The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.
2011/09/01Thu
もしもし、俺だけど
人間界と魔界をつなぐ携帯電話・・・
「なんだこれは?」
「携帯電話ですよ。魔界にも繋がるように細工は施してあります」
「・・・、で?」
蔵馬の云いたいこと、蔵馬が真に望んでいることなど、本当のところ飛影には判ってはいたのである。が、生来の性格が災いして、素直にこれを受けとることが憚られてならないのだった。
「貴方にプレゼント」
「いらん!」
「ダメ。貴方百足から逃げ出すこともしょっちゅうでしょう?躯からも云われてるんです。パトロールに支障をきたしてるからなんとかしろ、と」
躯め。あの女狐が。余計なさしで口を蔵馬に吹き込みやがって、と、飛影は内心で怒り心頭である。こんなもので拘束されるのも、束縛されるのも、真っ平ごめんだ。
「フン。それで俺の首に縄でもつけるつもりか」
「・・・。フム。縄は趣味じゃないな」
「は?」
ひどく真面目な顔をし、顎先に指をあてて暫し考えこむ蔵馬。こちらは余計な手間と時間に憮然とした面持ちでいるというのに、蔵馬は意にかえす素振りも見せず、いたって淡々としていた。また、その姿勢が、より飛影に油を注いでもいたのだった。そして、決定打とも云うべき、発火装置スイッチを蔵馬は押したのだった。
「首輪かな。そうそう、黒猫には首輪ですね。ぴったりじゃない貴方に」
「誰が猫だ!」
おまけに首輪だと。狐に飼われた覚えも、女狐に飼われた覚えもない。断固拒否だ、そんな馬鹿話。
「ごめんごめん。そう怒らない怒らない」
「必要ないこんなもの!」
「飛影。俺のささやかなお願いだよ」
・・・、チッ、くそったれが。いつも、最後はそういった顔をする。蔵馬のその顔に、己が充分弱いと知ったうえで曝すのだ。いい性格していやがる。
何故、こんな狐に心を赦してしまったのか、何故、こんな狐に惚れてしまったのか。一生の不覚だ。だが、そうは思いつつも、その思いをかき消す意思も、術も、飛影には持ち合わせてはいないのだった。
「・・・。持つだけだからな。かかってきたとしても出んからな」
「いいよ」
だって、GPS機能あるもの。とは、蔵馬のうちなる声。
『やあ、飛影。俺です』
「一々かけてくるなと何度云えば判る貴様」
『クスクス。だって、貴方の声が聴きたくなって』
「昨日も下らんことでかけてきただろうが」
『うん。でもね、貴方の声を毎日聴きたいんだ』
本当は毎日でも貴方に会いたい。毎日でも貴方に愛してると云いたい。毎日でも貴方に口づけたい。毎日でも貴方を抱きしめたい。
電話で我慢してるんですよ。判る?
その甘い囁きが、直に飛影の鼓膜と胸を刺激する。それと同じように、いい知れぬジレンマが襲う。奴も、こんな奇怪で不愉快な思いを抱えて、向こう側─人間界─に居るのであろうか。1人きりで。窓ガラスに映る虚ろな己を見返しながら。
「・・・、蔵馬」
『クスクス。そんな悲しそうな声出さないで。嬉しくて勃っちゃうじゃない』
「!勝手に盛ってろ変態エロ狐」
肩で息を切らしながら、携帯を遠慮なく切る。それでも怒りはおさまらず、携帯は床と派手なタップタンスを踊りながら飛影の後方へ転がってゆく。
くそったれが、ちょっと甘い顔を見せれば、直ぐさまこれだ。
「荒れてるな」
「躯。貴様も気配をたって後ろに立つな」
悪趣味な奴らばかりで腹立だしいことこの上ない。
「いや。古狐との逢瀬の邪魔しちゃ不味かろうと思ってな」
「そのニヤニヤした面を今すぐ止めろ、気色悪い」
「クククッ。貴様の百面相も充分に気色悪いがな。乙女みたいな顔の次はこの世の終わりみたいな顔、そうかと思えば真っ赤な顔して怒りやがる。・・・、クッ、アハハハ」
躯は先ほどの飛影を思い出したのか、盛大に、また、無遠慮に無思慮に笑い声を高々とあげる。それが更に飛影に灯油をかけたのだった。
「元を正せば、貴様があの狐に余計な1言を云ったからだろうが」
「俺が?古狐に?なんのことだ」
「だから、そこに落ちてる携帯電話とやらを蔵馬に云ったからだろうが。パトロールの為とかぬかして」
「知らんな」
「・・・。え?」
・・・、あのヤロー、嵌めやがったな!
鞘からスラリとした鋼がおどり出、携帯は串刺しの運命になろうかと思われた。が、すんでのところで、その先端が淡い光をたたえながらその動きが止まる。その剣の持ち主は、これ以上ないほど、憤然としていた。だが、その瞳の奥に、切なげに揺れ動くものがあり、それが、飛影から俊敏な動きを止めていたのである。
「なんだ、斬らんのか」
「・・・」
刹那、それ迄沈黙の湖に沈んでいた携帯が、けたたましいメロディーを奏で始めた。
「古狐からか。奴も懲りんな。・・・、出んのか」
躯は床から拾い上げ、自分自身の耳へとあてがう。ニヤリ、と、躯の笑みが飛影を心から煽る。その瞬間、飛影は携帯を躯から取り返した。手のひらからは未だメロディーのみが零れ落ちる。
「出てけ」
「・・・。クククッ。判った判った、邪魔せんよ、そんなに睨むな。それじゃどう凄んでみても猫が逆立ってるにしか見えんぞ」
「猫、猫云うな!」
どいつもこいつも!
「怒ってるうちに切れるぞ、それ」
「五月蝿い、速く出ていけ」
「ハイハイ」
躯が出て行くのを確認し、手のひらの携帯を己の耳へと運ぶ。
聴こえてくる蔵馬の低く甘い声が聴きたくて。奴はきっと云う、ごめんね、貴方の声が聴きたい、と。
たったそれだけなのに、この機械がひどく愛しい玩具へと代わった。たったそれだけなのに、ひどく悲しい機械だと思った。矛盾の機械の向こう側から蔵馬の優しげな声が聴こえてきた。
『もしもし、俺です』
Fin.
Title By 確かに恋だった
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