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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2012/03/24Sat
シュガーレスラブデー
蔵馬に相手にしてもらえず・・・



蔵馬は昨夜からキッチンにこもりきりだ。こっそり覗けば得体の知れない物を大量生産している様子だった。時折、顔だけをこちらへとヒョイと向けたかと思えば、「飛影、味見してみて」そう云いながら、薄い茶色をした食べ物らしきものを己へと渡す。

なんなんだ一体。

パトロールの貴重な合間をわざわざきたというのに、ほったらかし、いや、お預けを食らっているようで、面白くない。断っておくが、自分自身からここへ─人間界─へ来たくて来た訳ではない。蔵馬がどうしてもと云うから来てやったんだ。言霊迄用いてくるからには、それなりに理由があるのだろうと思えば。なのに、頬におなざりなキスをして終わりとはどういう了見だ。次いでに云えば、蔵馬の人間臭いのがこの日ばかりは何故か妙に鼻につくのだった。浮かれているようも見え腹が立つ。

「よし、まあ、こんなもんかな」

仕上がり具合に満足気に蔵馬は微笑み、安堵から固まっていた肩に力を抜く。全く、人間界はなにかしら行事があって困る。本音を云えば、お返しなんて造ってる場合じゃないというのに。しかし、これを疎かにしては、人間としての畑中秀一の誠意とプライドにもかかわる。誠意が、その蔵馬の胸の裡を伺い知れる術を持っていたならば、堂々と憤慨していたであろうことを、蔵馬はあくまでも蔵馬らしくあっさりそう片付けたのである。しかし、その為か、せっかくの美味しい“ご飯”の機嫌が悪くなるばかり。

仏頂面の彼の前には、彼の為だけに特製に造ったこんがりと狐色したクッキーが並ぶ。しかも、色と同種の動物。

「一体なんなんだ」

「ああ、明日はホワイトデーでね」

「ほわいとでー?雪がなんか関係あるのか?」

ホワイトデーを知らず、それどころかホワイトは白を知っていたことに多少驚愕した。しかし、そこからまた雪を想像してしまうあたり彼らしくてクスリと笑みが零れた。ちぐはぐな知識力は、見ていて飽きない。それどころか、可愛らしくて堪らない。

「雪は残念ながら関係ありませんよ。明日はバレンタインのお返しをしなくてはいけない日なんです」

やはりというべきか、バレンタインも知らないようだ。首を傾げてクエスチョンが飛び交う。まあ、そんなところも可愛らしくあるだけどね。

「ほら、先月チョコレートたくさん食べた日があっただろう」

「ああ、確かに」

蔵馬は、女性たちからもらいうけた品の数々を、1度として開けることなく、それらを甘党の飛影に全て譲渡したのだった。その事実を知った女性たちは、おそらく涙を流すことになると承知していながら。

「あれをくれた人たちに、“ありがとう”を返す日なんです」

なかには、明らかに義理ではなく本命らしき箱が数箱あったが、蔵馬からすればその他と代わらない。その為、飛影のあそこに潤いとして溶かして使用した。それに関し悪いとは思う。良心が痛まないのか、と、突き詰められたならば、大人しく両手をあげるしかみちはない。しかし、如何に愛情が込められていようとも、“ありがとう”しか返す意思が最初から備わってはいないのだから致し方ないではないか。他の感情は、この愛しい彼が独占しているのだから。返す意思を示しただけで充分と思っているあたりが、蔵馬の傲慢さをうかがわせた。が、本人はそれさえ承知だった。それゆえに性質は更に悪いと云えたであろう。

「でね、これは貴方の分、ね」

「・・・?俺は貴様にちょこれーととやらをやったか?」

飛影の記憶が確かならば、もらうだけもらって、その後はベッドで人には到底云えないようなことを散々した。いや、訂正を論じなくてはならないであろう。した、と、同意した訳ではなく、押し倒された挙げ句、あらぬ場所にその茶色の固形物を入れられこねくり弄られた、と。しかし、それだけであり、飛影は自ら蔵馬にちょこれーとをあげた訳ではない、目の前の物をいただく意味が判らない。しかも、この海千山千の古狐から感謝をお返しされた日には、次の日は雨か雪でも降るのではなかろうかと不安な雲が心中を漂う。それほど奇っ怪な出来事である。

「まあ、チョコレートはもらえませんでしたが、1番欲しかったものは食べれたので。そのお礼です、フフフ」

食べれた。その一言はこの場合明らかによけいであり、飛影のキメこまかな額に見事な青筋をたたせるには充分な効力を発揮した。こちらを食べ物扱いとは。その後、何日間かあらぬ場所がじくじくとし、蔵馬自身を銜えているかのようで散々な目にあった記憶もよみがえってきた。人を足腰グタグタにする迄ヤりやがった奴が爽やかに云うとなると、その威力は普段の倍以上にふくれ上がったのは飛影の責任ではないであろう。それゆえ、皮肉もすべらかに唇から紡がれた。

「貴様、やはり千年以上生きてきたんだな」

「・・・は?」

「オヤジギャグは寒し嫌われるもとだぞ」

オヤジギャグ。確か、幽助は「寒々しいことを云う奴にはそう切り返せば効果てきめんだぜ、ニシシ」。なるほど、な。この蔵馬にして、この落ち込みようは愉快に他ならない。いい様だ。横目で確認した後、目の前から香る香ばしい物を口にした。隣では、ぶつぶつと酷いよ、と、嘆いている姿が、狐の耳がタレ下がり尻尾迄もが項垂れている。そんな幻覚を、落ち込んでいる蔵馬から彷彿させた。

しかし、落ち込んで終わるような可愛いい性格の持ち主ではなかったのだと、すぐさま後悔した飛影ではあったが、それらの返答は全てシーツに抱かれることとなった。甘く切ない喘ぎ声と共に。

「フフフ、ご馳走さま。やっぱり貴方は美味しい、ね」










Fin.
Title By たとえば僕が



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