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The dear devil was found. It is destiny to love it if it is destiny to fight again. Oh, you are my fallen angel.


2012/02/14Tue
恋愛未遂
チョコレートの罠・・・



蔵馬と出会い、この時期のとある1日だけ、“ちょこれーと”という甘くほろ苦い食べ物を山のように食べられる。最初の頃は学校という建物に通う女たちから、今では、会社という建物に蔵馬と同様仕事とかに通う女たちから。そして、年をおうごとにそれは増えていった。苦手とする酒が入っているものでも、そのちょこれーとの甘さとの相性は抜群でありあとをひくのだった。甘党の自覚に目覚めてからは、毎年この日を楽しみにしていた。あの盗賊の名手と謳われた蔵馬から全部奪えるとなればなおのこと。断っておくが、決して蔵馬に会えるからとかそんなんじゃない。目当ては茶色い“ちょこれーと”のみだ。

だが、何故、この日なのかが判らない。長年の謎だった。

「クスクス、それはね、バレンタインだからですよ」

「ばれんたいん?」

聴き慣れぬ言葉をおうむ返しのように返す。その、どこか舌ったらずな雰囲気に、蔵馬は胸中でもって微笑を浮かべた。首を微かにひねっているその姿も、幼さとあどけなさが混じり合い、蔵馬の胸を焦がしてやまない。それらの心の動きが、飛影に対する恋愛感情のあらわれでもあった。ただ、そうとは気づいてはいない飛影。ソファーへと飛影と並ぶかたちで腰をおろし、飛影には温かなホットチョコレートを、蔵馬は珈琲を、それを口元へと運び、零れそうになる笑みをカップの端で蔵馬は隠したたのだった。

蔵馬が淹れてくれたこのホットチョコレートなるものも、その山から幾つか拝借し造ったもの。1口呑み、そのほんのりビターな味が気に入った。そうか、ただ口にするだけではなく、こうしてチョコレートを温め溶かし、ミルクとホイップを絞るという手もあるのか。苦味がミルクとホイップでやわらげられていながら、甘いちょこれーとの味を引き立てている。気に入った。

悪くない味だ。

「本来の意味とは、些かかけ離れてこの国には定着しちゃってますけどね。まあ、簡単に云ってしまえば、女の子が愛の告白を公然と出来る日ですよ」

愛の告白、・・・

じゃ、これらのちょこれーとの山は全て蔵馬への雌たちの“カタチ”なのか。

急に何故か、この美味い筈のホットチョコレートが不味く感じた。味覚障害か?それに、何故か胸がキリキリと痛み出した。心臓がなにかによって掴まれる感じが襲ってくる。それに、喉がツーンとイガイガしてきて、吐き気さえしてきた。何故、そのようになるのか判らない、それが更に飛影を苛々とさせた。

半分も呑んではいないそれを、テーブルへと戻す。ダン、と、些か手荒に戻した為に、マグカップの中身が上下左右と揺れ動き、雫のなん滴かが白を基調としたテーブルに茶色い染みを造った。マグカップからは、温かな湯気が立ち上り、甘い香りが未だ周りを包んでいた。

その甘い香りとは対照的に、急速に飛影の雰囲気は変化を遂げる。眉間にはシワがより、心なしか唇を尖らせているようにも見える。怒りを露にしているというよりも、ふてくされたようなその表情。

そのさまは、リトマス紙の実験を思い出し、内心蔵馬はほくそ笑む。無論、その笑みは表面化されることはなかったが。そればかりか、白々しく尋ねる有り様であった。

「ごめん、熱かった飛影?」

「・・・、い」

「え?ごめん聴こえなかった。もう1回云ってくれる」

「だから!・・・、もう要らないと云ったんだ、その紙袋の山も一切要らん!」

「どうしたの、チョコレート大好きじゃない貴方」

魔界に帰る際にと、その山のようなチョコレートたちは、蔵馬の配慮から飛影がテイクアウトし易いようにと、幾つかの紙袋のなか。色とりどりのラッピング、可愛らしいリボンがその紙袋からのぞいていた。途端に、それらが疎ましい存在へと代わってゆく。あれほど、心を踊らせていたというのに、今は憎々しいとさえ思えてならなかった。

キッ、と、蔵馬とその紙袋をその赤く燃え上がるルビーで一瞥し、またしても声高く宣言する。

「兎に角、要らんもんは要らん!棄てろ全部!」

その憤怒にも似た勢いのまま、飛影はベランダへと素早く移動し、重力を感じさせない軽やか足取りで、月の明かりが優しく舞う夜の空のなかへと消えて行った。

残された蔵馬は悲哀に嘆く。・・・、ことはなかった。ひっそりと意味深に笑ってさえいたのだった。誰をも魅了する深い翡翠の色を見せる瞳を細め、かたちのよい唇の端だけが奇妙な角度で上がっていた。それは、どこか妖艶であり、見る者を知らず知らずのうちに、凍りつかせるなにかが含まれていた。

クスクス、あともう少し、かな?

甘い香りの種。それは、今、漸く彼の指先を絡めとったことを蔵馬は確信したのだった。実を結ぶ迄、もう少し。また、ここにおいで飛影。貴方の為にたくさん用意してあるんだよ。甘い甘い罠を。貴方が恋愛感情に気づく迄、その甘い種をまいてあげるから、美味しく食べて。いや、食べさせてあげる。そして、その実は、こんなチョコレートなどより、もっと甘いと、その時は教えてあげる。貴方の心にも躰にも、ね。逃がさないよ飛影。だって、俺は狙いを定めたものは1度として逃がしたことがない、“あの”妖狐蔵馬なのだから。

消えて行ってしまった彼方を眺めやり、テーブルの上から立ち上る湯気に視線を戻す。そして、おもむろに足を組み、誰にも真似出来ぬ優雅な仕種でもって、蔵馬はその甘くほろ苦いホットチョコレートを1口啜った。

「フフフ、悪くない味だ」









Fin.
Title By たとえば僕が



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