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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/08/10Wed
モラル葬式
飛影を思い悩み、そして、・・・



“その事実”を知ったのは偶然の産物であった。

たまたま螢子ちゃんと街中で出会い、最近幽助は、と、そんな他愛ない話しをした。魔界に、週の半分、生活をしている彼である。恋人として、また、幼なじみとして、実に彼女らしく悪態や皮肉の言葉を吐いていた。しかし、言葉の1つに、その表情に、瞳に、心配という名の心の鏡が透けて見えていた。無茶なことはしてはいないであろうか。怪我はしていないであろうか。そして、いつ、人間界─こちら─に帰って来るのであろうか。ありきたりに大丈夫だよ、とは云ってはみたものの、別れ際に見せた不安気であり切な気な微笑に、内心はっとした。どこで見たものであろうか。その微笑に心当たりがある。なのに、その際は思い当たらず彼女と別れた。が、何故か、彼女の最後の顔が1日中離れなかった。

その日の夜。常と同様深夜12時にベランダのカーテンを手にした。胸に紡がれたセリフは、今日も彼は来なかった、であった。そして、視線を外へ向け驚愕したのだった。

窓ガラスに映し出された自身の顔。それは、昼間見たもの。同じ顔がそこにあったからである。

そうか、こんなみるに耐えかねない顔をして、彼1人を待っているのか自身は。いつも、いつも。彼だけを、彼1人を。迷い子のような、棄てられた仔羊のような、虚ろであり、憂いの暗色が濃い瞳が自身を見つめ返す。

思いを伝えたことはない。無論、その意思もない。受け入れてくれないことなど、最初から判っていたゆえに。

仲間。それとも相棒であろうか。適切な関係の言葉が、自身たちにはあるようでない。それでも、近くにいることを赦された。それで満足しなければならない。裡にある思いが例えどれ程大きかろうが、どれ程愛していようが。それ以上を望むことを、きっと彼自身が赦す筈がない。いや、きっと思いもよらないのであろう。曖昧で、危うい関係。彼からの接触が途切れたならば、自身ではどうすることも出来はしない。魔界へと、百足へと、彼の傍へと。理由もなく赴くことさえ出来ずにいる。衝動のまま無理を通せば、容易に彼の顔が浮かぶ。苛立たしい、詮索するな。そうした顔の数々が。なにより、“関係ない”、そう彼の口から聴かされることを恐れていた。ゆえに、待つことしか出来ないのだった。

そして、この時になって彼女の気持ちの片鱗を垣間見た気がしたのだった。

無力な歯がゆさ、それであった。それとも、真逆の感情であろうか。住む世界の違う者への、果てしない憧憬。どちらにせよ、遠い存在には違いない。

自嘲とも滑稽ともとれる笑みとともに、カーテンを閉める。微かに震えた手のひらさえ可笑しくてならない。

ああ、飛影、貴方に会いたい。その宝石のように美しい赤い瞳に自身を映してくれたならば、どれ程の幸福を得られるか、貴方はきっと気づかないのだろうね。名を呼ばれるだけで、胸が震えるほど満たされることさえ、貴方は気づかないのだろうね。好きだよ、愛してるよ。だから、会いに来て、飛影。

次の日も、その次の日も、彼は人間界へとは来なかった。そして、躯からの使い魔が言霊を携えて来たのは、気づけば1週間が経過していた。内容は常と同じく、薬の調合であった。が、これで口実が出来たことには違いなく、自然と柔和な笑みが零れていた。ああ、これで、貴方に会える。

それは、人間的な蔵馬の最後の笑みだったと知る者はいない。

早々に躯には薬を渡し、彼の住まう自室へと足を向ける。が、しかし、扉を前に足元から凍りついた。室内から聴こえてくる彼の声。幾度となくあげられる嬌声。そして、愕然とさせられた。何故ならば、彼が幽助の名を呼んでいたからであった。

妖力を消し、表情を消し、代わりにつけた面は氷点下よりも冷たいものであった。そして、そっと中へと入る。飛び込んで来た光景に、怒り以上のものを感じ、黒いマグマが躰を貫いたのだった。

「なにしてるの」

突然現れた自身に、2人は当然ながら慌てるものと思っていた。が、それさえも裏切られたのだった。チッ、と、飛影の舌打ちが鼓膜に届き、自身こそが招かれざる客であったと悟らざるをえなかった。

「貴様こそなんの用だ」

飛影の冷たい瞳が自身を一瞥する。そこには、一片の恋情、または、愛情はなかった。あるのは、乱入したことへの怒りであった。

「・・・。いつから、なの?」

飛影の躰のあちらこちらに赤い跡が見える。見たくもないものが、この時はっきりと瞳には焼きついていた。

「ああ、だいぶ前?」

あっけらかんと答えた幽助には、罪悪感など微塵も見受けられなかった。脳裏に先日の彼女がこの時浮かんだ、そして、ガラス越しに見た自身の顔も。

「君には螢子ちゃんがいるだろう!?」

脆弱でありながら、その蔵馬の声には間違いなく氷河が溶け込んでいたのだった。あるいは、海底の奥底で噴火した火山であったかも知れない。

「螢子?まあ。でもよ、飛影と犯んの気持ちいいしよ」

「セフレだってことかい!」

「生で犯れんし、妊娠の心配ねーじゃんか」

「君は、・・・、飛影はそれでもいいの!」

躰だけの関係を彼が容認していることが、俄には信じられなかった。いや、信じたくなかったのであろう。

「貴様、さっきからなにを怒ってやがる。妖怪が快楽に浸ってなにが悪い」

「・・・。フッ、ハハハ」

冷静沈着の顔が剥がれ落ち、突如笑い声を出した蔵馬を、2人は訝しげに見つめた。

一体、自身はなにを待っていたのだろうか。いや、なにを甘い夢を見ていたのであろうか。人間界で暮らして来た報いがこれか。随分と堕ちたものだ。そうだ、忘れていた、そうだった、妖怪だ、血に餓えた、欲に餓えた、妖怪だったというのに。好きだから、愛しているからなど、ごたいそうな飾りで目が曇り、友人に出し抜かれた愚かしい獣。その真実に気づいたら笑いが止まらなかったのだった。

「ごめんごめん。急に馬鹿馬鹿しくなってさ」

色々なことが突如崩れたにも関わらず、気づかされた。貴方をいつの間にか神聖な者と思い込んでいたよ。不可侵の神。侵されない絶対者。が、違った。そうだったね、ここにいるのは妖怪だけだった。まぎれもなく。

「ねえ、飛影、幽助。1つ提案なんだけど、3人でどう?」

獣は獣らしく。人は人らしく。それが、俺たちの関係だった。

「いいぜ、こいよ、蔵馬」

妖艶に誘う飛影の口元に、噛みつくように口づけを交わしたのだった。冷たくも熱い口づけを。

その瞬間、蔵馬の裡にあった純愛の滅亡と、モラルの火葬が成されたのだった。代わって芽生えたものがなんであるか、蔵馬の裡だけが知っていた。










Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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