◎ 32
「……誰だお前、この子の彼氏?」
翔音くんは何もいわないでこちらを見ている……いや、睨んでいる。
な、なんだろうこのまたもナイスタイミングな状況。
まあでもナイスタイミングじゃないとどうなっていたかわかんないから嬉しいけどさ。
………にしても、なんか翔音くん……息切れしてる?
あ、人の事いえないか私も。
「……なあ、こいつすっげえ美少年じゃね?」
「俺も思った、この子より上玉だよな」
おい今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。
確かに翔音くんは美少年だけどさ……何、兄ちゃんたちそういう趣味!?
しばらく沈黙が続くと、兄ちゃんたちはため息をつく。
そしてやっと諦めてくれたのか、この場を去っていった。
「………」
「………」
うわ、どうしようこの気まずい空気。
私があたふたしていると、翔音くんはふらりとどこかへ歩いていってしまった。
あれ、どこいくんだろう。
それにしてもなかなか体力が回復しない。
目をつぶってふぅと息をはく。
でもさっきはほんとに助かった。
抵抗できないことがどんなに怖いか、今ならわかる気がする。
そんなことを考えていると、頬にヒヤッと冷たいものがあたった。
「ッな……!?」
「……お茶」
どうやら翔音くんは飲み物を買ってきてくれたみたい。
ああああよかった、ちょうど飲み物欲しかったんだよね、まだ喉痛いし。
「あ……ありが、と」
私はお茶を受けとると、すぐに飲みはじめる。
うわああ喉が潤うわあ……!!
すると翔音くんも私の隣に座った。
……やっぱり、ちょっと疲れてる?
「……さっき、何してたの」
「……え?……あぁ、えと……何っていうか………ナンパされたっていうか……」
「なんぱ?」
ああああそうか、ナンパの意味を知らないときたか。
簡単にいうと男が見ず知らずの女に声かけて遊びに誘う……だよね、多分。
自分でも曖昧だけど簡単に説明してみる。
翔音くんはわかったようなわかってないような顔だった。
ごめん、私説明下手だわ。
あれ、今思ったけど、こんなこと教えなくてもよくない?
うわっ、翔音くんにいらない知識教えちゃったよ!!
「なんぱって嬉しいの?」
「え!?いや……嬉しくないよ、むしろ……迷惑、かな。私の場合はね」
「……ふーん」
まあそんなの考えは人それぞれだし、完璧な答えはだせないけど。
「……そういえば、翔音くんもなんか息切れしてるみたいだけどなんかあったの?」
私はさっきと比べてだいぶ良くなった。
翔音くんはもうなおってるみたいだけど……。
私の言葉にピクリと反応すると、さっきよりだいぶマシだが、こっちを睨んできた。
「……誰のせいだと思ってんの」
「え……わ、私?」
「他に誰かいる?」
「うっ……え、と……」
こ、怖ェェェェ!!
殺気立ってるぅぅぅぅ!!
もしかしなくても地雷踏んじゃった感じですか私!?
「……アンタが、」
「は、はいっ!!」
「……さっきのベンチのとこにいなかったから……」
「……あ」
兄ちゃんたちに連れていかれた後か。
あの場所に戻ってきてたんだ……。
「アンタをさがしにきたんだけど」
「……!!」
……そっか、だから息切れしてたんだ。
「……変な人になんぱされてるし」
「う゛っ……、あああああれは、ふふ、ふ不可抗力というもの、でして……」
「……どもりすぎ」
うわあ嫌だなあ、あの人生初のナンパは私の黒歴史に刻み込まれたよ。
「あの……あ、ありがとう。ほんとに、助けてくれて」
「……別に」
「えと、それから……ごめんなさい、心配……かけちゃって」
「ほんとにね」
「うぐ……っ」
ばっさりいうなあ翔音くんは……。
あれ?待って……。
「……心配、してくれた、の?」
「心配?」
「う、ん……」
「……したよ、心配」
私は目を見開いた。
聞き間違いだと思ったくらいだ。
でも翔音くんは真剣な顔で……………あ、いや、無表情だわ。
でも、翔音くんの口からそんな言葉がでてくるなんて、思ってもみなかった。
「……具合悪いくせに、いなくなってるし」
「……う……ごめんなさい」
「さがすこっちの身にもなってよね」
「……スミマセンデシタ」
な、なんで翔音くんこんな不機嫌なんですかああああ!?
