- Awake Memo - | ナノ




The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/12/07Wed
自覚と無自覚と本音
お酒は口を軽くするものらしい・・・



蔵馬は誰もが認める美貌を有している。美しく流れる黒髪、その中心にはこれまた美しいパーツが、1つ1つ計算されたかのように配置されていた。翡翠の色は、見つめられるだけで嘆息され、穏やかな口元を彩る微笑に、すれ違う人々は黄色い声をあげずにはいられない。が、しかし、どうやら、本人にはその美貌は単なる附属品とみている節がある。おそらく、妖狐であったころから、幾度となくその美貌を指摘され続けてきたゆえに、却って容姿に対し無頓着、無関心になってしまった一面があるようであった。人目を一身に集めてしまうことも、どうやら煩わしいと考えているらしい。

蔵馬は美に関して淡白だった。確かに、盗賊家業をしていたが、宝に興味があった訳ではなく、盗むその行為そのものを楽しんでいたに過ぎなかった。第1、今はこの世のなかで1番大切な宝を手にいれたのであり、他の宝に目移りなどおきよう筈がない。彼さえいれば、極端な話し、他の人間が如何なる悲惨な状況になろうと、蔵馬の関知するところではないとさえ思っていた。

そんな蔵馬の周囲には、幽助、桑原、人間界へと遊び?に来ていた陣と鈴木らが、酒瓶をテーブルの木目が隠れてしまうほど、立脚していた。酒の席では、必ずといっていいほど、そちらの話しに花が咲く。

「で、で?蔵馬くんはどんなタイプが好みなんだよ」

酒瓶の1つをマイクに見立て、桑原が興味津々といった面持ちでもって尋ねた。常日頃、冷静沈着であり、動じるということは絶無の上に、この美貌。穏やかであり、人当たりもよい。モテる要素を幾つも抱えているのだ、女が放っておく筈がない。妖狐の際には、それこそ女も男も毎晩代えていたという噂。人間になった今とて、将来有望視され、容姿においても妖狐の頃となんら遜色はない。将来は義父の会社を継ぐことも決まっている、そればかりか、蔵馬が入社するとともに、この不況のなかにも関わらず業績は右肩あがりなのだ。是非とも婿にと政略結婚を考えている大企業の社長や、噂を聴きつけたそれらの令嬢から見合いを望まれることも多くなっていると聴く。が、しかし、稀にみる美貌を有しておきながら、そうした浮いた話しが蔵馬の周囲には咲いたためしがない。不思議を通り越し、興味や好奇心が湧かない筈がない。ズイ、と、のり出すように桑原は詰め寄った。それとともに、無数の関心の視線が蔵馬に刺さる。

「タイプ、ね」

「あんだろ?可憐な子とか、清楚な子とかよ」

思わず桑原に突っ込みたくなった蔵馬だった。誰を指しているか明らか過ぎる。

「オラも聴きてーべ。おめー、いっつもあっちの処理はどうしてんだ」

「そうだな。俺も興味がある」

「凍矢。君迄なにを云いだすんだい」

蔵馬には及ばぬものの、その冷静沈着な思考の持ち主からの問いに、些か呆れた表情を返した。酒が多少なりとも、この男から冷静な思考を奪っているとみえる。それとも、未だに気づいてはもらえない恋心に、少しでも近づく材料が欲しいからなのであろうか。

しかし、タイプ、ね。

「俺は棗一筋だ」

「誰も貴様の意見など聴いてない」

死々若の一刀両断のセリフに気を悪くしたのか、単に他人の恋路に興味がないのか、その後酎は魔界の強烈な度数の酒を瓶ごと口づけていた。まあ、酎の性格を思えば、後者なのであろうが。

「まさか、妖狐の際に枯れたのか?それとも、死々若のように未だに無節操なのか?ゴムならいつでも貸すぞ。なんなら、お前好みのゴムに改良してやってもいいぞ。死々若なぞいつも」

