- Awake Memo - | ナノ




The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2014/11/08Sat
爪先立ちでねだって
蕩ける様に甘い・・・



飛影は我が耳を疑った。1つ歳上の彼から告白をされた。告白自体、飛影は日常茶飯事である。上は社会人、下は小学校高学年迄、兎に角飛影はモテる。しかしながら、当の飛影から云わせるならば、何故己がモテるのか甚だ理解不能な事であった。双子の妹雪菜がモテるのは理解出来るが、何故色気もない可愛げもない己なのだろうか。胸はAカップ、幼い頃から剣道をしていた故か、たおやかだとか又おしとやか等の形容詞とは無縁を極めている。にも関わらず、男たちはこぞって飛影に惚れる。1度等、飛影を巡り警察ざたに迄発展しそうになったことがある。女と男の思考回路が真逆なのだろうかとさえ思っていた。しかし、今、目の前にいる男はこの学校1と称されるほどの男。眉目秀麗、沈着冷静、頭脳明晰。おまけに、高身長、細身ながら筋肉のとれた躰つきであるのは制服のうえからも伺える。女の子にとったら身近な王子様。そんな彼が己を好きだと云う。幻聴かと思い己自身の頬を抓ってみたが、目の前の美丈夫は代わらず穏やかに微笑んでいる。

本当は嬉しかった。密かに片思いしていた。しかし、どうぜ報われないと思っていた。

「聴いてる飛影」

「・・・。あ、ああ」

時は夕暮れ。茜色をバックに佇む男のなんと美しのだろうか。飛影はあまりの出来事に他人事の様に感想を抱く。

他人からの告白など慣れっこになっていたのに、好きな人からの告白など想定外で、頭の中が真っ白になる。その為反応が出来ず硬直したまま、眼前の美少年を喰いいる様に見つめていた。それが不味かったのか、しだいに諦めの色が美しい翡翠の瞳にたゆたう。

「ごめん、ね。やっぱり迷惑だよね」

違う!踵を返そうとする蔵馬を見て慌てて相手の制服の袖口を掴む。嫌じゃない。むしろ嬉しい。信じられない思いの方が強く、どう対応していいのか判らないだけで。

「・・・、飛影?」

「お、俺でいいのか?」

身長差があるため飛影は自然と上目遣いで蔵馬を仰ぎ見る。しかし、その瞳はどこか濡れており、蔵馬の欲情をかきたてるには充分であった。飛影はそれに関し意識してない、無意識でやっているのは明らかであり、蔵馬として速くこの腕のなかへと抱きしめて危なかっしい飛影を独り占めしたくなる。

胸は無いし、チビだし、無愛想だし。自分自身を顧みて蔵馬がどこに惹かれてくれたのかよけいに混乱する。

「クスクス。やっぱり貴女は可愛いね」

か、可愛い!?散々云われ慣れたセリフなのに蔵馬が云ってくれたと思うだけで耳迄真っ赤になるのを自覚した。同性からは男勝りとは云われるものの、可愛いなどとは1度としてない。だからこそ、告白され可愛いなどと云われはしても、こいつは審美眼が欠如してるのだと思ったものだ。好きな人に云われるのはこんなにも嬉しく恥ずかしいものなのだろうか。

蚊の鳴くようなか細い声で、飛影は俺も好きだと囁くのが精一杯であった。

その日から嬉しさの日々だった。送り迎えは無論、お弁当におやつの手作り。休み時間も蔵馬は飛影の教室迄来て勉強法やたわいないこと迄話し時間全てを飛影に注いでくれた。最初こそ、学校1の蔵馬と付き合うことにやっかみも云われたが、蔵馬の溺愛っぷりに女の子たちは諦め違う春を捜し始めた。それと同様、飛影に心を寄せていた者たちはなくなく飛影の幸せを感受したのだった。今では学校随一の甘々カップである。

「ねえ、飛影。明日家でDVDでも見よう」

如何な鈍感な飛影とて気付く、始めて蔵馬の家に招待されたのだと。つまり、は。その、なんだ。どうしよう。などの不安とは裏腹に、うん、と、即答していた。家に帰り雪菜に云うと、遅くなっても大丈夫な様に母にそれとなく体裁をととのえてくれた。そればかりか、新品の下着に始まり全身コーディネートしてくれたのだった。

