29


そのまま流されてしまい、さっきのことは聞けずじまいになった。




そのぶん英語を叩き込まれました。



頭の中で単語とかがぐるぐるしてます。




テスト前っていつもこうなる。


単語とか公式だとかが延々とまわって他のことが考えられなくなるんだ。



考えると覚えたことを忘れそうで怖いんだよね。








「ああああ疲れたーっ、みんなちょっと休憩にしない?」

「さんせーい、休憩しよーぜ!!」




玲夢と橘くんの声にみんな手を一旦休めた。





ああなんか肩こる感じがするなあ、疲労かな。







「私、ちょっと息抜きに外いってくるね」

「あ、今休憩なので紅茶とケーキをお出ししようと思ったのですが……、芹菜さんどうします?」

「あぁぁ……、じゃあ戻ってきたらいただこうかな」

「わかりました。外への道はお分かりですか?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう柚子」






お礼をいうと私は柚子の部屋を後にして外へ向かった。








それにしても広すぎるこの家……というか屋敷?




まあ外へいくには1階に降りるだけだから問題はないけど、目的の部屋を探すのはかなり難点だろう。





………戻るときは気を付けなきゃね。






そんなことを考えているうちに外へと通じる扉へたどり着いた。



そしてそのやたら大きな扉を開けて外へ踏み出すのだ。




「あああやっぱり外は最高っ!!」




庭の真ん中にある噴水のところでぐーっとのびる。



もう夏だから日差しが照りつけて暑いけど、近くの噴水が若干はねてくるから冷たくてちょうどいい。





たまにはこういう気分転換も悪くない。








にしても眺めがいいなあこの庭。



私も1度でいいからこんな家に住んでみたいものだわ。







朔名、頑張って。




「……ふわぁぁ…………、」






ね、眠い……。



やっぱり疲れてるんだなあ、ちょっとくらい寝ててもいいよね。







あたりを見回すと、噴水から少し離れたところに木でできたお洒落なベンチが目にはいった。





ベンチあるんだ、ちょっとお借りしますよ柚子。




ちょうど隣にある高い木で日差しが遮られているから、わりと涼しいので心地よかった。




ベンチに座って目を閉じると、そのまますぐに眠りについた。














「……ねえ、芹菜遅くない?」




時はすでに18時。

夏なのでまだ日は高い。





「そうですね、もうあれから1時間以上たってますし……」

「道に迷ってんじゃねーのか?」

「方向音痴そうな顔してますしね、芹菜先輩」

「いうねー棗クン」

「………」








ガタッ





「あれ、どうしたの翔音くん?」






「…………見てくる」











「やーっぱいい奴だな翔音はっ」

「顔にはださないけど、芹菜チャンのこと心配なんだね」

「もうカッコイイし優しいし、翔音くん完璧っ!!」




「……じゃあこのケーキは持って帰れるように箱にしまっておきましょうか」

「お、それ芹菜の分のケーキか!?なあなあ俺が食べちゃダメか!?」

「食べたいですか?」

「いえ、いりません」




ぽかぽかしていてとても暖かい。


あ、そうだ……今は日陰で寝てるからだ。




あれ………なんで寝てるんだ私……?




えーっと……あぁ確か疲れたから、だっけ。




どれくらい寝たのかな、時間が全くわからないや。







「……て、……」





……声がする。



なんか、似たようなこと前にもあったな。


この声、翔音くん………?




……私の隣にいるような気が………。










「……起きないと、どうなっても知らないよ」





「ッ!!??」









私はバッと起きた。





いいい今のは、翔音くんなのか!?




隣を見ればやっぱり彼がいた。







「……はよ」

「い、今……耳元で……っ」

「……そのほうが起きると思ったから」







そりゃあ起きますよ、耳元であんな低くて囁くように言われたらさあああ!!




あなたは確信犯ですかっ!?







それに、“どうなっても知らないよ”って………何をする気ですか!!






また隣をみると、いつのまにかベンチに座っている翔音くん。




相変わらず何を考えているのか全くわからない。







「……もしさ、」

「?」

「起きなかったら、何するつもり、だった……の?」








って、何聞いてるんだ私!!


こんなことしてなんになるんだ!!






翔音くんは少し考えるような素振りを見せたあと、私に視線をもどす。









「顔に水をかける」

「ですよね」



うん、わかってたよ。




「……それより、」

「え?」

「みんな心配してた」

「……心配?」

「……アンタがなかなか帰ってこないから」






ああそういえばすぐもどる的なこといったもんね。


やっぱり結構寝てたんだ、私。






「ありがとう、わざわざ迎えにきてくれて」

「……ん」





軽く頷くと、翔音くんは立ち上がってゆっくりと歩き出した。



私もあわてて彼についていく。





だいぶ寝たから頭の中がスッキリしたなあ。


戻ったらまた勉強しなきゃだけど。






あ、そうだ、その前に……、






「ねえ翔音くん、昨日の帰り道のことなんだけど……」

「?」

「……えと、私と会話したあと…………、わ、笑った……よね?」




私はおそるおそる翔音くんの顔をみたが、彼はきょとんとしていた。




あれ、まさか覚えてない!?






「……記憶にないけど」

「ほんっとに僅かなんだけど、笑った!!………気がする」

「……?」





やっぱり覚えてないのかあ。


もしかして無意識だったのかな。





「……翔音くん、」

「……何?」

「“にこー”って笑ってみて」

「……にこー」

「誰がリピートしろっていったの」






だめだ、笑ってくれない。



私の見間違いだったのだろうか。







そうじゃないと、いいな。



やっぱり、笑ってくれたほうが嬉しいし。





……けど、なかなか難しそうだ、笑わせるのは。







「……何してるの」




ハッと気づくと、私はいつの間にか立ち止まっていたらしい。





「……置いてくよ」

「ああああ待って待って!!」




私は小走りで翔音くんについていった。








もう1回くらい見たいな、あの笑った顔が。



29.甘い展開なんて皆無

(芹菜ってばおそーい!!)
(ごめんごめん、寝ちゃってたみたいで)
(安心してください、芹菜さんの分のケーキは無事ですよ)
(……“無事”?)


(……こわいこわい……北条こわいっ)
(……………………(ああ、なるほど))



→オマケ

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