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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.




誘惑キス act.1


※以前にメモにこネタとしてあげた学生パロをサルベージ。飛影、乙女注意報!なんでも大丈夫よん!て、勇敢なお嬢さん方はスクロールしてね。















前を歩く彼の後ろ姿。

みな、同じ制服。その波が1つの門に吸い寄せられるかのように流れていた。朝の喧騒の壁を縫うように、一歩一歩彼の存在を確かめるかのように蔵馬は歩を進めた。流れる人並みから受ける挨拶に、穏やかに返答を返しつつも、前を行くその焦れったい距離感はいっこうに埋まらない。現実のなかであっても、蔵馬の思い描く未来のなかにであっても。

見つめる先に、肩を抱きながら彼と朝の挨拶をしている生徒が飛び込み、蔵馬の裡に軽い嫉妬を呼び寄せた。心なしか、翡翠の瞳を細め唇を噛みしめているその様に、すれ違った幾人かが訝しく蔵馬を見ていた。善くも悪くも、蔵馬は校内では目立つ存在であるからには、それらの視線は当然であったかもしれない。無論というべきか、蔵馬はそれらの視線に眉1つどころか、顔の筋肉1つ動かしはしなかったが。周囲の景色など、彼を前にすれば全て色褪せた銅像にしか蔵馬は見れなくなっていたとも云えたであろう。

羨ましい。彼にあんなにもあっさり受け入れられている浦飯が。たかだか同じクラスになっただけの浦飯。だが、同時にホッと胸を撫で下ろす自身も確かにいた。彼は友人であり、飛影からすればそれ以上でも以下でもないことが。でも、彼のあの笑顔を見ることが出来るのも、実際は彼らが戯れるこの一時だけ。複雑な胸を吐露するかのように、蔵馬は1つ深いため息を溢していた。

かれこれ1年半は片思い中。1年半前、入学式の壇上に上がり、その年の新入生を代表するかたちで祝辞を述べた。視線を紙の上からフッと下方へと向けた刹那、絡み合った視線。たった一瞬の邂逅。いや、そう思っているのはこちらだけで、彼からすれば意味などなかったに違いない。赤いルビーを思わせる瞳に釘付けになった。それまで、よどみなく読んでいた祝辞が、その瞬間不自然に止まってさえいた。教師たちが、訝しく互いに視線を交わし合っている様子が翡翠の瞳の端に映り出された。その場を誤魔化す為と、高鳴る胸を抑えるかのように、無意味な咳払いを1つ溢したものだった。その日からずっと彼を思ってきた。

無論、最初は単なる憧憬だと云いきかせた。この時期に見られる、同性への強い憧れを恋と勘違いしているのだ、と。しかし、日々それらの期待は裏切られ続けた。こうして、彼が視界に入ると、どうしようもなく切なくなる。でも、反対に嬉しい。似合わない涙が出てしまうほど。休み時間の僅かな間、意味もなく彼のクラスの前を通り、そっと中を覗く。大抵は机に突っ伏して寝ている彼。時折、クラスメイトの浦飯と談笑している様に、渇と躰に怒りが駆け抜けてゆく。彼の笑顔を見たい、だがしかし、その笑顔は、自身へとは決して向けられない。悔しかった。ただただ、悔しかった。理不尽だとも思った。彼の笑顔を独占している浦飯を。自身は彼に近づくことさえ叶わぬ身なのに。そして、実感する思い。憧れなんかではなく、これはまぎれもなく恋情なのだ、と。

1年目はクラスが違い、話すどころか近づくきっかけさえないまま。ならば、と、期待を込めた2年目。貼り出されたクラス発表に、心底落胆した。クラス編成をした教師たちを、正直抹殺したいと思ってしまったほどに。また、今年も他人のまま、か。