「お前な!1言多いんだよいつも!」

「要りませんよ、そんなもの」

「ま、まさか、おめー、筆下ろしがまだだとは云わねーよな?」

「へえー、その口振りでは螢子ちゃんとそうなったんだ」

ニヤリ、と、底意地の悪い笑みを、質題者たる幽助へと向ける。途端に、ボッ、と、朱色に耳迄染め上げた。これでは肯定してしまったことになる。全く、不良少年の筈が、そちらでは優等生なのだから、蔵馬にしてみれば可笑しくてならない。

「う、うるせーな!俺のこったいいんだよ!おめーの話し聴きてーんだよ!」

参ったな。今日は彼が久しぶりに訪ねてくれる約束なのに。どうやら話さなければ、帰してもらえそうにないな。

「・・・。フム。そうだな。背は小さい方がいいかな」

当たり障りのないセリフから蔵馬は始めた。

「あっ、判るべそれ!ちっさいと庇護欲沸くもんな」

よかったね、凍矢。陣は小さい方がいいってさ。望みがまるっきりない訳じゃないよ。と、内心でそうつけ加えた。それとも、無意識になのであろうか。凍矢の気持ちは明らかであるが、その相手はいまいち掴みきれない。まあ、どのみち自身には関係ないけど。

「それから、ツンツンしてる方が好きかな」

「判る!判るぜー、蔵馬。棗のツンツンした態度はそそる!」

「それから?」

何気ない鈴木の追及の後、蔵馬は逡巡しつつ精端な顎に手をあてる。それからは、みなの予想をはるかにこえる答えが蔵馬の唇から次々と紡がれてゆく。蔵馬自身、話していくうちにタイプの話しから逸脱始めていることに気づかない。

「うーむ、そうだな。体重は軽めで細身の方が抱きしめた時嬉しいかな。こう、腕のなかにすっぽりはまる感じが愛着が沸くというか。でも、ほどよくついた筋肉のしなやかさもいいね。目元はつり上がってる方が好きかな。大きなキツイ瞳が上目遣いで潤んだ時はグッとくるかな。思っているより睫毛が長くて、その影も可愛らしい。唇は小さくて、少し下がふっくらしてる方がキスの時楽しいし。黒い服が似合ってるのも可愛いし。ペットがまた黒いってのもいいね。寝顔が幼い顔っていうのも、ついつい悪戯したくなっちゃうかな」

ツンツンしていて、小さく細身の躰。瞳が大きなわりに目元がキツイ。黒い服ばかり着ている。黒いペットを飼っており、おまけに寝顔の幼い奴、・・・

思わず、みなの躰が硬直と化した。顔もひきつり、奇怪な笑みがそれぞれの口元を飾った。そして、誰しも1人の妖怪を脳裏に浮かべたのだった。もしかすると、タイプではなくノロケられているんだろうか俺たち。と、みなの心が冷や汗をかくのだった。それを蔵馬に突っ込みでもしようものならば、返ってくるのがおぞましい植物と判っているだけに、反論出来かねずにみな固まったまま。

そして蔵馬はとどめをみなに刺したのだった。

「それに、一晩中耐える躰。これは、最低条件かな。フフフ、毎日抱いてあげても、全然緩くならないんだよ、もう最高。ぎゅうぎゅうに締め上げてくるんだけどね、俺のを奥に入れて欲しい時だけ締め付けが和らぐんだ。そんな時は深く突いて弄ってあげると、またぎゅうぎゅう。うふふ」

蔵馬の笑みをみな瞳にとらえ、背筋ばかりか躰が凍る思いだった。

蔵馬の周りに女っけが全くないその理由。その訳を知り、みな心のなかで狐の色事に毎晩耐え続けているその黒い服を着た妖怪に同情したのだった。

「それじゃ、俺はこの辺でおいとまするよ。ガトーショコラ焼かなくちゃならないから」

爽やかに挨拶をし、颯爽と歩き出した。

「お、おう」

飛影によろしくな。とは、幽助も、みなも云えなかった。










Fin.
Title By 確かに恋だった



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