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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/08/22Mon
輪廻闇妖散華
とある“男”と、とある“仔猫”・・・



不思議な仔猫を拾った。漆黒の艶やかな毛並みは、午後から降りだした雨により濡れていた。ルビーを凝縮したかのような美しい双眸は、冷たい雨に震えていた。が、みすぼらし姿から放たれるものは、どこか気高く、見えない翼があるように思われた。段ボールのなかに棄てられていた経緯から、おそらくは飼い主によって、無責任に放置されたのであろう。特別可哀想であるからとか、そういった感情なく、衝動的に手を伸ばしてしまった。里親が見つかる迄、そう云い聴かせていた。

それなのに、3日と経たないうちに、愛着がわいてしまっていた。手離すのが惜しくなった。手元に置いて、この仔猫を見守って生きたいとさえ思った。可笑しなものである。人にも、動物にも、物にさえ執着しなかった自身がである。

首輪をペットショップで購入し、痩せっぽっちな首につけると、まるで、自身の為に存在する仔猫のような気になっていた。可愛くて、そして、愛しくて。高々小動物に、これほど執着する自身が可笑しくもあり、人知れず笑みが零れる。仔猫の出現により、一変した世界。まるで、漆黒の闇に、一筋の光が灯るかのような錯覚。朝から、仔猫ように食事を造り、会社では残業を蹴飛ばし誰よりも速く帰宅する。昼間居ない自身に代わり、見守りナビを購入してしまったほど。

「ただいま、ヒエイ」

名前の由来を聴かれても、つけた本人にも判らない。ただ、その名前が必然であった。そうとしか云えない。それほど、すんなりと口から零れていた。

足元でじゃれつく訳でもなく、仔猫独自の可愛らしさとは、“ヒエイ”は無縁であった。首輪とともに購入した、猫じゃらしなど1度としてじゃれない。猫の好物であるマタタビで恍惚となることもなかった。膝の上で甘えることもなく、プイッ、と、そっぽを向いてしまい、自身で見つけた居心地のよい場所で丸まる。無愛想で、愛嬌などまるでない仔猫。でも、どうしようもなく、その仔猫が愛しかった。手離したくないと、真剣に願うほど。

男は天涯孤独であった。母は自身の出産がもとで他界した。父親も、1人で育てて行く自信がない、と、早々に見棄てられた。以来、施設で育った。そうした背景が影響してか、男は周囲を寄せ付けない一面を有しながら育った。誰かに頼ることもせず、誰かを愛しむこともせず、これ迄1人で生きて来た。特殊な能力も男に孤独を好む拍車をかけた。始めて“それ”を見た時は未だ施設にいた幼い頃。妖魔や妖怪、または霊。そういった、不可思議な生き物。そして、何故か、幼心に“懐かしい”と、思った。いつか、自身も、あの世界に帰れる。いつの日にか、必ず。そう、思いながら今日迄来た。

男が仔猫を拾って数ヶ月後。転機が男の前に忽然と露になった。医師から、余命を宣告された。これ迄健康的であったが、その医師の言葉に傷ついたりは不思議としなかった。まるで、男は予期していたかのように、それを冷静に受け入れていたのだった。

ただ、1つ。遺されてしまう仔猫が気にかかった。

「・・・。ヒエイ。ごめんな」

仔猫を抱きしめ、謝罪の言葉を口にする。すると、この家に来てから始めて甘える仕種をした。無論、驚いたのは男であった。そして、何故ともなしに悟る。そうか、迎えに来てくれたんだ、君は。

不思議とこの世に未練はなかった。それより、速く生まれ変わりたいとさえ思っていた。なににかと問われても、男には判らない。が、速く速く、あるべき場所へと帰りたいと願っていた。誰にもそのことは云ってはいないが、きっと、己は仮の姿をしているのだと思った。誰かに云えば、気がふれたのかと、精神を訝しがられるのがオチであろう。が、それが真実であると、男はこれ迄疑わなかったのである。

そして、夢に見る誰かに速く会いたい、と、願う。時折、男の夢に登場する寂しげに佇む小さな影。追って、追って、追って、この手に触れようとした刹那、夢は覚めてしまう。男は思う。かの人に速く会いたい、と。おそらく、この身が朽ちなければ、その人物に会えないことも男は悟っていた。そうした考えが男の未練を遮断してさえいたのだった。

優しい手つきで、仔猫の毛を梳く。うっとりと、大きな瞳は閉じられ、仔猫は男の傍を片時も離れない。その姿のまま、時が過ぎる。何ヵ月もの間、男は病院に行くこともせず、ただひたすら待っているかのようであった。死が、男の前に迎えに来るのを。

「にゃー。・・・」

仔猫は男を呼ぶ。永眠してしまった男を、何度も、何度も。その声の響きは、悲しげに揺れていた。

仔猫は男の死を見届けると、天を仰いだ。昇って行く魂が見えているかのように。

「ごめん、もう少しだけ待っていて、ヒエイ」

それが、男の臨終の際の言葉であった。

仔猫はルビーの瞳から、一筋涙を流した。それは、不可思議な涙であった。液体から、個体へと代わり、美しい石へと変化した。月のように儚く光る淡い石。そこに映り出された仔猫は、仔猫の姿からかけ離れていたのだった。黒い衣装に身に纏い、赤く美しいルビーの瞳に、3つ目の異形の瞳が揺れていた。

仔猫は鳴く。男の為に。いつか、己のところに帰って来る、その日迄。










Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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