぎはいないままに世を去ったのだった。直系男子は1人としておらず、結果、3代将軍の長女たる女子が代わりに頂点へとたったのである。武家社会は、男子から女子へとそれを機に変革を余儀なくされた。それらの変革は、武家に留まらず商家や農家なども同様だった。女子は働き手として家督を継ぎ、男子が家に生まれれば、病から守るように大切に育てられるようになっていった。その後、男子の総人口は女子の1/4で安定し始めた。それが、5代将軍の御世であった。最早、男子が家督を継ぐという認識は、なくなりつつあった。男子がその家で生まれ育てば、良縁を得て婿となることと認識が代わっていった。裕福な家柄の娘は、婿を何人も迎えることも珍しいことではなくなっていった。女たちが子を生まなければ、家そのものが潰れてゆく。貧しい者たちは種を欲し、金で男を買うことも稀有ではなくなっていったのであった。だがなかには、法外な額を要求する者たちも後が絶たない、悲惨な現実も悲しいことではあるが蔓延していた。武家でもかたちは多少違えど同様だった。女子が頂点にたち、男子の側室を何人も囲む。無論、世嗣ぎ、それに準ずる子を多く確保する為に。この江戸時代、完全なる婚姻制度の崩壊をみせていた。それは、天下人たる魔川家も同様だった。だがしかし、それは極端を極めたのだった。美男だけを集めたその場所を“大奥”という。天下人だけがその場に入ることを赦された。その贅沢こそが、天下人たる威光とされたのだった。

大奥──。それがささやかに発足し造られたのは、第2代将軍の御世であった。そのかたちが盤石のものとなったのは、第3代将軍の御世。3代将軍の乳母たる者が、様々な法度を設け管理運営し始めた。しかし、この美女を集めた女だけの大奥は、隆盛と凋落を3代将軍のたった1代で経験することとなった。始めは女子だけを集めた大奥は、その特殊性を充分以上にはたしていた。事の始まりは、将軍一家の住まいとして大奥は造られた。しかし、2代将軍の嫡男たる3代将軍は、女子に対し不感症であったのである。御代所として公家から嫁いだ姫とも、1度として契りを交わしたことはなく、そればかりか、男色に力をそそぐ有り様だった。このまま推移すれば、世嗣ぎが望めない。困りはてた乳母は、大奥に幾人もの美女を集めた。これだけの美女を集めれば、誰か1人は、と。その願いは叶うが、その寵愛をうけた者が産んだのは女子であった。結局、3代将軍の御子はその女子だけに留まった。あるいは、それが決定的な運命を決めたとの見方もとれる。そして、世の事情は移り代わり大奥は二分化されるに至る。女子が天下人として君臨し、女子による政が始まった。女だけの大奥は無用となり、徐々に縮小されていった。代わりに、男子だけを集めた大奥がここに誕生した。それは、第4代将軍の御世であった。しかし今尚、小さい規模ながら女子の大奥は存在する。男子が、いつの世にかまた天下人になることを期待して、存続することを赦された。亡くなった3代将軍の乳母のたっての遺言でもあった。あくまでも、女子が天下人たるのは、“繋ぎ”である。その考えは未だに根底に残った。もっとも、その権限は男子大奥とは比較にならず、表舞台からは遠い存在とはなっていたが。あくまで、飾りの大奥として今ではひっそりとある。庶民のなかには、その存在さえ知らぬ者も数多くいた。しかし、この建前の為に、将軍は2人の御代所、つまり、正室を公家から迎えることとなる。男子と女子双方を。無論、公の記録には男子正室の女名がおさめられ、女子の正室の名は影のなかに埋没せざるをないが・・・。この為、これまでは稀有な例であった同性愛も認められるようになっていった。婚姻も同様に認められるように代わった。女子が女子の正室を迎えるのである。そこには、皮肉な事情もあった。人口数からいえば、圧倒的に女子が多い。その為、男子を正室として迎えられない側面的事情が存在したのだった。裕福な武家や商家などは、かたちばかりの正室に女子を迎え、男子を側室にする例が相継いだ。女子同士の婚姻は、性愛からではなく、家同士の繋がりを強固なものにする理由もあった。無論、男子同士であろうともその根底の理由は些かも代わらない。貧しい家の女は、金とくちべらしで嫁がされる者もいた。それゆえに、男子が女子の正式な正室として迎えられることは幸運なことでもあった。

「婿?」

「ええ。これで私も肩の荷がおります」

「・・・。母上、俺などより、雪菜の婿捜しの方が先では。雪菜はもう19です」

「貴方も19ではありませんか。双子なのですから」

「そ、それは」

「それとも、誰か思う人がいるのですか、飛影」

氷菜の優しい眼差しが辛い。どれだけ、この氷菜が自分たちを慈しみ育ててきたことか。父親は氷菜が懐妊すると共に赤面疱瘡で亡くなり、その後、たった1人で家を支え俺たち双子を育ててくれた。それに、この質問になんと答えていいか。だが、飛影の脳裡には1人の男が浮かぶ。幼なじみの蔵馬。だが、この思いを1度として誰にも伝えたことはない。本人にさえも。結局飛影は、その問いに対し否定することしか出来なかった。

