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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/12/01Thu
愛する人の棺
飛影を愛するがゆえに・・・



「ほら、もっと足広げないと見えないでしょう」

蔵馬の氷のように冷めた声が、飛影の心を萎縮させる。何度、何故という問いを自分自身に対しても、また、蔵馬に対しても行ったことであろう。

ある日、蔵馬が己への態度を一変させた。それ迄、甘く囁かれた数々の言葉は、全て虚偽であったのかと思わせるには充分だった。知らず知らずのうちに、それらに酔い、蔵馬を信じてしまった。そして尚も、心のどこかで、蔵馬に救いを求めている。女々しい、そう、思うのに、1度芽生えた思いそれ自体を消失させることが出来ずにいた。裏を返せば、それだけこの冷酷な狐に惚れてしまったに他ならない。

悔しい筈なのに、憎みきれない。憎い筈なのに、好きだと叫びたい。矜持を傷つけられた筈なのに、何故、今も蔵馬に従っているのだろうか。

飛影の上には名も知らぬ男が腰を振り、淫らな行為が行われていた。耳に入りこむ嫌な水音、肌と肌がぶつかる無機質な音。肌に触るおぞましい感触。それらを、感情のない瞳で蔵馬が眺めていた。部屋のそこかしこには、巧妙にカメラが設置されており、この醜悪な茶番劇を録り続けていた。己を抱いたのは、この為だったのか。最初から愛されていなかったのか。好きだと、貴方の為ならば、そう云っていた優しい蔵馬は、この場にはいなかった。

胎内ではじけ、ドロッとした液体が太ももを撫でる。蔵馬に抱かれていた当時は、それだけで幸福になれた。温かい感情が、その時は確かに存在していたのに。だのに、今は悪寒を禁じ得ない。吐き気さえも感じる。ぼろ雑巾のような己の躰。汚くて、醜い躰。

男は衣服を整えると、蔵馬へと大量の札束を謝礼金として差し出し部屋を後にする。もう、これで、何人目だろうか。そう、考えることも馬鹿馬鹿しほど、この躰は汚れてしまった。

「クスクス。酷い有り様だね。今の男容赦なかったからね」

虚ろな瞳で蔵馬を見上げた。そこには、やはり、なんの感情も見受けられなかった。かつては感じられた甘い香りが放つ愛情が一切見受けられない。奇異に唇の端がつり上がり、くぐった鈍い笑い声が発せられていることにも、半歩遅れて気づく。

どうしてだ。どうしてだ、蔵馬。

「ああ、そうそう。この前の“あれ”も高値で売れましたよ。やはり、貴方は魅力的らしいね」

この部屋のなかで行われている行為を録り、蔵馬はそれを欲する妖怪に売っていた。そして、それを見た奴らが客としてここに来る。その悪循環。そのたびに、穢れてゆく己の躰と心。いっそのこと、壊れてしまえたらなば、・・・

冷たくなったしまったシーツに顔を埋めた。蔵馬の顔を正視することに耐えられなくなったゆえに。同時に、躰に嫌な震えが支配する。泣くまいと、耐えれば耐えるほど、躰が引き裂かれそうになる。

「今度は知り合いとでもセックスするかい?そうだな、手始めに幽助なんてどうだい。それとも、桑原君の方がいい」

とても正気で云っているとは思えない。わなわなと、怒りが湧き、傍らにあった枕を乱暴に掴みそのまま蔵馬へと投げつけた。軽々とそれをかわした後、蔵馬は目を細めた。その瞳が何故か金褐色の色合いをみせた。刹那、悪寒が脊髄をかけあがる。

「飛影。貴方、なにか勘違いしてないかい?」

「・・・」

「俺は貴方を愛してるんだよ」

愛している、だと?

「ふざけるな!」

「ふざけるな、だって?それはこっちのセリフですよ。俺、最初に云いましたよね。貴方が浮気したら、俺はなにをするか判らない、と」

・・・、浮気、だと?そんなものしていない。1度として。

「してない、浮気なんかしてない!」

「したじゃない。現に今」

蔵馬の言葉に絶句する。云いがかりだ。第1、今のこの惨状を造りあげたのは、他ならない蔵馬ではないか。だが、この躰は既に他の男の味を知っている。その事実が飛影から正当な反論を奪った。

「今だけじゃないか。もう、何人も何人も。貴方の恥態を見てヌイた奴らもごまんといるじゃないか。・・・、クククッ、本当、貴方はそこにいるだけで男を惑わすんだから。無意識にその色香で男を誘う。麻薬より性質が悪い。それが俺には赦せないんだよ。俺にはね、それは浮気と同意語。だから、ね、飛影。これは、復讐なんだよ、貴方への」

「・・・。蔵、馬?」

狂ってる。正気じゃない。

「復讐が終わったら、また優しくしてあげる。ただし、俺だけに抱かれるように閉じこめてあげる。誰の目にも届かない場所へ、ね」

そう、棺という名の場所へ閉じこめて抱いてあげる。貴方の上には、たくさんの薔薇を供えてあげる。きっと綺麗だよ、飛影。貴方はその時始めて、邪な獣たちから解放されるんだよ。自身がそうしてあげる。そうすれば、ずっと、永遠に、貴方の棺ごと愛し続けてあげよう。貴方だって、本当はそれをこそ望んでる。自身だけに抱かれたいでしょう。だから、もう少し、我慢してね。

「クスクス」

蔵馬はそれ迄の怜悧な表情を一変させ、柔らかい微笑を浮かべた。そして、優しさに溢れた仕種で、飛影の漆黒の髪に口づけを落とす。瞬間、飛影の裡にあったなにかが失われた。

「飛影、愛してるよ」











Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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