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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2012/08/28Tue
ギリアの枯れた日
お互いに愛し過ぎて・・・



久しぶりに人間界へと、蔵馬のもとを訪ねると、例の頭痛と闘いの真っ只中であった。こういう時、蔵馬の機嫌はすこぶる悪い。本人にもその自覚があるからなのか、決まってこちらを魔界へと帰したがる。以前、『貴方の前ではいつだって優しい奴でいたいんですよ』明らかに強がりの顔で云われた。そんな風に云われたら強くは云い返せない。それは、飛影の美点でもあるが、欠点でもあった。そして、飛影は気づき得なかった事実がもう1つ。蔵馬が、そんな飛影の性格を利用した点であった。それ以来、注意深く蔵馬のことを観察するうちに、奴が頭痛になる条件が判った。蔵馬のなかにいるもう1人の蔵馬。妖狐である本体とでもいうべきか。奴が表に出ようとしているのだということが、そして、人間である秀一が、それを抑えている。それらの葛藤があの頭痛に繋がっている。本来、2人は1人だ。しかし、新しく手に入れた人間の躰にも妖力が備わり、一種の拒絶反応が起こっている。素直に妖狐に躰を明け渡せばすむものを、何故それをしないのか。理由が判った後、飛影は不思議に思った。次いで、確信めいたものが頭を過ぎる。おそらく、いや、確実に母志保利の存在が人間の姿に固執させている。それは愛情なのであろうか。飛影には判らない。ただ、狡いとは思った。蔵馬をかくも離さない志保利を。知らないくせに。自分の腹を痛めて産んだ子が、本当の息子殺しだと。向けるべきは、増悪であって、愛情ではない。だのに、2人の間にあるものは揺るがない絆。それが、ひどく羨ましい。己は、母を殺し、国からも追放された身だというのに。それらの違いを理不尽だとも思った。しかし、それ以上に蔵馬に本心を気取られ嫌悪されることのほうが怖い。こんなにも狭量だと知られることのほうが。それに、己の方が、という気持ちが湧き起ってくるのが、否めない。浅ましく醜いこの気持ちを蔵馬に悟られることをなによりも恐れた。

「ごめん。今日は帰ってくれないかい」


青ざめた顔色は、蔵馬が今如何に辛いかを語っていた。いつもの飛影ならば、悔しいそうな表情を零し魔界へと退いたに違いない。嫌われたくはないという枷が先行する。しかし、この日は、その態度が感に触った。この少し前に、志保利と出会してしまったのも影響していたかもしれない。蔵馬のマンション近くで偶然にも志保利と会ってしまった。何度か顔を合わせていた手前、無碍にも出来ず、蔵馬の友人面をして大人しく部屋に通された。2人の仲睦まじい様子を遠巻きに眺め、暫くすると志保利は自宅へと帰っていった。その途端に、先ほどのセリフである。飛影は内心傷ついた。比べることではないが、蔵馬から貴方は要らないと云われたようで、飛影の顔色はこの時、蔵馬なそれに匹敵していた。

「・・・、俺がいちゃ迷惑か」

「そんな訳ないじゃないか」

「俺は、別に貴様に優しさだけを望んでない」

「駄目だよ。今の俺を甘やかしちゃ。頭にのって貴方に取り返しのつかないことだって平気でするよ、きっと」

それは、限りなく恐喝に近かった。

「何方も貴様に代わりないだろう」

同一視してくれていることに、蔵馬は素直に喜べない。本来ならば、飛影のその気遣いを喜んで然るべきな筈なのに、モヤモヤした黒い塊が胸に巣食う。

「・・・。代わるよ。俺とあいつでは根本的に違う」

妖狐もまた飛影を愛していることは判っている。しかし、その愛し方はまるで磁石のように真逆を極めていた。真綿で包み込む愛情とはまた別。飛影の苦しむ顔を見て喜ぶ姿が容易に想像出来る。実際に妖狐の姿の際には、くつうを貴方に与えてきた。本当は、そんなものは望んではいないのに。しかし、そうは思うものの、思う様に飛影を我が物にしたい。整合されない矛盾に、蔵馬は内心で自嘲の笑みを浮かべていた。