「・・・。いえ」

「では、この縁談をすすめてよいですか?お相手は寺社奉行のご息女ですよ。貴方の並々ならぬ剣の噂を聴き、ぜひにもと。名誉なことです」

「待ってください母上。・・・、10日、考える時間をくださいますか」

「・・・、そう、ですか。判りました」





「兄上」

呼び止められ振り向くと、そこには母親似の妹が静かに佇んでいた。

「雪菜」

「蔵馬さんのことを母上にお話しになってはいかがですか?」

「・・・。お前、気づいていたのか」

「だってわたくしたちは双子ではありませんか。母上だって、きっとご承知くださいます」

「駄目だ」

「兄上、・・・」

何故、と、その青く澄んだ瞳が悲しげに揺れた。

「蔵馬も俺も男だ。例えどちらかが婿入りしたとて、血を絶やさぬ為に女子が必要になる。俺は・・・、それに耐えられるほど強くはない」

「・・・。兄上。本当に好いていらっしゃるのですね、蔵馬さんを」

「愚かしいだろ?」

いくら同性同士の婚姻が認められていようとも、男が男に惚れてしまうのはやはりどこかが狂っている証拠なのではないか。他人に簡単には云えない後ろめたさと、母親に対する後ろめたさ。それでも、蔵馬を愛しく思っている心。その板挟みで、飛影の裡では静かな嵐が存在していた。

「そんなこと。ご自分をお責めにならないで」

「それより、あの潰れ顔とはその後会っているのか?」

飛影は些か不機嫌そうに質した。その者を嫌っているゆえではなく、可愛い妹を心配するがゆえに。家柄は申し分ない。そればかりか、この貧しい氷龍家からみればお釣りがわんさと出てくるほどの家柄だ。なにせ、あの戦国の世に謳われた前田雷禅の子孫たる、現藩主前田幽助に仕える者なのだ。前田幽助は、今では珍しくなってしまった男子の藩主としても有名であった。前田雷禅にもし、後10年の歳月が神から与えられていたならば、今の天下人たる魔川家ははたして武家の頂点に君臨し得たかどうか。おそらくは、その後の歴史は大きく代わっていただろう。その、前田家の江戸邸筆頭家老桑原家の嫡男。その者がなにかの折に雪菜を見初めたらしい。桑原家には既に、男名を和ノ介、女名を静流という者が跡目を継いでおり、婿入りには問題はない。雪菜も、最初こそその家柄に臆していたようだが、人柄に徐々に惹かれているようだった。

「時折ですが」

「そうか」

ほんのりと雪菜の頬が赤く染まる。その顔を見て、安心するとともにほんの僅か淋しい気持ちが胸を締めつけた。

「あいつは容姿は不器量だが、性根はすわってる。家柄だの気にするような奴ではない」

心よくこの氷龍家の婿に入ってくれるに違いない。雪菜を生涯大切にしてくれるだろう。勿論、母たる氷菜のことも。だが、現実問題として婿とりは金がいる。いくら、本人がそれらを拒んでも、流石にその思いに甘えるのは忸怩たるものがある。それに、周囲の反発がなかろう筈がない。色気でたぶらかした、などとあらぬ醜聞を口にのせる輩が必ずやいる。片や百万石の江戸邸筆頭老家の嫡男、片や貧乏旗本の息女。これだけの身分差があるのだ、嫉視や反感がなかろう筈がない。それらから守ってやる為にも、誰からも後ろ指を指されることなく婿として入って欲しい。その為には金がいる。それが、飛影の悩みでもあった。

やはり、“あそこ”に入って金を工面した方が得策かもしれん。

皮肉なことに、この飛影への婿入り話しが結果として幾人かの運命を定めたのだった。

蔵馬を好いている以上、他の者を愛せはしない。結婚も同じだ。例え結婚して婿に入ったとしても、その娘を幸せにしてやれる自信がなかった。抱いてはやれる。子供も造れと云われればそうするであろう。でも、心ごと抱きしめてはやれない。受け止めてやれない。心はもう、たった1人に喰われてしまったのだから。





「母上。先日の件なのですが。お断りいたします」

「飛影、何故です?」

「俺は自分の生きる道を決めました。その前に、母上にお礼を。当節、男子が育てば他家の娘に種を売るのが世の大半。なのに、母上は俺を1度として売らなかった。ただの1度もです。それが、この貧しい家でどれだけ大変だったか」

「・・・。飛影」

「俺は大奥にご奉公にあがろうと思います」

「兄上!?」

「俺の食い扶持が減るうえに、仕送りが出来るのです」

「・・・。飛影」

この子は雪菜の為に自分の幸せを棄てようとしているのではないか。その不安は当たっていたが、口にすれば否定の言葉を返してくることも、母氷菜、そして、妹たる雪菜も瞬時に理解していた。その不器用な優しさを、尊いものであることも。

「母上のご友人たる泪殿のつてで、実は既に大奥へ入る赦しも得ています」

「・・・」

「・・・」

氷菜も雪菜も、飛影の意思が固くもはやくつがえせないことを悟り無言になった。

「・・・、本当にそれでよいのですね、後悔はないのですね?」

氷菜の慈愛に満ちた優しい声が、無言を破った。

「はい。・・・。母上、今迄育ててくださり、本当にありがとうございました」

畳に手をつき頭を下げた飛影の姿を、悲しげに、そして、淋しげに2人は見つめた。





境内の石畳を歩き、蔵馬は何時も飛影との待ち合わせに使っている大きな木の下に背を預けた。

大事な話しがあるから、と、文にはそれだけが書かれており、何故か蔵馬の心は晴れなかった。第1に、飛影からの誘いを今迄うけたことがない、何時も蔵馬が彼を呼び出し逢瀬を重ねてきた。第2に、飛影の婿入りの噂。何時かくる話しではあると思ってはいた。だが、まだ遠い未来であることを望んでいた。もし、婿に彼が行くつもりならば、その時は、・・・

考えこむ蔵馬の瞳に、ゆっくりと石畳を歩いてくる彼が映った。その途端、険しかった翡翠色の瞳は、優しい色へと代わる。

軽く手をあげ飛影に呼びかけた。

「飛影」

どうしようもなく愛しい人。幼心の恋は潰えることなく、今日に至る。










2012/11/17

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