- Awake Memo - | ナノ




The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2012/10/13Sat
その嘘は傷つくためにある
言葉と心、相反することに悩む・・・



昼休み。校内はうき足だつ生徒たちであふれかえる。そんななか、飛影は1人保健室へと足を向けた。

カラカラと扉を開くと、保健室の主がこちら側に背を向けたままおなざりな返答をする。

「なんだ。また君かい」

刺々しいセリフにも関わらず、蔵馬の声はどこかこの状況を楽しんでいる響きがあったと、飛影は気づき得たであろうか。

ノンフレームの奥からのぞく翡翠の瞳。女顔ではないものの、その美貌には誰もが圧倒される。漆黒の長い黒髪。白衣の下には、見た目に反し、逞しいだろうことが判る。この男が保健室の主であった。

「怪我した」

そう飛影が簡単に云うと、教師らしからぬ卑猥な笑みが蔵馬の口元を覆った。穏やかそうであった瞳はそれと共に一変した。今や跡形もない。こういうところが苦手だ。正直、馬鹿にされたようで苛立ちが募る。だのに、この躰はそれ以上にこの目の前の美丈夫を欲してしまっている。始まりが始まりであったにも関わらず、だ。

赴任して来た当初から、その美貌は郡を抜いていた。同じく性を持つ男性陣からは、やっかみの種ではあったが、異性は黄色い声でもってこの男を迎え入れ、教師を筆頭に女生たちはたちまちこの男の虜になった。友人やクラスメイトたちは理由もなく保健室へと足繁く通い始めた。やれ、風邪だ、頭痛がするだとか、生理痛だとか。なかには、明らかに媚びを露にする者もいた。何処がいいんだ?そう問いかけると、決まって呆れた顔をされる。しかし、徐々に化けの皮が剥がれだした。曰く、『南野先生は男性にしか興味がない』。そんな馬鹿な。あれは、どうみてもノーマルだ。実際、バイト帰りの道で女と腕を組んで歩いていたのを目撃したことがある。そこは、路地1本向こう側は、如何わしい場所でである。その際、不自然なほど視線が重なり合った。奴はその時、表現し難い微笑をこちらへと向けていた。一見すると、脅しともとれたその微笑。しかし、今思い返せば、あれは罠にかかった獲物を見て、ほくそ笑んだのだ。知らぬうちに、己はこいつの罠にハマった馬鹿な羊へと成り下がっていた。そして、あの時から拭えぬ針があることも、飛影は気づいていた。女ならば誰でもいいのだ、こいつは。あの噂も、裏を読めば簡単なカラクリ。一向になびかない蔵馬に対し、妬み怨みが募ってのこと。美しい華を自分たちが住まう場所迄陥れたかったに違いない。今では、その噂のせいか、保健室へと訪れる者は飛影のみとなっている。しかし、それとこれは全く似て非なる感覚が裡を支配する。そのうちなる針は血管を道としやがて心臓へと到達する。キリキリと痛むその胸の痛みが、嫉妬からなるものであるとは、まだこの時飛影は気づいてはいなかった。それとも。本音を云えない苦しさらかなるものであっただろうか・・・

「どれ。見せてごらん」

普通ならば、丸いその椅子へと座らせるべきところを、この男は承知でベッドへと座らせる。膝のところから血の匂いがしていた。飛影は喧嘩好きとして名高い。女の子であるにも関わらずだ。この日も例にもれず、派手に喧嘩した。膝の切り傷はその際に出来たものであった。白皙の肌から一筋赤い流れが出来ている。その様は、見方によるとなまめかしいものと映ったであろう。黒いスカートを除けば、赤と白のコントラストはひどく男心をくすぐる。

飛影は、その細い脚を閉じたまま、渋々ながら怪我した方の脚を蔵馬へと差し出す。蔵馬は床に片膝をつくかたちで、丁寧に血を拭き取り傷口を確かめる。そこまでは普通の行動だった。不意に上目遣いでこちらを見た翡翠には、凶悪ななにかが孕んでいた。警告音が脳内でけたたましく鳴り響く。逃げなくては。そう思うより速く、蔵馬の手のひらが飛影の太股の上を往来し始めていた。

