- Awake Memo - | ナノ




The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2013/03/22Fri
安楽死
死に直面した2人・・・



化けもの、冷酷非情、鬼畜と云われ続け、いつしか可笑しくなっていた。腐食は心の隅々迄行き渡り、流れる血さえ腐りきっている。周囲からのその評価に、意をとなえるつもりも毛頭ない。だって、事実だ。今とて、薄気味悪い笑みを浮かべていることになんの違和感も感じない。寧ろ、奥底から喜びが体中を駆け巡る。

虫の息の、飛影を前にして・・・

治療を施せば。今直ぐ百足のポッドにほうり込めば、あるいは、彼は助かるかもしれない。いや、確実に生き延びることが出来よう。が、しかし、それを拒む自身がいる。彼のこんな姿を前に、狂気乱舞している。誰にも訪れる一生に1度のこの瞬間。生から死へと旅立つ彼を、この目で見届ける。この目に焼き付けられる。その甘露はいかばりであろうか。彼が最後に見るのは、他の誰でもない、この自身なのだ。命の尽きるその時を、飛影は想像していたであろうか。妖艶に微笑む蔵馬を。恐らく、想像の外であったに違いない。今とて、視界が定まらない虚ろな瞳は、雄弁に語っていた。“何故”と。当然だ。あれだけ、愛を囁いていた同じ唇が、今は凍った微笑を造っているのだから。

「苦しい、痛い、飛影」

無駄な問いかけであることは紡いだ蔵馬自身が1番判っていた。答えの代わりに咳き込み、唇からまた新しい鮮血が伝う。飼っていた黒龍は、その右腕ごともがれ、左腕は完全に潰れていた。脚もあり得ない方向へと投げ出され姿。内臓の幾つかは白皙の肌を破り、露出していた。ドクリ、ドクリ、噴水のように赤く染まってゆく。

嗚呼、こんな姿になっても尚貴方は気高く清らかなのだろうか。同じ赤なのに、まるで貴方の血は清流のように美しい。血染めの躰を愛しく抱きしめる。じわりじわり自身の服に、彼から流れる血で染まってゆく。それさえも嬉しい。

「フフフ。貴方の血を輸血してるみたいだ」

「・・・、ま」

声帯ももう使い物にはならないな。結構気に入っていたのだが。高くもなく低くもない、彼の声を。なのに、どこか艶色を滲ませる声色。その声でもって名を呼ばれることは、彼をこの腕で抱く次くらいに気に入っていた。ほんの僅か残念に思う。しかし、残念に思うこと自体既に矛盾だ。このまま見殺しにしたいくせに。

あまりにも瘴気の濃い場所は、魔界の住人とて近寄らない。先ず間違いなく死に至る。瘴気とは、謂わば魔界においてのブラックホール。点から始まった魔界の様々な腐。それが、塊となり魔界の住人たちの妖力を食べ続ける。いつしかそこは、草木も生えないあれた地へと変貌を遂げる。1歩でもそんな場所に足を踏み入れたら、容易に未来は決まる。大昔は、その土地をおさめる妖怪自らが結界等を施していた。今は、大統領政府が、それを担っていた。まかり間違って人間がそんな瘴気の濃い場所に迷い込んだりしたら。その危惧は当然であった。霊界からの干渉を極力避ける為にも、危険なものは削除しておくに限る。しかし、魔界は広い。通常ならばそんな場所に入ったと同時に息絶えるものだが、極稀にその瘴気と融合してしまう妖怪がいる。そして、運悪くパトロールの際、飛影はその存在に気づいてしまった。結界、危険レベルが上がり、早急に封じてしまおうと数名のSクラスの妖怪を指揮者とし派遣された。そのなかには、飛影も、無論、蔵馬もいた。飛影はその場所を確実に知る為とその戦闘力を見込まれて、蔵馬は結界の豊富な知識と能力により。瘴気と融合してしまった妖魔が如何に強大で且つ凶暴であるか、蔵馬は理解しているつもりであった。しかし、まさにつもりでしかなかった。封印には成功したが、今、この場に命あるものは蔵馬と飛影のみだった。しかし、そのうち1人はもはや死を免れないなだろう。

煙鬼や躯にどう説明したものか。辺りはまさに血の海。最初から、1人や2人の犠牲ならば、蔵馬はその事実をネジ曲げる気でいた。どうとでも取り繕える。大統領政府や、霊界の追及もやり過ごす自信があった。しかし、生き残りが自身だけとは。少々困ったことになるな。

そこまでの思考はまだ蔵馬の常の冷静さが残っていたのだろう。しかし、真っ先に黒龍とともに瘴気の只中へと突っ込んでいった飛影を思い出し慌てた。がむしゃらに彼を捜す。捜して、捜して、捜して。折り重なった死屍の狭間に彼の衣服を見出した時。来たるべく感情ではなかった。彼を引っ張り出し、その姿に見惚れた。

嗚呼、やはり自身はどこか腐っている。見つけた際、彼はひっそりと笑みを浮かべた。恐らく、自身を目に留めたからであろう。心底安堵した表情は、まぎれもなく彼がこの腐った自分自身を愛していてくれていた“証拠”だった。彼の矜恃に反することであったに違いない。だのに、そんな彼を前にして、愚か者は自分自身の欲を優先した。

ごめんね、飛影。赦してください、飛影。こんなに腐りきった奴だけど、貴方を愛したのは、まぎれもなく本物。

「飛影。安心して死んでくださいね」

俺の眼前で。俺の腕のなかで。俺だけの為に。

ほんの僅か、彼の瞳が柔和に微笑んだように蔵馬には見えた。それは、罪悪感からくる幻であったのたろうか、それとも、彼からの最初にして最後の贈り物であったのだろうか。蔵馬には判らない。蔵馬はそれでも尚、その小さな躰を抱きしめ続けた。

嗚呼。貴方だけの死を独占させて───・・・











Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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