- Awake Memo - | ナノ




The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2012/04/11Wed
Take Me In
飛影が目覚めると目の前に妖狐が・・・



狂った奴と、出会った際に気づいていたならば、少なくとも、現時点でのこの忌まわしい状況から回避出来たのではなかろうか。

「クククッ、漸くお目覚めか」

目の前には妖狐化した蔵馬が馬乗りになっていた。暫し状況を把握するのに時間がかかってしまった。何故だ?なんでだ?どういうつもりだ?そんな疑問ばりが脳裏に駆け巡る。

「そんなに呆けていられるのは却って傷つくものだ。お気に召さないか?」

「ふ、・・・ふざけるな!」

目一杯の力で飛影は拳を妖狐へと振り上げた。しかし、ジャラジャラとした金属の音がしただけであり、手首はびくともしなかった。その金属音が却って冷や水として飛影の鼓膜から冷静への道が開いてゆく。飛影は、少しだけ落ちつきを取り戻し、辺りを注意深く探る。ここは、確か、・・・

蔵馬が保有している魔界の塒の1つ。以前、怪我をした際に連れてこられた場所だ。そこに、前に来た際にはなかったパイプベッドに己は繋がれていたのだった。しかも、全裸で。躰のあちこちには鬱血した花が咲きみだれ、腹や内腿、双丘迄もが白濁したものでベタついていた。飛び散った痕跡もそこかしこに。漆黒の髪にも、頬にも。そこから粘着性を保ったままドロッとした雫となり落下してゆく。なにをされていたかの一目瞭然であった。

飛影は、苛烈であり熾烈な眼差しを馬乗りになっている妖狐へと向けた。それに動じる気配はない。そればかりか、淡々と云い放つ。

「寝ていたのでな、実験だ」

なんたる言い種か。妖狐のその独裁者的な声色が勘にさわる。寝ているのをこれ幸いとばかり、あちこちと己の了承も得ずに不埒な行為をされたことに、飛影の矜持を傷つけるには充分であった。薬草に睡眠薬でも混入されていたのであろう。“この”蔵馬ならばそんなこと簡単に、そして、少しの罪悪感もなくやってのける。

「・・・」

「クククッ。そんな怖い顔をするな。気持ちよくイカせてやったのに、気に入らなかったか」

妖狐は唇の端に残っていたものを、飛影にもその意図が判るように、蠱惑的な赤い舌で舐めとって見せたのだった。

「っ!・・・、変態野郎!」

「クククッ、その変態野郎に何度イカされたか教えてやろうか」

飛影は羞恥で真っ赤になる。反論出来ぬ躰が怨めしかった。躰を這う妖狐の手のひらと唇。反抗出来ぬ歯がゆさ。それでも、飛影は精一杯眼前の美丈夫を睨みつけた。

「・・・。実験、だと云ったな?」

「そうだ。監禁したらお前はどんな顔をするかのな」

監禁!

目を細めうっとりとしながら、馬鹿げたことを真面目に云う。その始めて見る顔つきにゾッとした。それは、突如として地獄に堕ちた者を、快楽的に見つめる死神の目だった。

蔵馬は再び飛影の躰を征服にかかる。

「やっ!止めろ!」

「馬鹿か、こんな状態だから意味があるんだろう」

「あってたまるか!」

「あるさ。“俺”だから出来る。“秀一”では出来ない」

金褐色の瞳の奥底から放たれる異様な気配に飛影は気圧される。まるで、その薔薇の鞭で、全身を縛られたかのような錯覚に囚われる。

「あの人間臭い奴がお前をこんな風に扱うか?答えはノー、だ。だが、奴は人一倍欲深い。毎日毎日、お前を見ていてるだけでは飽きたらず、頭のなかでは幾度もお前を汚していたのさ。クククッ、で、終に奴は狂い始めた。この俺に懇願して来た」

──貴方を“この手”で抱きたい、と。

しかし、あいつも俺も利口だ。それとも、ただの憐れな臆病者か。飛影をこんな乱暴に扱うことは出来ぬと最初から判っていた。それゆえに、妖狐の姿で暴挙にでることに賭けた。云い方を代えるならば、秀一は妖狐に悪役を押しつけた。しかし、妖狐も、最初からそれらを判っていた。そして、妖狐はあえて悪役を選んだのだった。2人に共通していたものは、この機会を逸したら、今後、飛影からの特別な感情を得られぬであろうという危機意識だった。どんなかたちにせよ、飛影からの特別は、誰にも譲れるものではない。他人から見れば、理解し難いものであったに違いないが、まぎれもなくそれらは2人の意思でもあった。

どちらか1人欠けても成り立たない。どちらも本物。どちらも本当の愛情。乱暴に愛したいと望むその真裏で、同じようにただただ優しく愛したいと願う。

妖狐は思った。1番嫌悪を抱いている奴に懇願するほど人間の俺は追いつめられていた。そうさせたのは、他ならない飛影だ。この皮肉な運命は、誰が招いたものなのだろうか。“俺”自身か、それとも、・・・

蔵馬(秀一。)が時折、そんな目で己を見ていることには、気づいていた。しかし、その人間臭い蔵馬がすぐさまどうこうするとは思えなかった、ゆえに、放置してきた。甘かったと云われてしまえば感受せざるを得ない。

「・・・、それが、なんで監禁と繋がるんだ」

「実験だと最初に云っただろう。この俺と抱き合った後、お前はどう代わるか」

同じ性を持つ男を受け入れて、なお、その気高い矜持を保てるか。この相容れない2人を、同時に愛せるのか。

「クククッ、先ずは俺がお前をじっくりと男でも感じる躰にしてやる。俺好みの、な。その後、あいつに人間風に可愛がってもらえ。2人分の時間を確保する為には、お前を監禁するしかなかろう」

「・・・」

残虐であり、且つ、絶望的なセリフを紡ぐ蔵馬だったが、ほんの一瞬、その瞳が悲しげに揺れたように飛影には見え、反論を封じられた気がした。その悲しさと淋しさが、蔵馬が本来有しているものなのだろうか、と、・・・

憐憫は、そのまま飛影の躰から逆らう意思を殺いでいた。

「なあーに、時間はたっぷりとある」

お前をここから解放する時、はたして、誰が1番の勝者となるのであろうか。蔵馬はその自分自身への問いかけに、ひっそりと微笑を浮かべたのだった。

飛影の手首からは暴れた際についたであろう擦り傷。そこからは赤々とした血が滲んでいた。妖狐は、そこに冷たくもあり温かな口づけを1つした。それは、宣戦布告であり、俺たち2人の終焉への願いであった。狂気の沼からの脱却。それは、飛影にしか出来ぬこと。貴方にしか。

さあ、俺たちを受け入れて。貴方の躰に、心に。ありのままの俺たちを──










Fin.
Title By HOMESWEETHOME



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