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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/08/16Tue
澪に沈む
流せない代わりに・・・



その特殊な躰。そうであると気づいたのは、いつであったであろうか。氷女の血を引くゆえであると、ただ、それのみは始めから判った。

不定期な周期で躰のどこかに腫れが出来、瘤のようになり、やがて爛れ落ちる皮膚。いや、中から皮膚を裂き、血管を突き抜け出てくると云ったほうが正解であるかも知れない。痛みは1度として感じたことはない。丸い丸い塊がそこから削げ落ちる。“それ”が落ちると、自然に傷口は跡形もなく消え去る。場所も決まってはいなかった。太股に出来た日もあれば、肘や足首に出来たこともある。指先からも、背中からも。が、不思議と顔からは“それ”は出来ないのだった。氷泪石ではない。が、見た目は氷泪石とあまりにも類似していた。見た目は宝石のような光沢であり、触れれば滑らかな手触りであった。しかし、宝石ではないことは明らかであった。匂いである。甘く香しい匂いが、“それ”から放たれていたのである。果実酒のような甘い甘い匂い。酔ってしまいそうなほどの。

昔はそれが躰から排出する都度、心のなかで呪ったものである。金にもならない、疑似氷泪石。1日もすれば、原型を留めない、腐って土へと還る。何故、こんな忌々しい躰を己に授けたのだ、と。顔も思い出せない母を責め詰り続けた。そして同様に、生まれ己を棄てた郷へ。

男女の違いゆえであるかは知らない。知る意思は最初から皆無であると云えた。ゆえに、深く追求したことはない。今まで、1度として。第1、躰のその構造を知るには、棄てた故郷へと足を向けねばならない。おそらくは、氷女の長老たちであるならば、この忌々しい躰のことも知っているであろう。過去の忌み子の記録も、氷の本で出来ているに相違ない。それが、堪らなく嫌であった。他人に、しかも、あんな奴らに己の躰を聴くのは、飛影の矜持が赦さなかったのである。2度と、かの地に帰るつもりはない。ただ、“それ”が膿み始める時期はいつであるかは、年を重ねるごとに知っていった。1番最初に気づいたのは、深手を負ったことに由来した。邪眼を憑けた手術の後には、時雨の根城は、その匂いでむせかえるほどであったと記憶している。その他、雪菜を思い出している際、そして、何故かある男を思い考えると躰に膿みが溜まるように、“それ”が製造され、膿み落とされるのだった。

ある男、蔵馬を。

判らない苛立ち。胸が締め付けられる。心臓が訳もなく早鐘を打つ。躰に駆け抜ける棘。蔵馬が、人間の女とただ話しているだけだというのに。家族とやらと談笑しているだけだというのに。黄泉や修羅と会っていたと知るだけで、爛れ落ちたことも。そして、今日もまた膿み落とされた。鎖骨の下の肉がゴソリ、と、削げ落ちる。それと同時に、あの甘い匂いが鼻腔を游ぐ。白い布は、赤黒く染まり、未だ白い部分を侵食していた。

丸いそれを拾い、手のひらに包む。ひと度体内から排出されると、途端に耐熱性には弱いそれは形を代える。常温であるならば1日はもつが、己は炎を纏う妖怪。見るに耐えないそれを、手のひらへと居場所を代えさせた。すると、たちまち、姿を代える。ゲル状から液体へ、最後には気化され、あの甘い匂いだけが手のひらに残った。





「いらっしゃい、飛影」

蔵馬の側に来れば、体内であれが造られるというのに、何故、─人間界─ここに来てしまうのであろうか。己自身、判らない。

「なんだか、ご機嫌斜めだね。なにかあった?」

「・・・。別に、なにも」

「嘘」

断言する蔵馬を一瞥する。冷ややかな眼差しでもって。でなければ、悟られそうで怖かった。

・・・、怖い?なにが、怖いのだ己は?

「貴方からその香りがする際は、嘘だって知ってます」

「か、おり?」

「甘い、果実のような、ね」

クツクツ、と、その秀麗な顔に獣じみた笑みが刻まれる。

「食べたくなる」

「・・・、なにをだ?」

「貴方、を」

瞬間、渇と躰が戦慄いた。からかわれていると理解したゆえに。

1歩、また1歩、蔵馬は殊更ゆったりとした歩調でもって、距離を埋める。まるで、そこにある獲物を威圧しているかのように。

「男を誘う匂いが、貴方からする」

まるで、なにかを確信しているかのような言動で、蔵馬は笑う。

「ふざけるな!」

「それも、嘘。ほら、証拠にまた生まれる。今度はどこかな?」

知っている!?蔵馬はこの特異な躰を知っている。

「おいで、飛影。全部食べてあげる。貴方の骨迄食べたくてしょうがない。貴方の匂いがね、俺を呼んでる。だからね、飛影、・・・、いい加減素直になりな」

刹那、また甘い果実の匂いが2人を沈めたのだった。深く、深く。確信というなの常闇に。そして、知った。丸い丸い“それ”の正体を・・・










Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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