「喩えそうだとしても、俺は貴様が居ればそれでいい」

普段であるならば、絶対に口にしないようなことがこの時はすんなりと出でいた。そして、己の云ったセリフに赤面する。蔵馬に至っては、信じられないような表情を浮かべていた。慌てて「忘れろ」と云っても、一旦口に出たものを消去するには蔵馬の記憶力は長けていた。そして、それはそのまま蔵馬の理性を剥ぎとるきっかけへと繋がった。唇の端が奇妙なかたちに釣りあがったのを飛影は見た気がした。次の瞬間、飛影の、また蔵馬自身さえも想像だにしていなかった事態が起こった。蔵馬の髪の色が、漆黒から美しい銀髪へと代わり、翡翠の瞳の色は金褐色へと変化を遂げていた。容姿は妖狐ではなく、秀一のまま。始めて目にするその変化に当然ながら飛影は困惑し、目の前の美丈夫を凝視する。混乱の次に背中に痛みが走り、蔵馬によって床に押し倒されことを悟った。

「クスクス。警告を聴き入れなかった貴方が悪い」

「・・・、蔵馬?な、のか」

「そうですよ。どちらも俺だと云うならば、2人になった俺も蔵馬です」

「突然変異とでも云うのかなあー」、と、どこかこの状況を楽しげに、そして、皮肉を込めながら蔵馬は呟く。その皮肉は誰に向けられたものか、些か不明ではあったが・・・

「時々ね、こうなるんですよ」

主に内在した怒りによって変化を遂げていた。妖狐の妖力が、秀一のそれを上回る際にも。頭痛はそれらの前触れであった。しかし、今回は違った。前兆は感じてはいたが、・・・

「貴方が煽るから」

「あ、煽ってない!」

「飛影、1つ教えてあげる。そうやって否定されると却って虐めたくなるものですよ。逆効果です。だから、・・・大人しく“この”俺に抱かれて」

秀一のような優しい口づけではなかった。妖狐のような荒々しさもなかった。強いてあげるならば、氷のような冷たい唇だけは、“2人”に共通 していた。

その日、飛影は始めて“その男”の腕に抱かれた。抵抗しようと思えば出来たであろう。しかし、出来なかった。その男もまた蔵馬の一部なのだから。冷たい唇が飛影の白皙の肌理らかな肌の上を嬲る。いつしか、飛影はその男からの愛撫に応えていた。

「ん、あ、・・・蔵、馬」

名を呼び、視線が絡まる。妖狐の瞳の色のなかに、秀一が居る。秀一の顔をして、妖狐の際に魅せる妖艶で皮肉な笑みで己を見つめていた。

「飛影、好きだよ」

その熱っぽい声だけは2人と同じ。妖狐以上に手荒に抱かれながらも、飛影はもう赦してしまっていた。蔵馬であるならば、きっと己はどんな姿でも。他に愛する者が居たとしても。喩え異形の者と代わってしまったところで、蔵馬の魂がそこにあるならば、・・・

最奥に注がれたと同時に、飛影は気を失っていた。

「酷いなあー、貴方は。そうやって全て赦すから」

互いの腹の間に飛び散った飛影の白濁を指先に絡めとり、何処か歪な微笑を浮かべながらその男は嚥下した。

これだから、妖狐に戻れない。秀一に留まることも躊躇してしまう。もう、人間の姿に執着心など一欠片もないくせに。欲深さだけが心に残り躰をも支配してゆく。何れも自身だと認められればられるほど、嬉しさと同様に醜い欲望も育つ。ならば、いっそのこと、代わり続ける自身の生贄になってもらおうかな。愛しさも苦しみも切なさも、狂いそうになる嫉妬さえも貴方に教えられた。始めは気まぐれでしかなかったのに。毛色の違う貴方を抱くのもたまにはいいか。そんな軽い気持ちだった。だのに、いつの間にか、恋の芽は愛の花へと代っていた。そうだ、それがきっといい。この魂が朽ち果てる迄、貴方に全てを捧げてゆこう。

狂愛はその時咲き誇る。美しく、妖艶に。枯れるその時迄離さない───










Fin.
Title By たとえば僕が



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