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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2012/05/11Fri
花の海に沈む
暗がりの中流す飛影の涙・・・



一滴。

飛影の頬が濡れた。薄暗い室内の灯りに反射しながら、すべらかな頬を伝え落ちてゆく。哀しみを具現化したその透明の涙は、やがてかたちを代えてゆく。ゆっくりと。静かに。まるで、悲哀の連鎖のように。

そして、蔵馬に無言のうちに責めを訴えるかのように。

「・・・、飛影」

「・・・」

返ってくるのは悲しい音色の沈黙ばかり。そうさせたのは、他ならない蔵馬自身であった。彼から光りを、そればかりか、全てをも奪い、ここに閉じ込めたのだった。幾重にも結界を張り巡らし、魂の離脱をも不可能にしたのは、蔵馬の底知れぬ独占欲を如実にあらわしていたであろう。他者ばかりか、蔵馬自身さえも、その施した結界を破るのは不可能に近いとなればなおのこと。

愛していた。いや、今とて代わらず愛している。誰にも触れさせたくはなかった。彼にも、触れて欲しくはなかった。言葉さえも。眼差しさえも。彼の全てを独占したかった。優しさも、その内在する矛盾さえも。彼の意思を無視してでも。それは叶った。それだけはともいうべきか。

だが、・・・

はたして、自身の行った行為は飛影を苦悩から救いあげているのだろうか。飛影を忌まわしい呪縛から解き放ちたかった。そこに、愛情はあったが、憎しみが皆無であったと云えるのだろうか。自己の欲望のままに事を進めた浅はかさが、今にして悔やまれてならない。そう、思うこと自体がすでに傲慢の領域に属している。一方で独占欲は満たされたが、一方では自責の念が胸を焼きつくす。蔵馬は相反する思いに、自嘲の笑みを浮かべ、静かに横たわる愛しい彼を見つめた。

眠っているかのように、飛影の躰はただただそこに横たわっていた。剣をふるっていた腕を胸の辺りで1つに縛られ、遠く迄続いていた途を歩く為にあった足を奪われ、なにもかもを見渡すことが可能だった邪眼を取り去り、光り輝くルビーの両の目をもくりぬき、顔で原型を留めているのは、桜色の唇と白皙の肌のみ。意思はおろか、意識さえもない、傷ついた飾り人形のようにひっそりと。その様は、花で埋めつくされた海辺に漂う一隻の船のように。ゆらゆらと漂い、花園だけに生息することを赦された蝶の様でもあった。

飛影が横たわっているベッドには、彼を守護するかのように無数の色とりどりの薔薇が咲き誇っていた。上半身のみの躰となってしまった飛影に、腐敗を防ぐ為、現在の躰を維持する為の酸素と栄養を与える為に、幾重もの蔦が手を始め躰のいたるところを張り巡る。蔵馬は自分自身の妖力を、その蔦を通じて送り続けた。蔦を通じてのみ動く彼の心臓は、ひどく小さく脆弱だ。蔵馬が妖力を注ぐのを停止すると共に、その鼓動もまた時を等しく停止するであろうほどの脆弱さであった。その一種異様な光景は、他者を驚愕の坩堝へと落とすには充分であったに違いない。それとも、異形な地獄を見た気分を味わせたかもしれない。その傍らで、ただ黙って飛影の姿を眺めやる蔵馬に対しても、同様といえたであろう。悲しげに、そして、どこか苦しげに飛影を見つめていながらも、その奥底にある狂気の色は、確かに人々を凍てつかせるなにかが含まれていた。そして、それに触れれば、一瞬のうちに業火のなかに落ちるだろうことも。

また今日も一滴。

毎日、毎日、繰り返される一滴。

今日は右側からだった。

明日は左側からであろうか。

「どうしてだろうね、貴方のその目はとうにがらんどうなのにね」

白皙の瞼を蔵馬は持ち上げる。そこは闇に通じていた。深い、暗い、洞窟。あれほど輝きに満ちていた赤い眼球は、そこに存在していたことを今では示さない。真っ黒い穴、真っ暗い穴。かつて、彼が身に纏っていた黒衣にも似た漆黒の闇。今ではなにも映さない空洞が2つそこにはあった。だのに、そこからは、毎日一滴の涙が流れ落ちる。それは、やがて氷泪石へとかたちを遂げる。

「貴方は氷女じゃない。もう、泣かなくていいんだよ、飛影」

雫は薔薇の上に無言で堕ちた。

永久に続くであろうその光景に、蔵馬はあやかしのように笑う。

妖艶に見えるその笑みを、まるで飛影は判っているかのように、応えるかのように、次の日も、また、次の日も。

雫は無言を描きながら、薔薇の花びらに鋭利に落ちてゆく。










Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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