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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/09/27Tue
枯れない涙
飛影の眠りの世界に・・・



こんな関係になってからは、彼の寝顔をまともに見ていない現実に気づかされた。今、こうして貴方の寝顔を見ることが叶ったのは偶然が重なっただけ。連日連夜のパトロール、それに加え、貴方に餓えに餓えた狂暴な狐が常になく暴走し、貴方を貪った結果である。それを、誰よりも自分自身がよく理解していた。そして、この関係になってからは、貴方は極力自身の前では寝なくなっていた事実を前にして、歯がゆさばかりが募る。抱いたことで、貴方のなかから警戒心をといたと思ってさえいた。が、結果はこの通り逆方向を示し蔵馬の前に突きだされたのだった。

好きだと囁き、愛していると囁き、だが、決まって貴方からは無言の返答しかない、と。表情さえも、なに1つ語ってはくれはしないのだ、と。妥協しただけなのだろうか、それとも、絆されただけ。ねえ、飛影、俺は貴方が好きだよ、貴方の為ならば、なんにだって代われる。例え、悪魔であろうとも。

安らかに眠りの世界にいる彼の唇が、なにかを囁いた。うっすらと開かれる淡い薄紅色の唇。蠱惑的に、また、魅惑的にいつも自身を誘うその唇。奥まった舌の赤い色が、ひどくなまめかしく覗く。が、次の瞬間、血の気が一気に下がる思いを味わった。

「・・・、ゆ、きな」

「っ!」

視界が一瞬にして残忍なまでの黒一色に染まる。表情にひび割れが生じるのが、自身でもはっきりと判った。熔けることが永久に叶わない重く苦い鉛が、喉を通過し、じわじわと胃袋から躰全体へとそれは蚕食した。そして、心の裡に枯れない涙が幾つもの流線を描きながら積もってゆく。まるで、氷泪石のように。

その名を、こうしたかたちで聴くのはこれが2度目であった。1度目は、彼と始めて出会ったその日。まだ、この感情が生まれる前であった。が、またしても彼女の名を聴くはめになると、想像だにしていなかった。いや、想像することさえおぞましきことだったといえる。

どこまでも無垢な寝顔。曇り1つなく、穏やかな寝顔。彼女を思い、彼女の為だけに夢を見る貴方。

今更ながら、躰を赦してくれたからと自惚れていた愚かな自身に気づいた。なに1つ代わっていないではないか、あの日から、なに1つ。彼のなかで唯一絶対の女神。汚れなき少女。それに比べ、自身の存在のなんと小さいことであろうか。彼の夢物語にさえ登場出来ない。いや、赦されていない。云い代えるならば、それだけの価値しかない、と、いう他ならない。夢にさえも弾かれた小さくも愚かな自身。そう思うと、乾いた笑みが1つ零れ落ちた。

「ねえ、飛影」

そっと、彼の唇に自身の指先をあてがう。その唇を何度も、幾度もなぞる。まるで、次の名を強請るかのように、祈るかのように。

が、飛影の唇はそれ以後、蔵馬が思い願うようには動かなかった。ただの、1度として・・・

「俺は貴方のなかで生きてるのかな」

彼女を殺すことは容易い。が、その後自身に待ち構えているのは、彼からの完全なまでの拒絶。こうして、貴方を腕に抱きしめることさえも赦されはしない。その未来図は、自身に必要以上の足枷になっていたのだった。どんなに足掻いても、それは外れることがない予想図。

「夢のなかだけでも俺だけ、を。そう、願うのは俺の傲慢、それともただの身勝手。ねえ、飛影」

彼女の代わりはいないと承知していても、時として貴方のなかからその汚れなき存在を消し去りたくなる。貴方の大切な大切なただ1人の妹。それ以上の大切なものが貴方には1つとてない。造らせてもくれない。

どうすればいいか教えて。この狂おしいまでの気持ちが暴走する前に。裡に眠る氷泪石が形となる前に。

ただ、貴方が愛しいだけなのに・・・










Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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