◎ 31
「あれ、翔音クンは1人なんだ?」
「……気づいたら1人になってた」
つまり迷子か。
「じゃあ俺たちとまわろうか。翔音クンがいたほうが芹菜チャンも安心するだろうしね」
「………安心?」
「え……何それ、どういう意味?」
「そのままの意味だけどー?」
にこーっと笑う新井くんに少し疑問を持ったが、3人でまわるのは賛成だ。
私たちは翔音くんも一緒にまわることにした。
「ひぎゃ……っ!!」
「ふぉぁ!!」
「あたぱあああああ」
「……それ悲鳴なの?」
暗闇を進んでいく中、脅かされるたびに悲鳴をあげる私。
そんな私に翔音くんの呆れたような一言。
悲鳴だよ、悲鳴以外のなんだって言うんだ!!
「……あ、あれ?そういえば新井くん、は?」
何故か姿が見当たらない。
「……いないね」
「え………ま、まさか迷ったのかな……」
「………」
翔音くんの次は新井くんが迷子ですか!!
どうなってんのこのお化け屋敷の構造はっ!?
「な、なんか……迷子になりやすいのかな……ここって」
「……さあね」
「……みんなも、迷ってたりして……」
「………」
「あ、でもみんなお化け屋敷好きそうだったから、大丈夫……かな」
「………」
「いざとなったら、脅かし役の人に聞くってのもあるし………、ちょっと夢壊しちゃうけど……」
「……よくしゃべるね」
「…………え?」
前にいる翔音くんがこちらに振り返った。
「……そんなに怖い?」
私は一瞬言葉につまった。
この場合どう答えればいいのか。
《こういうときくらい素直になりなよ》
「……怖……い、」
さっきいわれた言葉が頭に浮かび、気づいたら私は口を動かしていた。
「……今日は素直だね」
「う゛……っ」
「前に夜の学校いったときは意地張ってたのに」
「………そ、それは……」
素直に答えたはいいものの、普段こんなこと言わないから無茶苦茶恥ずかしい!!
私のキャラじゃないこんなのはっ。
「……はやく出ようか」
「……え?でも、ここ道がわかりづらいし……また迷ったりはぐれたりで……」
すると、翔音くんはパシッと私の手首を掴んだ。
「……もし迷ってもこれならはぐれないでしょ」
「……!!」
そしてそのまますたすたと歩き出した。
当然私も歩くはめになるんだけど……。
「ちょぉ………、かっ翔音くん……っ!?」
「……何?」
「て、ててっ手……、手!!」
「………ててって?」
うわああ伝わってないよ馬鹿ああああ!!
手だよ手ェェェェ!!
なんでこう物事ストレートにいくのっ、いろんな意味で緊張するじゃない!!
私の心の叫びも虚しく、翔音くんは手を離してくれない。
……出るまでこのままなのかな。
う………、それは恥ずかしい。
「あ」
「……え、何?」
翔音くんの声に顔を上げると、少し先に出口の明かりが見えた。
やった、やっとでられるんだ!!
「はやく出よう翔音くん!!」
「……ん」
私は出られる嬉しさにさっきまでの恥ずかしさも忘れて、今度は私が翔音くんの手首を掴んでいた。
そして小走りで出口に向かった。
のがいけなかった。
出口付近に来た瞬間、天井からグロテスクな生首が釣り下がってきたからだ。
「ひぎゃあああああああああ!!」
「っ、ちょ……!?」
私は翔音くんの手首を掴みながら恐怖のあまり猛スピードで出口へと駆け抜けた。
「はぁ……はぁ……、」
「………っ、」
なんだろう、今までで1番速く走れた気がする。
人間ってすごいや。
「はぁ……まさか最後にあの不意討ちとは……」
まださっきの生首が頭に浮かぶよ。
ああ気味が悪い。
「芹菜ーっ!!」
玲夢たちがこっちにかけてきた。
「あ……、れ、玲夢……」
「……っていうか芹菜も翔音くんもなんでそんなに息切れしてんの?」
「え、あ………あは、はははは……」
私はとりあえず笑ってごまかした。
だって生首が怖すぎて逃げてきたなんていえないじゃん?
「ねえ芹菜チャン」
玲夢が翔音くんをつれてみんなのところにいったあと、新井くんは何故か私のもとにきた。
「な、何……?」
「素直になってよかったでしょ?」
「……え、」
“なんのこと”と思ったけど、1つだけ思い浮かんだのは、私が翔音くんに“怖い”って打ち明けたこと。
そういえばあのとき新井くんはいなかったはず、だけど……。
「……エスパー!?」
「頭大丈夫?」
うわ、真顔でいわれた!!
「だって俺がいたら素直になれないと思って」
いつものニコニコ顔でいう新井くん。
もしかして、わざと迷子になったってこと?
……なんのために?
「うーん、素直な芹菜チャンを見てみたかったからかなー、面白そうだし」
「うわああああ勝手に人の心の中を読むな!!プライベートの欠片もないッ!!」
「プライバシーね」
新井くんが何をしたいのかさっぱりわからないが、ここで玲夢たちに呼ばれ、会話は中断した。
おっと、そうだ、今は遊園地にきてるんだ。
もっと楽しまなきゃ損するよね!!
次は何に乗ろうかなあ。
31.私で遊ばないでください
(先輩、次何に乗ります?)
(ジェットコースターにしようぜっ!!)
(わかりました、じゃあ昼食にしましょう)
(俺のはなし聞いてるッ!?)
((……さすが桐原くんだ))
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