高校生活の3年。短くもあり長い。その間に打ち解けなくてはと、焦りがつのる。もう、その半分のカレンダーが経過してしまったと思えばなおのこと。クラスも部活も違えば、おのずと行動範囲が違ってゆく。せめて、体育などの合同授業が一緒であるならば、話せるきっかけが掴めるのにそれもなし。隣合わせのクラスでも、合同授業は反対に位置する隣のクラスときてる。おまけに、半ば無理矢理選挙に駆り出され、生徒会長などになってしまった為に、貴重な放課後をそれに独占され続け彼の部活を盗み見るという密かな楽しみも奪われたとなればなおのこと。それらの事情で、蔵馬はここ半年のあまり、機嫌がすこぶる悪い。周囲に当たり散らすというタイプではないものの、その見えない憤怒に怯えているここ最近の生徒会の面々。反対に、時折見せる憂いの表情に、女生徒たちからの支持率は天井知らず。それと比例するかのように、一部の男子からはやっかみと呪詛つきで下降線を辿っていた。どちらにせよ、蔵馬は自分自身のスタイルを貫いており、誰もその原因を追及出来ずに至るのだった。第1、他人の思惟などもとから蔵馬の眼中にはない。

「あのー、会長」

「なにかな」

今とて、女生徒たちから黄色い声があがりそうな笑顔を浮かべていた。高校生だけに留まらず、その微笑は大人の女性をも魅了するには充分であったに違いない。しかし、何故かその後ろには、この世の全てを凍てつかせるかのようなブリザードが吹き荒れている。その恐ろしいギャップに怯えつつも、その生徒は懸命に蔵馬に立ち向かう。

「今日はこの辺で。予算書を提出していない部もありますし、そのー、外の雨も酷くなる一方ですし」

その生徒が窓ガラスに視線を向けた。合わせるかのように、蔵馬もその方角へと向けた。秋雨という名からは外れ、校庭は水没してしまうのではなかろうか、というほどの雨にみまわれていた。そして、思いもよらない光景に息を呑む。

「そうだね、じゃ、今日は解散して」

閉会の挨拶もそこそこに、蔵馬は鞄を掴むと一目散に生徒会室を飛び出した。途中、書類を机に置き忘れたことに気づいたが、みないフリを決め込み目的地へとひた走る。

舞い降りた口実に、蔵馬の唇があがる。昇降口にある傘を握る手が、これからくるであろう期待と歓喜で震えていた。

彼に気づかれないように、後をつける。雨のなか、傘を忘れたらしい彼の後を追うのは一苦労だった。なにせ、陸上部屈指のスプリンター。その実力は高校陸上界の折り紙どころか、各、実業団から是非ウチに、と、多額の契約金を示され云わしめるほど。この雨のなかにも関わらずその俊足でもって走るのだから、追いかけるだけで息があがる。蔵馬は勉学はもとより運動神経もよい、しかし、離されないようにするのがやっとであった。この好機を逃してしまったならば、この先いつこんな偶然に廻り合うか知れたものではない。その一心で彼の後を追う。見失わずにすんだ自身を誉めても、バチはあたらないだろう。幾つかの角を曲がった後、彼はスピードをゆるめ、カフェの長く出たひさしに入り空を仰ぎ見た。ため息を溢す様を、彼からは死角にあたる角から注意深く見る。

「・・・。フム。ここは予定通り一種の賭けに出てみるか」

荒れる息を整え、然も今偶然に来ました。そのように、彼の前を悠然と歩いてゆく。

ほんの一瞬、彼のルビーの瞳が見開き、続いて、慌てた様にこちらとは反対側へと顔を背けた。しかし、嫌々背けたのではないことをうかがわせた。耳朶迄ルビーが伝染したかのように染まるその反応に、ある確信を抱く。

クスクス、そうか、そうだったんだ、飛影。

蔵馬は傘で隠れ蓑を造り、1人愉快そうに笑う。この1年と半年。焦らされたぶんを、如何にして返してやろうか、そんな悪戯を思いついた顔でもあった。

次の瞬間、ピタッ、と、蔵馬の足が止まった。辺りには、激しい水音だけが木霊していた。コンクリートの上に、人々が住まう家々に。そして、蔵馬は改めてこの恵みの雨に感謝していた。鬱々と奏で続ける水音さえも、遠くから聴こえてくる雷の音さえも、まるで自分たちのこれからを歓迎している演奏に聴こえてくるのだから現金なものだ。そんな自嘲さえも包んでしまうほどの威力的であり魅惑的な雨。敬意と感謝の意味を込め、灰色に染まり大粒の涙を流している空を仰ぎ見、いるのかも怪しい雨の神とやらにかたちばかりのキスを贈った。

下に溜まり続ける一方の水溜まり。雫が落ちるたびに波紋が広がり、儚く消えてゆく。その反復運動。それを何気なく見ていた彼の頭上に、自らの傘を差し出した。その影に驚いたかのように、彼の顔があがる。

