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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2011/05/10Tue
無敵遊戯
情事後の脱衣場にて・・・



「ドライヤー?」

おうむ返しに飛影は蔵馬に問うた。何時も不思議に思っていた、蔵馬の髪は長い、己のように短くもない。出会った当時、確か短い筈であった、が、再会をはたした時は既に今の長さになっていた。面倒くさげな髪、己は自身で火を操り乾かす、が、一体全体、蔵馬はあの長さを如何にして乾かしているのか不思議で仕方なかったのである。人間界に疎い、という事情も重なった。

蔵馬のマンションの脱衣室で、互いに腰に1枚のバスタオルという出で立ち。そもそも、風呂やバスなんぞ、魔界にいた頃は川で血を洗い流すものだと、思いこんでいた。たいしてその後、変化はみられない。ただ、蔵馬との情事の後始末はせねばならず、人間界、正確には、蔵馬との情事の後、その際だけは蔵馬の浴室を仕様するようにはなったが。

「もしかして、乾かすところを見たくて一緒にお風呂に入ってくれた。そういう訳でしたか」

飛影との躰つきの関係になり、彼がこちらを恋愛対象として意識し始めているとばかり浮かれていた自身が恥ずかしくもあり、情けなくもあり、先ほど迄、裸体の飛影を前にして自制心をかき集めセーブしていた自身が哀れでもあり、蔵馬は肩をすくめることと、ため息をこぼすことを同時にやってのけた。自嘲の思いが、蔵馬に器用なことをさせたのであった。

どうやら、自身はまだまだらしい。

「ほら、こうやって」

蔵馬が何やらスイッチのような代物を操作した途端に、暖かい風が小さな穴から吹き出した。なるほど、こういう仕組みになっていたのか。

「おいで、貴方の髪乾かしてあげる」

「いい。黒龍にやってもらう」

即答は更に蔵馬にダメージを与えたのである。当の本人にその自覚がないときてるから、蔵馬としては、嫉妬の焔を燃やすべきか、おおいに困惑せざるをえないのだった。

俺は黒龍以下、ですか。

内心でそう愚痴るとともに、そこで疑問が浮かぶ。

「炎を操る前はどうしていたんです?」

「放っておいた。髪なんぞ乾けば問題はなかろう」

あまりにも彼らしくて、クス、と、柔らかな笑みがこぼれ落ちた。

「いいから、おいで。乾かしてあげる」

小さな椅子に彼を座らせ、ブォー、と、独自の音が狭い脱衣室を満たす。彼の髪は、彼を表しているかの如く、真っ直ぐで、それでいて、しなやかだ。情事の際、彼の黒い髪が、相反する白いシーツの上で、揺れ動くさまは淫らで美しい。漆黒の闇が、出口のない飛影という存在の世界へと、遠く、遠く、誘っている。何時も、そんな風に感じていた。優しく風を操り、彼の髪を乾かしていると、眼前で、コクリ、またコクリ、と、船をこぎ始めた飛影。

「眠い?」

「気持ちいい」

んー。出来れば始めて拝聴する際はことの最中に聴きだしたかったな、その台詞、残念。

「終わったよ」

チュッ、と、彼の髪に口づける、しかし、その続きを聴く機会を飛影は蔵馬には与えなかった。椅子にもたれかかるように、夢見心地のご様子らしい。

貴方の寝顔に弱い、そんな無防備であどけない顔、反則だよ、飛影。それを改めて思い知らされた蔵馬でもあった。

しかし、この日から後。飛影は入浴後必ずや、蔵馬にドライヤーを渡すことになるのだった。

こちら側の自制心を試されてるのか、はたまた、彼のたんなる戯れか、判断することは甚だ難しいところだ、な。本日も例にもれず、彼の安らかな寝顔に向かって、独りよがりでないことを祈るしかない蔵馬であった。










Fin.
Title By 確かに恋だった



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