The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.
2011/12/17Sat
君心あれば我心あり
最近人間界に来ない飛影の理由・・・
「ねえ、幽助」
真面目な顔をしている際の蔵馬ほど、怖いものはない。これ迄の経験から、この時既に幽助の頭では警告音が、けたたましく鳴り響いた。
「な、なんだ?」
思わず、声が裏返ってしまった。まさか、“あの計画”がバレたんじゃ。と、冷や汗が大量生産され、幽助の服を濡らしてゆく。いやいや、ここ最近、この目の前の美丈夫は魔界には行ってはいない筈。そう、否定はしてみても、蔵馬の情報網は、はっきりと云って脅威に値する。スパイや工作員を送りこむのが、こいつの隠れた十八番だ。用意周到といえばそれ迄だが、こいつの場合はそれをたった1人の為に全力をあげている。見上げた努力だ、と、称賛をおくりてーとこだが、端から見りゃあいた口が塞がらない類いだ。
「フフフ」
そして、この微笑。云っておくが、俺は闘いならば怖いもんを感じたためしがねー。全部その心に巣食う恐怖は粉砕してきた自負がある。だが、この蔵馬の笑みは、はっきり云って恐怖以外のなにもんでもねー。勝てる気が一瞬で消滅してしまうのだ。こういう笑みを浮かべている際、右手に鞭ではなく黒い鎌、後ろに尖った尻尾が見えるのは勘違いではない。戦闘よりよっぽど性質が悪いと思ってさえいた。一種の催眠術だぜ、これは。人に死の淵を見せ硬直させる悪魔。おそらく、この微笑に逆らえるのは、または、効かねーのは飛影くらいなんじゃ。いやいや、あいつの場合、逆に硬直じゃなく紅潮するのがオチだな。まったく、よく、このイイ性格をしている蔵馬に惚れたもんだぜあいつは。いや、逆か?この蔵馬に惚れられた飛影の方にこそ、より同情が寄せられて然るべきなのではなかろうか。
しっかし、俺にはさっぱりだ。友人としては尊敬もしてるし、その明晰な頭にも敬服する。盟友であるとの思いもある。だが、いったん敵になったらと思うと、ゾッとするもんがある。時折垣間見せる、冷淡な眼差しには、そら恐ろしいものがある。そんな表情を見せるのは、決まって飛影が絡んだ時。この前なんざ、飛影の入浴中の際、間違って飛影の部屋に入ったとかで、百足内の戦士が1人、未だ行方不明なのだ。おそらくは、行き先は霊界だろう。いや、もう霊界は通過して別の旅立ちをしてしまった後かもしれない。コエンマの野郎も、さぞかし呆れはて、且つ迷惑しているに違いない。どこからともなく「仕事を増やすな、馬鹿もん!」て、声がしてきそうだぜ。犯人が誰かなんざ確認するのも馬鹿らしい。躯も同様に思ったかは知らねーが、はたまた、戦士たちの身の安全を確保する為にか、飛影の部屋に入るには、登録された者しか入れない最新の指紋認証システムを導入したらしい。おまけに、柳のコピーの能力を持ってしても、それは敗れないシステムときたもんだ。それを、あの鈴木が造ったもんだと聴いた。鈴木も、そして、その実験台にならざるを得なかった柳は、なんらかの弱味を握られたんだろうな。
「なにを隠してるのかな」
「べ、別に」
「“別に”、ね。それ、飛影よく使うんよね。・・・、そういえば」
ギクッ!マズッた。飛影の名前が出てきちまった。
「飛影、最近こっちに姿を見せてくれないんですよ」
「へ、へえー。パトロール、忙しいんだって」
「そう」
「ウンウン!」
「でも。夢幻花の花粉の精製、頼みに来てないし」
ヤバ!奇淋か時雨あたりに、飛影の代わりに蔵馬にとりに行ってくれるよう頼んでおくんだった。たく、細かいことつくよな。俺は重箱じゃねーっての。
「足りてるかな?」
「ああ。それに、それが必要ねーってことは歪から人間が迷ってねー証拠じゃん」
「なるほど、ね」
「そうそう」
「よく最近の魔界の事情を幽助は知っているようですね」
「し、知らねーよ!俺最近魔界には行ってねーって」
「そう?」
「ウンウン!」
「じゃ、この通話記録の履歴間違ってるんだ」
そう云うと、ピラリ、と懐から1枚の紙を取り出した。ズラリとそこには魔界文字で記されていた。
「履歴?」
「そ。携帯の発信基地局の通話履歴。ほら、2日前君からうけた電話、魔界の百足からだったから、てっきり」
んなもんどこで仕入れたんだ!警察じゃあるまいに。取り調べかっつうの。大体だ、俺は犯人じゃねーっての。
ん?基地局?そういえば黄泉んとこが管理していたことを思いだし、内心で舌打ちした。なんだかんだ云っても、黄泉と蔵馬の関係は未だ昔のまま。表面的には黄泉の方が力が上に見えるが、2人が並んで会話してんのを聴くと、その主従関係が判るってもんだ。傍らで聴いてっと、寒気さえおきてくる。あの黄泉相手に平気で毒舌を弄するのだ。しっかりがっつり上から目線で。コエーったらねえー。
「行ってねーっての!」
「そっか。じゃ、螢子ちゃんと雪菜ちゃんがぼたんに頼んで魔界に行ってるのも俺の勘違い?」
「そ、そうなんか?」
おいおいぼたん、蔵馬だけにはバレんなっつたのに。しっかりバレてんじゃねーかよ。たぶん、霊界のあちこちにもこいつの監視員が潜んでやがんな。
「旅行じゃねー?」
「ふーん。魔界に、ね」
・・・。こ、こえー!完璧に目がすわってやがる。
「だあー!わぁーったよ!云えばいいんだろ、云えば!」
クッソー、結局俺がとばっちりうける役目かよ。
「飛影は今、特訓中で面会謝絶!」
「は?怪我で面会謝絶は聴きますが、特訓中って一体」
「だーから。螢子と雪菜ちゃんが講師で魔界に行ってんだよ。桑原と陣たちの護衛つきで」
「なるほど。だから、陣も凍矢も携帯切っていたんだ。で、講師って」
「それは秘密」
「ちょっと、ここ迄口をわってるのに、まだ隠し事かい」
あったりまえだっつうの。サプライズになんねーじゃんかよ。
「・・・。12月24日になりゃ、飛影が答え持ってくるから、そん時迄知らねーふりしてろ」
「12月24日?・・・、まさか」
「なに造ってるかは知らねーがな」
瞬間、蔵馬の顔がだらしなく崩れた。容姿端麗の奴が鼻のしたを伸ばしているのである。愉快通快だ。ぜひともその間抜け面デジカメにおさめたいもんだ。が、しかし、命はおしい。第1、それを指摘しようものなら、この場が魔界のジャンクルへと変貌するであろう。このちっさい屋台なんぞ、一瞬で植物の腹んなかだ。俺、こみで。
「フフフ。飛影の為のエプロンでも買っておこう」
エプロン、ね。真っ白フリフリエプロンを買い求めるつもりだなこいつ。なにをさせたがっているか明白過ぎて、頭痛さえおこりそうだった。
さてさて、サプライズプレゼントをもらいうけんのはどっちだか。だが、これだけは判った。判りたくはなかったが判っちまった。おそらく、生クリームは別用途に使われるに違いない。
Fin.
Title By 確かに恋だった
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