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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/01/30Sun
情熱詐欺
幽助からもたらされた物に・・・



「やるよ」

そう云われ幽助から可愛らし箱を受け取りつつ、常々冷静沈着な仮面を被ってみなを煙にまく蔵馬、その秀麗な眉をひそませることに見事成功したのである。内心、してやったり、と、幽助はニヤニヤと頬が緩むのを止められる筈もなく、当然ながら、その怪しい表情に対し、蔵馬の瞳に不愉快なそれが増幅したのである。こういう悪戯を慣行する際の幽助には、必ずや裏がある。過去を照らし合わせて、蔵馬がそう確信してもおかしくはない。

嫌がらせのつもりか、はたまた、思い人の彼、飛影に対する自身のさもしい気持ちを憂いてのことか、おそらくは前者に相違ないのだろうが。からかわれて、いい気分になれないのは道理であろう。いくら、相手が幽助であったとしても。

「頂く意味が判らないんだけど?」

中身がなにであるか確認するのも馬鹿馬鹿しのだろう、箱をブラブラ、と、揺り動かしつつ、おそらくはその乱暴な動作により形が変形したに違いない。皮肉たっぷりの視線を返す、が、そんな小さなことで幽助が怯む筈もなく、軽快に、又は、豪快に笑い声をあげる。

「チョコ嫌いか?」

「母は好きだよ」

「モテる男はそう云って断るわけか。うんうん、勉強になるわ」

「嫌みを聴きにラーメン食べにきたわけじゃないんですがね」

「へえー、うんじゃ、それ要らねーわけね?」

ニタリ、と、幽助の口角がつり上がり、それに比例するようにして、表情もますます愉快でならない、と、語っていた。

「お菓子業界に貢献してどうしたいわけなんだい」

「俺がそんなもんに金かけるかよ」

じゃ、どんなつもりでこんな物を。そう、続けようと口を開きかけた時だった。

「飛影の手作り、それ」

「・・・」

なにを馬鹿な。嘘をつくなら、もっと“マシ”な嘘をついて欲しいものだ。幽助が、自身の思いを知ったうえでの優しい嘘とも思えない、第一、彼がそれほど、他人の恋愛に熱心に慈愛の協力の手を差しのべるわけもなく、どころか、火に油をまいて火災に繋げて喜びかねない。しかも、邪気がないだけよりいっそう性質が悪い。

あまりにも非現実的であり、呆れ果てて、口を開く気にもならなかった。代わりに、ジロッ、と、幽助に熾烈で、かつ、凶悪な視線を投げかけたのである。

「そんな怖い顔すんなよ。マジだって」

「あのね、“あの”彼が、人間界の風習に関心を持つ筈がないだろう」

「確かにな。でも、妹のやることにゃ関心を持つよな?」

その一言で、このチョコレートが造られた経路と出所が判り、蔵馬は憮然とすることと、憤然とすることを、同時に行ったのであった。それらの心の動きは、嫉妬からであった。そのことを、誰よりも、蔵馬が判ってもいたのだった。幸か不幸か。

つまり、心配性の彼は、彼女の様子を伺っていた際、知ったのであろう。妹が、人間界のバレンタインに興味を示し、“親愛の証”に送る物と誤解しそれに熱中する様を。送る相手に桑原君や幽助に送ると決め、ついでに自身も数に入ったに相違ない。そして、バレンタインの話しをした螢子ちゃんやら静流さんやらと共同作業中に、運悪くその場に居合わせた幽助に、これは面白いことになる、そう引っ張り出された、まるで、生け贄のように。結果、彼は嫌々ながらも、妹の楽しげな行為を無下に出来る筈もなく、それに最後迄付き合うはめになった。おそらくはそういうことであろう。

「ついで、ね」

蔵馬の苦々しい口調は、誰に向けられたものであったのだろうか。発した蔵馬自身にさえ、判断し難いものであったことだけは確かのようだった。

「言葉を代えるなら、“義理チョコ”か」

「嫌々造られた物を、義理チョコと云って渡す君もそうとう性質が悪いですね。しかも、率先してやったでしょう」

こちらの思いを知ったうえでの、彼なりの好意であるとは理解してもいた、が、半分以上はこちらの反応を楽しむためにやったことも、又、蔵馬には判っていた。故に、素直に喜ぶ気にもなれない、ばかりか、人間界に彼が来ていたことを知らなかった、いや、知らされてなかったことに対し、非常に不愉快でならなかったのである。それが、醜い独占欲だと判ってはいても。

「いいじゃねーか。こうでもしなきゃ、あいつからこんなもん貰えねーぞ。ニシシ。貸し1つな蔵馬」

最愛の妹ととの共同作業のチョコレート。嬉しいそうに手伝う彼の姿を容易に想像出来、心中に激しい稲妻が荒れ狂う。こんな胸くそ悪い物を誰が食べるものか。マンションの自室のゴミ箱へと投げ棄てようとした際、不器用な手つきでこれを造っていた彼が脳裏に浮かび、その手が意思に反し止まった。

綺麗とはいえないラッピングの様、それを紐解き、崩れてしまったトリュフを摘まんだ。口に含んだ時、何故か、甘酸っぱく感じたのだった。

「お返し。催淫剤でも仕込もうかな」

悔しさのなかに、確かに恋心が微笑んでもいたのであった。










Fin.
Title By 確かに恋だった



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