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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/06/20Mon
イエローラブ
教師蔵馬に告白する飛影だったが・・・



眼鏡ごしに見る彼は、どことなくぼんやりとしていた。先ほどのやり取りを気落ちしているのでは、と、ほんの僅かながら罪悪感が胸を締め付けた。

ここ、盟王学園高等部の教師になって速いもので7年の歳月をここで過ごした。生物教師は年配揃い。そのなかで自身は奇抜であった。年若いからではない。某有名大学院で研究をしていたが、母の病気を機にそこを辞めた。堅実な未来を取ったのである。その母も、数年前、冥府へと旅立ってしまったが。そんな存在は疎まれたることが多々ある。就任早々は、それらの視線に辟易したものであるが、立ち入れない雰囲気を出せば、それ以後はそういった柵からは解放された。

「じゃ、今日はここ迄。今日出題したものは期末試験に出すので、よく復習しておくように」

チャイムとともに教室を出る。ガヤガヤとした雑音が周囲を圧してるなか、1つの視線に振り返る。

「質問かな、飛影君?」

「さっきのこたえをまだもらってない、南野先生」

はあ、と、1つため息が薄暗くなりつつある廊下に吸い込まれて行く。

「屋上行こう。ここじゃ他人の目がある」

そんな悲しげな顔をされたら、ますます困るじゃないか。

ガタン、と、重厚な扉を開き、外の空気が顔を嬲る。俯きながらついて来た生徒を見つめながら、スーツの内側に入れているタバコを取り出す。紫煙が夕闇と溶け合いながら、消えてゆくさまを見つめながら、冷淡に聴き返す。

「で?」

「だから。先生が好きだ」

一途な眼差しに、困惑してしまう。彼を傷つけずに断る困難さに、ため息がまたしても漏れる。

「君は生徒。俺は教師」

「生徒と教師が恋愛しちゃダメだって云うのか?意外に臆病なんだな」

「あのね。そうじゃないだろ、道徳心を導く立場にいるんだよ一応」

「先生だから好きになった」

臆することなく告白してくる姿勢には敬服するが、受け入れる意思は更々ない。

「じゃ、聴くけど、俺の顔?それとも元からそっちの気があるの?悪いが、男は範疇じゃないんだ」

どう飾ったところで、男色は御免だ。この子が嫌いな訳ではない。可愛い生徒なのだ。あるいは、そう、思いこむことによって、己の浅ましい欲を制御したいだけなのかも知れない。この時はそれが判らなかった。一途な瞳を向けられ悪い気もない。が、教師と生徒以前に男同士ではないか。それに、そんな道ならぬ世界に生徒を放り込む訳にはいかない。

どこまでも、生徒として見ている。

「判った?」

「・・・。じゃ、嫌い?」

「嫌いじゃないよ、君は可愛い生徒なんだから」

瞬間、泣いてしまうのでは、そんな顔が覆った。





あの日から数日後──

彼は可愛らしい女生徒と付き合っていた。校内の噂は凄まじく、教師陣の間でもそれは代わりなかった。なにせ、“あの”彼が、妹以外と仲良く登下校しているのだから。運動神経は抜群によく、成績は常に上位に。しかし、授業態度は教師陣からはため息を溢させる生徒。家庭環境は芳しくはない。同学年に、双子の美少女で兄とは違い社交的で人当たりもよい妹はいるが、両親ともに他界していた。それが、己が彼を知る全てであり、それだけ。

なのに、何故、目立たないようで、惹き付けられるように彼は目立つのであろうか。本当は、彼が高等部に進学してから、ずっと気にかかる子だった。誰1人として、教師に靡かない彼が、己の授業は欠席しない態度に、優越感に似た思いが支配していた。その理由が、己を好きだということに、薄々感ずいてもいた。しかし、突き放した。

無口な彼が、その女生徒となにやら楽しげに話すさまを、職員室の窓から見下ろす。この胸の針はなんであろうか。いや、そもそも罪悪感を抱く必要はなかったではないか。現に、ああして彼は新しい未来を歩み始めている。祝福を惜しみなく示すべきではなかろうか。なのに、痛い。痛くて仕方ない。理不尽なその刺が心臓に達する息苦しいさ、その訳はなんであるか。

彼女が彼になにやら囁く。そして、垣間見せた笑みにゾクッ、と、躰が戦慄いた。揺らぐ瞳に、はっきりとした憎しみの火が灯る。そして、胸に刺さっていた刺の正体を知る。

後悔と、嫉妬。

「・・・。だから好きになったって云ったくせに」

「なにか云いましたか南野先生?」

「いえ。独り言です」

見下ろす彼が、一瞬、こちらの方角に向く。なんの憂いもないその瞳に渇となる。そして、その怒りから逃げるかのように、彼に向かい手を振る。教師の優しい眼差しで。欺瞞的な笑顔を貼りつけて。が、その瞬間、あの告白の時に見せた、悲しげな瞳がたゆたい、歓喜が降り立つ。一瞬にして、彼が少女と付き合いだした理由を察した。なんて、可愛い理由。

「またおいで。今度は逃げ道はないけど、ね」

それは、己に云い聴かせたものであるのか、判断し難く苦笑する。憎しみから回復した視界には、狂気さえ圧していた。

こんな男を好きになってしまった君が悪い。

そうだろう、飛影。










Fin.
Title By 確かに恋だった



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