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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/09/13Tue
うみのはな
嫉妬心から雪菜を誹謗してしまうが・・・



人間の女を抱いたところで、この感情に安らぎを得ることは叶わない。妖怪でも同じだろう。男も同様だ。真に求めている者。真に愛している者。そして、同時に叶わない恋情の相手。千年以上生きてきて、始めて心から愛した貴方。それとも、殺したいと始めて抱かせた貴方であろうか。愛しているのに、いや、愛しすぎて貴方という大切な存在を消滅させたいとも望んでしまう。この感情が潰える唯一の手段。それは、貴方という存在がこの世から跡形もなく消え去る以外にない。が、それも叶わない。貴方の死に顔を想像するだけで、至福の喜びと同じく黒く自身の心のなかを蚕食する後悔。その後悔を人はなんと云うか。憐れに嘆く自身を見て、人はなにを思うのか。ただ1つ判っていることは、出口のない矛盾の迷路の奥に誘われている。それのみであった。

「なに?」

「・・・。女の匂いがする」

躯からの要請で、夢幻花の花粉を精製しているところへ、彼の冷たくもあり非難の一瞥が背に突き刺さる。

「さっき迄女抱いてましたからね」

隠したところで、匂いで既に知られてしまったならば、開き直るしか術はない。

「タマってもいましたし」

「さすがは色狐だな。妖狐の姿だった際もそれで名を馳せてただろうに」

「嫌みですか。それとも羨ましい、とか?なんなら、貴方に見合う女でも攫ってきてあげましょうか」

「必要ない」

「淡白だね。まさか、やり方が判らないとか云わないですよね」

瞬間、怒りと羞恥により渇となる彼の横顔。そんな顔さえも、自身を煽る材料であると知らずに。

「貴様とは価値観が異なるだけだ」

「ふーん。価値観、ね。じゃ、参考迄に尋ねますが、貴方の恋愛の理想像ってなに」

彼が答えられないと承知しつつも、尋ねずにはいられなかった。予想通り、返ってきたのは苦々しい沈黙であった。

「・・・」

「まさか、子供みたいなことはないでしょう。愛し、愛され、だなんて理想は。そんなものこの世に存在しませんよ」

愛したぶんだけ悲劇を招く。愛したぶんだけ不幸の海へと沈む。愛したぶんだけ滑稽な姿を曝すのだろう。それは、求めてはいけないものを求めた罪。愛情の見返りを欲した罰。

「恋愛など、そんな下らんものをするつもりは最初からない」

「貴方らしい、ね。じゃ、タマったら自分の手が恋人な訳。それとも、“彼女”を想像しながらしてるのかな、雪菜ちゃんをさ」

口元が卑屈に上がる。瞳には軽蔑と蔑み、そして、果てしない怒りの叫び。その蔵馬の肖像画に名を与えるならば、まさしく嫉妬であった。

叶わぬ恋。叶えられない恋。そして、おそらく、知られない恋。その最大の原因の彼女。無垢に微笑みを浮かべる彼女が脳裏に蘇る。当然の権利だ。判っている、痛いほど判っている。彼女は貴方の唯一の愛を受けるに値する。同じく生を授かり、同じく母の胎内で育ち、同じく母を絶命させた。氷のような憎しみと、炎のような熱情が、その時から貴方のなかに生まれ落ちた。そして、その芽吹きは彼女の存在なくしては叶わなかったに違いない。貴方という存在を、貴方の心を導き育てた彼女。その恵みに関与出来なかった自身への怒りと苦しみ。激しくも正当な嫉妬。それらが、泡となって弾け、蔵馬にそのセリフを云わせていたのだった。

その瞬間、自身の首筋に儚く光る剣先があたる。ほんの数ミリでも動けば、頸動脈は彼の望み通り、一瞬にして断絶し血の雨が一面を飾るに違いない。赤く染まった双眸には、怒りと侮辱がこめられていた。

「その薄汚いセリフ、撤回しろ」

撤回しなければ、一思いに殺す。彼の瞳はそう語っていた。妥協も譲歩も一切赦しはしない、そうも語っていた。

「・・・。ごめん」

逡巡の後、謝罪を口にした。殺されることへの恐怖からの謝罪ではなかった。改めて思い知らされた現実。愚かな自身への謝罪。そして、彼の心の海を傷つけたことへの謝罪。彼の唯一無二の神聖な女神を愚弄し汚した。その女神にしか、彼の愛情は育まれはしない。喜びも、苦しみも、悲しみも、全ての彼の感情の原水であり、流れであり、それらは彼のうちにある海へと繋がっている。これから先も。それは代わることのない大河。他者への愛情が育たない証でもあった。それらを、改めて痛感した。そして、失望と同等の願いがこめられていたと、彼の心は知るよしもないであろう。

1つ、深いため息の後、彼は剣を鞘へと返す。ほんの僅かに切れた首筋からは、鉄の匂いがした。

女の香りは、血によって洗われた。だが、・・・

ねえ、飛影。

どうすれば貴方の一滴になれる?教えてよ。

ねえ、飛影、教えてよ。でないと、また同じように貴方と彼女に嫉妬する。でないと、貴方を殺してしまうかも知れない。貴方の血の海を抱いて生きたいと望んでしまうかも知れない。ねえ、教えて、飛影。貴方を愛しているうちに。壊れてしまう前に。過ちを犯す前に。

貴方の大河の雫になりたい。その小さな雫の波紋、それが叶えられるならば、自身は朽ちてしまったとしても悔いはない。泡となって消えたとしても。

だから、教えて。貴方の大河の在処を。孤高の流れを。貴方の流れに抱かれ生きられたならば、この激しくも醜い感情も、緩やかに、穏やかに、貴方の一部になれるだろう。貴方の深海に根づき、流れに抱かれながらやがては貴方のかけがえのない血肉となるだろう。その至福に満ち足りた想像は、なんと幸福であろうか。

ねえ、飛影。教えてあげる。腐敗した感情がどれほど自身を苦しめてきたのか。そして、どれだけ貴方を思っているか、どれだけ貴方だけを愛しく思ってきたか、これからも代わることがない思いであるのか、その一滴が貴方に教えてくれるだろう。貴方の孤独の海は、その時、本当の愛を知るでろう。

だから、在処を教えて。貴方の心の大河を。

貴方の孤独な海辺に、貴方の為の枯れない花になりたい・・・










Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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