「んっ!や、・・・触るな」

「クスクス。すっかり感じる躰になっちゃって」

クソ!一体誰がそうしたのだ。そう叫びたいところであるが、云ったが最後、それらを認めてしまう結果になる。最初、あの道で出会った後、無理矢理ホテルへと引っ張られ犯された。教師とて人間であり、そういったこともあるだろう、と、蔵馬とその女を無視しようとした。・・・のに。あろう事か、蔵馬はその女をその場であっさりと切って棄てた。そればかりか、呆然としている飛影を捕らえると、抵抗する間を与えられずそういった関係になってしまっていた。関係を強要された当初、必死に抵抗もした。しかし、始めて蔵馬に抱かれたその日、奴は気づかぬうちに写真を撮っていたのだった。制服のブラウスがはだけ、腹に蔵馬が放ったと思われる白濁の液。それなのに恍惚とした己のあられもない姿がそこには写っていた。それ以来この躰は代わってしまった。体のいいセフレに甘んじることは、本来飛影の矜恃ならば赦すはずはない。それなのに、何故、己はこうしてここに来てしまうのだろうか。いたたまれなさと、羞恥で飛影の躰は硬直する。その隙を蔵馬は見逃すはずはなく、太股をいやらしい仕種で徘徊する。まだあどけなさが残る飛影の顔からは、これから始まるものに期待しているかのように妖艶さが増してゆく。こういうところがたまらない。蔵馬は胸中で言葉を紡ぐ。飛影は自身の嗜虐心を無限に増大させているのだ、と、はたして気づいているのだろうか。

制服のスカートはそのままに、下着のみを剥ぎとる。淡い茂みのその奥は、蔵馬だけが知っている。そっと愛しむように息を吹きかけると、なかからじわりと愛液が滲みで出来た。事の後、『大嫌いだ』と、いつもつれないことを云うくせに、躰は正直に蔵馬を求めている。これでは、否定的なセリフなど意味を成さない。だからこそ、愛しいだなんて、貴女は気づいていないだろうけど。

まだ日が高い時間。保健室という1種異世界。2人だけの逢瀬は密事に満ちていた。





「またね」

保健室を出てゆく後ろ姿に、何事もなかったかのように蔵馬は手をふる。

本当は──・・・、知ってる、気づいている。怪我を理由にここに来てしまうその訳を。

ほら、蔵馬のその顔。奴が全ての支配者。あの噂然り、あの出会い然り。脅迫のあの写真とて布石に過ぎないのだ、と。そして、俺はまんまと堕ちた。心も躰も・・・

「フン!2度と来るか。貴様なんか大嫌いだ!」

ピシャリと、荒々しい音を奏でながら扉が閉まる。

クスクス。

なんて可愛いいんだろうか。そんな嘘は、自身を含め貴女自身をも傷つけると充分に判っているくせに。きっと今頃は、自分自身が云った言葉を悔やんで悲しげな顔をしていることだろう。そんな可愛らしい嘘がたまらなく好き。そんな強がりなところがたまらなく大好き。そんな嘘つきな貴女が、自身に抱かれている間だけに見せる本心。その相反する2つを無意識のうちに見せてくれる。だからこそ、もっともっと虐めたくなる。嘘でがんじがらめに縛って、もっともっと傷ついた顔を見せて。今よりたくさん悲しんで、そして苦しんで。逃げ場などないよ飛影。与えるつもりも更々ない。嘘を吐きながらもっと俺を、俺だけを意識して。その後、愛してると囁いてやろう。とろけるように愛してあげるから。傷ついた貴女を癒して、その時貴女に教えてあげる。嘘は媚薬だ、と。

いつ迄も待ってるよ。貴女が嘘で泣き崩れるその日迄・・・










Fin.
Title By たとえば僕が



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