怒ってるよ、なんか怒ってるよ!!
やっぱり心配っていうより迷惑かけちゃったかな……!?
「……はぁ」
「、か……翔音くん?」
「……でも、よかった」
「え?」
「何もなくて、よかった」
若干目を細めて、翔音くんは優しく微笑んだ。
まだまだぎこちないけど、確かに笑っていた。
「わ、笑った!!」
「、?」
「翔音くん、今笑っ………あれ?」
微笑んだのはほんの一瞬だけで、すぐにいつもの無表情に戻ってしまった。
「あぁぁぁ……残念、貴重な翔音くんの笑った顔だったのに」
「……は?」
「写メりたかったのに……」
「……ほんとに反省してんの?」
「はいっ、もちろんしてるであります!!」
「…………はぁ、もういい」
翔音くんは呆れたようにため息をついた。
また見れた、翔音くんの笑った顔。
自分ではよくわかってないみたいだけど。
けど私も彼がどのタイミングで笑うのかは不明である。
笑ってる自覚があればいいんだけどなあ。
まだまだ時間がかかりそうだ。
「……いくよ」
「あ、うん」
「……多分みんなもう戻ってきてると思うから」
「……?え、翔音くん1人でさがしにきたの?」
「それが何?」
「いや……、助けてくれたのは嬉しいけど、翔音くんもみんなと乗り物とかに乗らなかったのかなあって」
「…………病人1人にするのはまずいって事になったから……」
な、なるほど。
多分玲夢が気きかせてくれたのかな。
ていうか私の状態がどんどん悪化してないか?
別に病人ってわけじゃないんですけど!!
2人で元の場所に戻ってみるとすでにみんなもそこに集まっていた。
玲夢が申し訳なさそうな顔をしていたから大丈夫だよといっておいた。
けどどうやら私がナンパにあって連れていかれたということは知らないみたいだ。
あんまり言いたくないからとりあえず散歩ってことでごまかしておいた。
……やっぱり、翔音くんは1人であそこまで来たんだ……。
そのあとはまたみんなでアトラクション乗りまくったり、お土産を買ったりした。
せっかくだし時雨さんたちにもお土産買わないとだもんね。
そして日が暮れてきたところで今日は解散ということになった。
1ヶ月くらいみんなと会えないからちょっと寂しいけどね。
ちなみに玲夢からのお詫びでクッキーをもらった。
帰ったら朔名と翔音くんにもわけようかな。
「……ねぇ翔音くん」
「……何?」
「今日は、ありがとう」
「………」
「嬉しかったよ、助けてくれたことも、心配してくれたことも、全部」
「………」
「……ちょっとね、怖かったんだ。でも、あの時きてくれたおかげで少しほっとしたから……」
「………」
「だから、ありがとう」
「…………別に。何もないなら、それでいい」
相変わらず無表情で、照れもしない。
翔音くんらしいや。
でも………、
「……成長したよね、翔音くん」
「……そう?」
「うん、ちょっとずつだけど、いろいろ覚えるし、バイトもふくめて誰かのために動いてるし」
「………ふーん」
ほんと、最初と比べて成長してるよ。
知識も礼儀も常識も、ちょっとずつ覚えてきている。
それはとっても嬉しいことだ。
……けど、まだ1つ足りない。
それさえ覚えればすごい進歩なのになあ。
32.笑って?
(ってことで私とにらめっこしない?)
(やだ)
(うわっ、即答!?笑ってよおおおお)
(やだ)
(ええええ)
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