「送るよ、飛影」

「・・・。らま?」

大きなルビーが、自身を見つめ返す。その美しい宝石のなかに、確かに自身が映し出されており、蔵馬の胸が嬉しく高鳴る。

「・・・、あ、いや、もう少ししたら止むから、大丈夫だ」

「クスクス、この雨、明朝迄降るらしいよ。それに、濡れたままここにいるつもり?風邪ひくよ。来週には試合だって控えてるじゃないか。大切な躰なんだから。ほら」

半ば強引に彼の腕を引き入れた。すると、先ほど垣間見せた真っ赤な顔を再びのぞかせた。その初な反応に、蔵馬は内心で可愛いと何度も囁いていた。彼は彼で、時折こちらの様子を探るかのように見上げてくる。その気配を察知し、謀ったかのようにこちらからは笑顔を贈る。途端に、カアッーっと頬を染め俯く。ホント、可愛らしい。まるで、淋しがりやの仔猫だな。ウルウルとしたつぶらな瞳は、期待と恐れ。でも、見えない尻尾は、こちらが気づくと嬉しそうにゆらゆら揺れる。そんな、可愛い可愛い自身だけの黒い仔猫。

彼の家の前迄たどり着くと、こうして2人で傘を共有したことが恥ずかしかったのか、真っ赤な顔をしてボソボソと小さな声で謝意を述べている。その様子がまた可愛らしく、理性という名の糸がプツリと気づくと切れていた。

「クスクス、お礼はこっちがいいな」

熟れたイチゴのようになっている彼の顎を摘まみあげると、そのイチゴよりも艶々した彼の唇が目に飛び込む。そっと彼に口づけると、甘い果樹のような香しい芳香がしたように思えた。

本当はそれだけのつもりであった。しかし、切れた糸は、修復の兆しがなく、更には、彼の甘い吐息が蔵馬の理性の復活を留めていたとさえ云えた。些か性急かとも思わないでもなかったが、この機会を最大限に生かす決意を改めてしていた。

微かに開かれた唇の間に、舌を捩じ込み、甘い甘い彼だけの蜜を堪能する。最初こそ、ビクッ、と、戦きこちらの胸板に抗議の拳を叩く。しかし、今やそれらの抵抗はなく咥内の舌を互いに絡み合わせ雨音よりもイヤらしい水音を奏でていた。どちらのものか判断し難い銀糸が、2人の間に橋をかけ、やがて、ふつりと切れた。半分とろりとした瞳が、自身を仰ぎ見る。その恍惚とした表情に、確信を更に深めたのだった。

「クスクス、駄目ですよ飛影。そんな顔他の奴らに曝しては」

どんな顔だ!そう、飛影は抗議してみたが、蔵馬は意に介した様子もなく、よく通る低い声を飛影の耳へと吹き込む。

「ね、飛影。明日の朝迎えにくるから、一緒に学校行こう」

一種のデートの誘いだ。そのことに気づいた飛影は、更に朱色に染まってゆく。やがて、コクリ、と1つ頷いた。ホント、可愛らしい。先ほどのキスの余韻がまだ残っている顔を見ると、心が踊る。その濡れた唇が、自身を好きな証。

「じゃ、また明日ね」そう云い残し、彼のキメ細かな頬に優しい口づけを1つ。

自身の家にたどり着くと、笑いが込み上げる。嬉しくて嬉しくて。些細な約束ごと。他愛ない決めごと。そうには違いないが、蔵馬は今全身で幸せを噛みしめていた。

外は雨の恩恵に預かった草花が、雫を吸い込みその美しさを競いあっていた。

ああ、雨は人の嫉妬心も洗い流してくれるものらしい。あれほど、浦飯に抱いていた思いは、今、歓喜と優越へとかたちを代えている。現金なものだ。そう、自嘲するが、この恋が片恋でなかったことがなにより嬉しいのだから仕方ない。だって、どうしようもなく好きなんだ、飛影、貴方が。

「濡れた君も可愛いかったけど、今度は笑って欲しい」

向日葵のように、俺だけに。

そして、いつか、手折ってやろう。心だけではなく、彼の全てを。俺だけの愛しい花よ。








Fin.
2012/7/14
Title By 確かに恋だった

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