「ス、スカートじゃなくても」

「もう、またそんなこと云ってる。この前のデートもパンツ姿だったじゃない。お姉ちゃんはとびっきりの美脚なんだよ、勿体無い」

そう雪菜は力説するが、己自身ではどこがいいのかさっぱりであった。しかしながら、雪菜がせっかく用意してくれたものだ。妹には甘い飛影は渋々ではあったが、スカートを学校以外で始めて着用したのだった。が、本当のところスカートは好きじゃない、やたらと下半身がスースーするし、風でも吹けば下着が見えてしまいそうで恥ずかしい。本当は学校へ行くにも部活動できるジャージでいいと思う位。しかし、雪菜に説得されたのもあるが、ついこの前蔵馬の云った言葉が大いに影響していた。「飛影のスカート姿見てみたいな」学校からの帰り道、ウインドウショッピングしながら、これもあれもと、次から次へと飛影に似合いそうなものを持ってきては、可愛い可愛いと惜しげもなく云ってくれた。蔵馬の前でだけなら。

でも、変に期待してなにもなかったら・・・

蔵馬との待ち合わせ場所へ来ると、蕩ける様な笑みで迎えられ、飛影はますますもって真っ赤になる。自然なかたちで手を繋ぎ、レンタル店へと入り無難なものを選ぶ。ラブストーリーなんか選んだひには己自身蔵馬とどんな風に顔を合わせていいか判らなくなる。

蔵馬の家につき、部屋へと案内される。ベッドと机テーブル、座り心地良さそうなソファーと、整然とされた部屋。部屋の片隅には緑が濃い観葉植物が置かれていた。

「カフェオレとココアどっちがいい?それともミルクティーの方がいいかな」

何れも好物な飲み物。付き合い始めて蔵馬にはすっかり胃袋を捕まれていた。

「ミルクティーがいい」

待っててねと一言残し階段を降りてゆく蔵馬。その間ぐるりと部屋の中を見渡し、机の上の写真立てに気づく。そっと覗くとそこには己が写っていた。しかし、カメラ目線ではない事に気づく。しかも、写真の半分はカラフルなマキシングテープで覆い隠されていた。

「お待たせ。ああー!」

乱暴にトレイをテーブルに置き、蔵馬は慌てて写真立てを伏せた。

「えっと、見ちゃった、よね?」

バツが悪そうに笑う蔵馬がその時年相応に見えた。いつもこちらを気遣い包容力豊かな蔵馬の違う一面。1つ歳上なだけなのに、その大人な優しさはどこか不安だった。でも、蔵馬も同じように思っていてくれた。それがなにより嬉しかった。何を隠そう飛影もコッソリ蔵馬の写真を撮り、生徒手帳の奥へと御守りの様に忍ばせていたのだった。

「・・・、怒った?」

静かに首を振り、おずおずとその生徒手帳を出す。

「海藤が邪魔」

蔵馬は己がなにを云っているのか了承すると、引き出しからマキシングテープを取り出し器用に又丁寧に海藤の姿を消してゆく。しかも、蔵馬の顔の部分をハートにデコレーション。

「クスクス。でも嬉しい、飛影隠撮りしたの肌身離さず持っててくれたんだ」

素直に肯定するのはなんだかしゃくであり、憮然とする。倒された写真立てをなおし、ふと疑問に思う。一緒に写っているのは誰なのだろうかと。

「ああ、えっと、ね。怒らないでね。雪菜ちゃん隠しちゃった」

本人が聴いたら私の顔は見るに耐えないの!と、憤慨するかもしれない。でも、嬉しかった。似ても似つかない双子ではあるが、いや、だからこそよけいに比較されてきた。女の子らしい雪菜と男勝りの己。しかし、蔵馬は己を好きになってくれた。己を選んでくれた。

この事に勇気ずけられた飛影は、自分自身でも驚く大胆な行動に出ていた。蔵馬の袖口を引っ張り姿勢を低くさせ己自身は精一杯爪先立ち。チュッと、なんとも愛らしくとても幼稚なキス。でも、大切な大切なファーストキス。

「飛影。大好き」










Fin.
Title By capriccio



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